第163話:〝介入者〟
「あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば…………!!!!!!!!」
唐突な激痛が全身を駆け巡り、ハッと気づくとそこは立派な絨毯が敷き詰められた廊下であった。
ただし、天井からロープでぐるぐる巻きにされて逆さ吊りの状態でだ……。コイツは一体……と疑問に思うよりも先に、ジョシュアには心当たりがあった。
「お目覚めになられましたか、殿下ぁ?」
かけられた予想通りの声は何処か媚びるような声色、当然煽って来ている。その証拠に、顔を向ければ廊下の奥、背後の窓から差し込む月明かりに照らされる黒い制服姿の二つの人影は、両手を腰の後ろで組んで下卑た笑みを浮かべている。頭が高いどころの騒ぎではない。
こんなことをやってくれるのは限られている、まあ罪状的に他の誰に吊るされても文句は言えないのだけれど。リズミカルに左右に身体を動かすノッポとチビは幼馴染でもある二人だ。
「殿下ぁ、落ち着いて聞いてくださぁい……殿下は捕縛されちゃいましたぁ」
「……だろうよ」
クオンの間延びする語尾にイラッとしながら返事を返すと、オーバーリアクションでノエルが続く。
「ええーっ! えええーっ! わーお、クオるん。この変質者反省の色が無いよー? やだぁここ女子寮なんだけどー?」
「応、いけませんねぇ? 真・狼牙もう一発キメとくかぁ?」
言いながらクオンリィが右手の指をワキワキと動かせば、指の間にパチィと電光が弾けた。――さっき起こされたのはコレか。
まあ女子寮に潜入、それも三人の部屋の近くに潜伏しなければいけないという高難度ミッションを遂行したのだから、もし見つかればこうなる事は流石にわかっちゃいた、わかっちゃいたけれど、今夜夢に出なかった時ヴァネッサの機嫌が悪くなる方が嫌だったのだ。
「まあ待て、待てよクオン、待てって、ノエルも手頃な角材で素振りをはじめるな。
いいかい? 今夜僕はヴァニィに呼び出されて夢魔法を使いに来たんだ。決してやましい事は考えていないし、キミたちは僕がヴァニィに夢に出て来るよう言われた時近くに――」
「きぃーてませぇーん!」
「ざぁーんねんでしたーぁ!」
ヒャハと下水笑顔で、抜群のコンビネーションを見せるクオンとノエル。勿論聞いていた、だからこそ、この時間まで制服姿のまま警戒を密にしていた。作戦名は「ちょっと今夜は王子吊ろうぜ」である。
「うそつけぇ聞いてただろうが!? ヴァニィにお返事してたよなぁ? 生返事か? そうなのか? 言いつけるぞ!? いいか二人とも、その足りない頭でよーく考えたまえ。いつもいつもいつもいつも何度も何度も言っているけれど、僕はこの国の第二王子なんだよ? キミたちの家は伯爵家と子爵家だからね、上から王家、公爵、侯爵、伯爵、子爵」
「おーけー、こうしゃく、はくしゃくだから私は三番目ですね? だから何だってんですか? 眼鏡割るか?」
「無礼だっつってんだよ! あと公爵と侯爵は別物だからな!? 伯爵は四番目だしお前ん家名誉伯だから厳密にはもっと下!」
「まあ三番も四番も僅差ですね、四捨五入でゼロですからノーカンですね」
「位階を四捨五入すんな!」
「もー、クオるんはおバカちゃんだなー、まあアタシん家は子爵家って言ってもノワールの直参だから、ジョシュアは殴り放題だけどー」
ジョシュアにとってこの茶番は十年以上繰り返されてきたやり取りだ、どうにもこの二人には人間の言葉が通じない疑いがある……「くっそ……」逆さに吊るされたままもがく様に身体をぎったんぎったん動かしていると、フッと下半身の結び目がわずかに緩んだ気配があった。
――いける!
