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恋は魔法で愛は呪い  作者: ATワイト
第五章
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第138話:夢の中なら、この手にあるのに

 ディランにとってノエルはクラスが違う上に表情が悟りにくくマジモードの表情を見せられてもすぐにはわからない、とは言え今は印象派モザイクが掛かったクラスの番長のほうは、一瞬下した亜麻の髪の隙間から覗いた単眼に彼女が時折見せる威圧感があって……二つ名がダサいとかモザイクかけんなと言い合う二人の前で息を呑むディラン。

 だが……ここで引き下がるのは……違う! ぐっと二の腕に力を込めて、前腕を翳して心を鼓舞する。


「待ってくれ!! オレだって! フィオナを守るってコイツに誓ったんだ!!」


 拳だぞ、筋肉じゃねえ。


「は~あ(クソデカ溜息)…………いいですか? ……ディラン・フェリ。最終的にヴァネッサ様が行く以上私達三人は、ピンク頭の夢にダイブ確定です。変態眼鏡(ジョッシュ)にはいざという時に、ヴァネッサ様を救助するために残ってもらいます。と、いう事は……? いいですね?」


「わかった、フィオナの帰りは俺が待つ」


 淑女の掟破りをしてでも「後は頼む」と、長い言葉の外に込めたクオンリィの思いは果たしてディランに届いた、力強く二人は頷き合う。


「うん……えっと、ディラン……その説明で一発でクオンと頷き合って引き下がられると、ボクとしては何と言っていいのかな……困ってしまうんだが……」


 幼馴染のせいでクラスメイトの男子にまでアレな扱いをされている気がする。別に医務室でボクだけ起きてる状況でも悪戯なんかしないよ? クオンを一六番街の色町あたりに捨てるのはイタズラのレベルを超えてるからいいよね? それにディラン、キミもヴァニィの黄金の果実とクオンリィの腐った果実をちらちら見ているのは確認しているからね? むしろボクがヴァニィの護衛だ、


 しかしそれは兎も角、兎も角だ。


「――じゃあ……クオンから送るよ、ベッドに腰掛けてくれと言いたいが……まあキミはぶっ倒れても平気だろ――――」



 ――そして……。



 燃える王都に三つの黒い学院改造制服が降り立った。


「――おいフィオナ! そいつら……(シメ)りゃいいのか?」


 【決戦BGM1】から、戦闘BGMは【黒い三連星戦のテーマ1】に切り替わる。


 今だ、今こそ『1』だ。

 わかってんじゃないの《前世の記憶》さん!


 崩れ落ちた[魔導人形]の向こうからやって来た三つの影は、フィオナの救い。


「ああああああぁぁあぃぃあああああぁぁぁぁっ!!!! クオオオォォオオンンン!!!!」


「うるせぇ叫ぶな! 今の一撃はヴァネッサ様だぞクソボケ!! 称えろ!! 崇めろ!! お手を煩わせた事をお詫びしろ! 詫びろ! 詫びろ詫びろ詫びろ詫びろ詫びろォッッ!」


 現れた〝黒い三連星〟に感涙ヒートアップしてわたわたと瓦礫に蹴躓きながら、三人と合流するべく駆け寄って来るするフィオナと、高速で言葉を返すクオンリィ。間合いに入ったらゲンコツが来ると【攻撃範囲】で読んだフィオナは数歩前で止まった。シャラクセェ。ブッ飛ばすポイント+1。


「えええぇぇえぇええッ!? ホ、ホントだ、ヴァネッサ様!? なんで、いえ何故ッ!? あ? ああああっああありがとうございます!! って言うかクオンもノエルさんも? あれ? でもココヒロイン(わたし)の中じゃ? なんで!?」


「ええ、崇め奉りなさぁい? ところであれは……もしかして瑪瑙城? これって王都ですの? 王都炎上の妄想とかなかなかの国賊ですわね……」


「ここは四番街寄りの三番街だね、ほらヴァニィちゃん、あそこでボーボー燃えてるのがこの間行ったフィオナちゃんのおうちのパン屋さんだよ~」


「ぬああ! 今気づいたけどほんとだ! おうち燃えてるうう!!」


「どうにも攻め込まれているみたいだけれどどこの戦力だろ……? 一〇番台以降の外街で迎撃できてないのはあんまいーい風向きじゃないねえ……ま、夢なんだけど……」


 瑪瑙城には何度も登城した事はあるけれど、実はヴァネッサは王都サードニクスには土地勘が働かない、ほぼずっと城内に篭っているからだ。ノエルがヴァネッサの疑問に答えつつ状況をまとめる、当たり前だけれどガランの影の情報網は使えないみたいだ、呼び出しのハンドサインも通じない。


「どこが攻めているかには、なあんとなく私には勘所がありますけれどねえ……? それより目の前のアレだ、(シメ)ると言ったが……なんだありゃ? 魔導人形(ゴーレム)か? にしては状態が随分いいですね?」


 笄を使って一つ括りに髪を束ねたクオンリィが、柄頭をファウナの人形に向け疑問を口にする、それを聞いてフィオナも「そうだよね、そういう認識が普通だよね」と少し唇を噛んだ。


「それとフィオナか、お前脚が……随分殺意高めの戦闘形態だな、義足か? 魔導人形(ゴーレム)みてぇな質感してるが……」


「話せば長いけれどあれ(・・)はわたしだけどわたしじゃないっていうか、あれは『〝人形使い(ドールマスター)〟ファウナ』でもほんとナイスタイミング!! たぶんあいつが指示出してるからあいつだけヤれば終わるよッッ!!」


「ふぅん? 両脚義足とはなかなか気合の入った奴ですね? 気に入った、いっそフィオナ(コッチ)と交換してくんねぇかな……」


 軽口を叩きながら散歩の気安さで前に出るクオンリィとノエル、一度軽く指で弾いて鍔をロックしている金具を外し、印を結びつつ鯉口を切った。

 『発揚』しただけで、まるで生きているかのように波打つ雷光を纏う魔鞘・雷斬。悪夢(ユメ)に潜ると聞いてから気になっていた事が現実で「やっぱな」なんて呟きながら柔和な顔で口の片端を狂暴に吊り上げて哂った。


「ぅおあっぶな!! 何? クオるん!! 電気バチってるってか、もう既に[雷光]がバリってない?」


 纏う紫電に足元をバチィ! と弾かれたノエルが