「ダメでェーーす!!」
「あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
勢い良く尻にぱちーんとクオンの右手が叩きつけられた瞬間、弾ける電撃がジョッシュの全身を奔る、ノリはギャグだが威力はガチだ。……尻?
確かに何かすーすーするような? ふと気になったジョシュアが痛みの中、吊られたまま器用に首を巡らせて自らの下半身を確認すると、綺麗にケツだけ剥き出しになっている。おうせくしー。
せくしーじゃねえよ。
「――ちょ! おい! なんでボクのお尻が剥き出しなんだ!?」
「コイツがやれってー」
「おいノエるん、ナチュラルに売ってんじゃねぇ。
――剥いた方が効くからです。どうですか? ケツホールから脳天まで……痺れたでしょう?」
薄闇の中、得意げな笑みを浮かべる隻眼には、魔力残滓の紫光が僅かにちらついている。
獲物を前に舌なめずり……三流、五流結構、もはや早贄同然生贄同然の尻出し王子に何を遠慮する事があろう。
「嫁入り前の娘が恥じらいを知りたまえ!!」
「ッは! テメェのプリケツなんざ見飽きましたよ」
「ばーかばーか」
「っきっさっまっらあ……ッ!!」
伊達に長い付き合いではない……おかげで(?)尻を見た事があるのもお互い様ではあるのだけれど、そんな些細な事で躊躇するおバカちゃんズではない、こんな事ばかり子供の頃の事とすっかり割り切っている。うん、とりあえずもしも時間が戻るのならば幼いうちに親から礼儀を習え……。
「つーかさぁ……」
トーンの落ちた声色が発せられると、周囲の気温がぐっと下がったかのような気配を感じる、「冗談はここまでだ」と雰囲気が変わる。
「女子寮侵入犯が口答えしてンじゃネーゾ――」〝ビキッ!?〟
「……王妃殿下に御報告しなきゃー……」
「……ひっ」
侍が威圧し忍者が的確に急所を突いて行く。ジョシュアとて所詮は一四の小僧……ママはおっかねえ。
なお、煽りまくっているノエ子とクオ美も共にママが弱点、片や文字通りの雷雨で、片や誰も気付かないうちに忽然と、ブットバされる……。
王妃様ことジョシュアママは、西部産ではないのでそこまでバイオレンスなババアではない。けれど、貴族、王族としての振る舞いには人一倍うるさい所がある。
入学早々婚約者がいるからと女子寮に潜入したなど、一四にもなって公開お尻ぺんぺんも必至の案件であった……。
「は、母上……ッ!? ま、待て……待って、待ってくれ、待って下さいッッ!!」
ジョッシュ、必死の命乞い。
第二王子だなんだ言っても、男としての尊厳は守りたい。公開お尻ぺんぺんなど五年前の玉座爆破事件以来の地獄である。
……ええ、爆破しました、ヴァネッサが。
座ったらおならの音がするクッションあるじゃない? アレのノリで仕掛けたらしい。
結果。――陛下、空へ。
ボシュウウウウウウ!!!! と勢いよく椅子に仕掛けられたスラスターから火を噴きながら王都サードニクスの空へと離陸していく陛下。キャッキャ爆笑しているようじょ達。
それはさておき、あの時は王都中に中継された上に、主犯の〝黒い三連星〟はしれっと我関せずを貫いたというジョシュアにとってのトラウマ案件であった。
まあ、「僕が罪を被る!」とかカッコつけた結果「じゃあよろしく」となったというだけの話であるけれど。
その上、おかげで当時からスットコドッコイな第一王子フェルディナンドの評価が相対的に高くなったというジョシュアにとっての屈辱を味わったのだった。
「どーしよっかなー」
「考える余地も無いでしょう? この期を逃すかよ……いいですか? ヴァニィに気付かれる前にここでヤッちまうぞ、いいですね?」
「おいおいおいおいおいおい! 待て待て待て待て待て待て待て待て鍔から指を離せ、話が変わってるぞ? 母上に言う言わないの話からこんな身動きが取れない状態の相手を一方的に斬るかどうかに話がすり替わっているね?」
「何か問題ですか? 問題ないですね?」
「ないよー」
「言っとくけれどそれを決めるのお前じゃねえからな!!」
思わず言葉を荒げて抗議するジョシュアであったけれど、それが無駄なあがきであることは本人が一番わかっている……。しかし、それでも声を荒げるのには理由が――。
ガッ!
「!?」
普通に痛い、え? 何? 草履で顎蹴られた?
「……黙れ、いいかげんヴァニィが起きます。静かにしろ」
「……」
じゃあ拘束を解け、電気を流すな、と言いたいところだけれども、口答えできない……。
暴力で物事を解決させる類のヤカラからの、本気威圧の気配であった……まじおっかねえ、流石に対人の実戦を経験している〝本物の軍人〟だ。ジョッシュも従軍経験があると言っても結局国内の〝賊〟を相手にする〝王領騎士団〟の後方で控えていたばかり……。
最前線で国外の軍隊相手に文字通りの命の奪い合いに身を置いていたガチ武人の威圧は格が違う。
そう、声を荒げていたのは、死ぬほど寝起きの悪いマイスィートハニーに声が届いてむっくら起きて来ねえかな? という期待を込めてのものだ……もっともその気配は無いけれど……。
――でもさ、いいかげん起きても良くない? さっきまで夢の中にいたけれど、ボクいきなり消えた感じだよね? 夢の中どうなってんの? ヴァルターとしりとりでもしてんの? 自分の夢ン中で?
「くっ……ま、待って、くれ……ください、戻らなきゃいけないンだ、あの〝夢〟はおかしい」
「えー? どーしよっかクオるん?」
「いや、いい……言え」
くいと顎をしゃくり上げて発言を促しつつ、左手の刀を鍔に指をかけたまま肩に担ぐ。これでもヤろうと思えば即座に抜ける状態だ。
しかし、所作に反してクオンリィの内心は穏やかではない……何しろ……おかしい〝夢〟には心当たりがある、ありすぎる。
「ヴァニィの夢がおかしかった、黒耀城が……戦場になっていたんだ……」
「……ッ!!」
刹那、静謐な水面に一滴の水滴が落ちて波紋が広がるように蘇るのは銀朱城の〝悪夢〟――。
遠い日の思い出に縋り、棄てた筈の恋心、斬りたくなかった者を斬り、斬るべきを斬れず、護るべきを護れなかった……挙句、帰る事すら叶わなかった、無様。見開かれた隻眼が僅かに震える。
――嗚呼、どうか辿らないで欲しい。そんな〝悪夢〟だ。
「黒耀城が戦場って……言ってる事解ってる? ただ事じゃないよ? それホントにヴァニィちゃんの夢?」
ノエルのトーンも真剣みを帯びる、たかが夢の話とは言え、婚約者であり《闇》の希少魔統を持つ王族の発言とあれば世迷言と無視も出来ない。
「……ノエル、マジだ」
「クオン?」
「……私のユメの話に繋がってきます……まだ詳しく話せてねえヤツだ」
「――ッ!」
息を呑み、そして瑠璃の双眸から瞼が消える、相棒の表情を曇らせている元凶、その手掛かりが探し始める前から転がり込んできたようなものだからだ。
「話せ、いや、まずヴァネッサ様は無事なンだろうな」
「まずは拘束を解こうと思わないか?」
「……チイッ」
不快感を隠そうともせず響く舌打ち、それと同時にクオンの右手が一瞬消え、一瞬遅れて尻丸出し王子が頭から廊下に落下する。
毛足の長い絨毯張りなので別に痛くもないけれど、王子としてのプライドだけが痛い、とりあえず急ぎズボンを直しながら、ずれた眼鏡越しに一睨みだけは返そう。
そのジョシュアの態度から、差し迫ってのヴァネッサの危機はないと判断した二人は横目で一度視線を合わせてから軽く顎を引きあった。
「それで、敵戦力と規模は……いえ、〝魔王軍〟ですね?」
「どうしてキミがそれを……!? いや……そうか、あの偽者はそうか、本当にキミから姿を奪っていたのか」
「……ァア? クソが、私が負けた事になっていやがるのか……〝策謀〟のクズですね?」
「ああ、キミを中途半端に模倣していたから完封させてもらったよ」
担いでいた刀の位置を無言で左の腰に据え直す……、言外に「喧嘩売ってんなら買うぞ?」と言わんばかりである。
「クオン、マジな話の最中だよ、抑えて……ジョシュアが夢に入らなかったら、ヴァニィが偽クオンと戦う事になった、そういう事だね?」
「ああ」
「ッだったらナンだって言うんですか! ジョッシュに凌げるハンパな模倣の私なんざ! ヴァニィが歯牙にもかけるものですか!!」
実際そうもいかなかったのだ、ジョシュアが居なければ、たとえ負けなくても、ヴァネッサは〝策謀〟に勝つ事が出来なかった。
「言ってわかるコトじゃ無いのだろうな……」
いわば近衛という立場でありながら、同時に主君の御学友どころではない、大切な存在と認識されている事。『ヴァネッサ泣かすに小細工要らぬ、クオンかノエルを討てば良い』というやつだ、うんフツーは無理。
けれど、それが実際に成されたなら、彼女は驚くほど脆いというのを改めて目の当たりにしてしまった。
今回は幸いにして夢の中、《闇》魔統の領域内だった……けれど、もしもそうでなかったのならば……? 現実、クオンリィが討ち取られ、ヴァネッサが佩き慣れぬ〝魔鞘・雷斬〟を腰に戦地に立つことも無かったはずだ。
薄情な話だけれど、魔法学院在学生は従来の軍籍を一旦解除され、例外なく〝王領騎士団魔法師団〟に配属される。故に本来〝あの年齢では〟在学生のヴァネッサが〝黒耀城〟に独断で駆け付ける事は軍規違反だったりする。故に、実家の危機であろうが
軍規違反くらいで歩みを止める女では勿論ないけれど、本人は兎も角リチャード侯爵も夫人もそこは一応厳格だ……一応。無理矢理帰ったところでよほど手遅れでもなければ簀巻きにされて王都に送り返される事であろう。
「事実、夢の中でヴァニィの《魔弾》は偽者のキミに通用していなかった」
「ッ! そんなモンたかが夢でしょうよ!? 」
「たかがと括れる話でない事は、キミが一番理解っているのだろう……ッ!?」
たかが夢、されど夢。
理解っている、口惜しいけれど、それは理解っている……口端をきつく結び、隻眼の睫毛を伏せる。
「……チイッ」
「今は情報だ、一体何の因果でヴァニイがあんな夢を見た……? 昼間のカノン君の件も関係しているのか?」
「……あん? ジョッシュ、お前フィオナのあの夢、内容は見えてなかったんですか?」
夢の中に私ら送ったのはお前でしょうに? と疑問符を浮かべ、相方と目を見合わせる。そこはノエルもまた同意のようだ、自分の魔統でそんな事あるの? と。
「……機密だぞ、《這闇[夢送り]》は、今日使ったのが初めてだというのをまずは理解してくれ……」
「チイイッ」
「人体実験じゃーん」
「ヴァニィの要望だ、否やと言えるか」
「ならしゃーねぇ」
「ンだねー」
「……続けるぞ。任意の夢を人に見せる魔法はこれまでに何度か使ってきた、かかってしまえばほぼ一〇〇パーセントボクの思い通りの夢を見せる事が出来る、《這闇[喰夢]》と呼んでいる」
一息、茶々は入らない。
「……でだ、結論から言えば他者の夢に介入する場合、介入するまで其処がどんな夢かはわからない。キミ達をカノン君の夢に送り込んだとき、恥ずかしながら三人も同時に一人の夢に送り込むのは無理があってね……ボクは送っただけでグロッキーさ」
一部嘘がある。その気になれば自身も乗り込む事はできた、なぜしなかったのかと言えば、ヴァネッサからその場を頼まれた通りその場にもう一人の男子がいたからだ。
これもまた《這闇》の夢魔法の欠点と言えるものだけれど、夢に潜っている間は、自身も昏睡状態に陥る為無防備である。今回とて逆さに吊るされて《雷迅[真・狼牙]》を撃ち込まれるまで目覚めやしなかったのだから。
「だから、カノン君の夢の事は――」
「あのさァ……」
笄を取り出し、ジョシュアの言葉を遮りながらコリコリと耳をかっぽじるクオンリィ。ええ、勿論その笄はリントです。
「な、なん――」
「は・な・し・が! なっげぇーンですよ? 『自分が夢に入らないと内容まではわからない』の一言で済みますよね? そうですね?」
思ったよりデカイ耳クソが取れた、流石リントの笄である。さっさとフッと吹き飛ばしてから笄櫃に素早く納めつつ、呆れ顔で言う。間違っていないのでジョシュアも眼鏡の位置を直しつつ、無言で顔を背ける。
「まぁいいです、相っ変わらず説明が下手ですね? フィオナの見た悪夢は知らねえ、私の見た悪夢も知らねえ、ヴァネッサ様の見た悪夢には介入したから内容を知っている、と」
「……まあ? ヴァニィの夢の内容から、クオンが見た悪夢とやらでキミが魔王軍と戦い、〝策謀〟とやらに敗れたという事は把握したけれ――」
女子寮の厚い絨毯の下は、石である。総大理石とはいかないけれど、それに準じる防音と頑丈さを実現した素材だ。何が言いたいかと言えば……。
本来刃物が突き立つような素材ではない。
どんな音がしたのか記憶に定かでないけれど、瞬く間に抜き身の刀の切先がジョシュアの目の前の床に突き立てられた。
「…………敗けていません」
「はい」
そうだ、敗けていない。
最期の足掻きに抗って、レオナードの焔が燃やし尽くした筈だ。
私もろとも――。
「ですけれど、そこだ……齟齬がありますね……」
「敗けていないのに、敗けた事になっている。倒したのに、倒せていない……齟齬があるのかもしれないけれどそれよりもだ。確かに夢だからー、なんて一言で済ますには、二人の夢の内容に連続性があるのが気になるねー? なんでリンクしちゃってるの? 仲良しだから? アタシの夢とクオるんリンクした事あったっけ?」
「知りませんよバカ、だからそこが不可解ですねって言ってんですよバカ」
ジョシュアがおずおずと小さく手を上げる。
「心当たりがある」
一つ置いてから、ジョシュアはヴァネッサの夢の中に存在していた〝介入者〟について己の知る情報を二人に共有すべく語り始めた――。
話が長ェので掻い摘む。
・〝介入者〟は明確な意思を持っている。
・〝介入者〟の姿は確認できなかった。
・〝介入者〟は状況に介入する能力を持つ。
・その意思はヴァネッサ(達?)の排除を目論んでいる。
「ッざけた……話ですね……」
「…………」
口惜し気に唇の隙間から漏れる恨み言、普段の軽口を封じて眉間に深く皺を刻む、対応は分かれたけれど二人の思いは一つ、怒りだ。
「それで、クオンリィ……君の見た夢というのは……?」
「ぁあ? いいからお前ヴァニィちゃん待たせてんじゃあねえのか?」
「釈放だー、さっさといけー」
「ええ……」
理不尽……。
不満は感じる、けれど確かにヴァネッサの事は心配だ……むすっと不満げな表情を浮かべながらジョシュアは再びヴァネッサの寝所に一番近い壁に凭れかかり、瞼を閉じるのであった。
――つづく。
※いつもお読みいただきありがとうございます。




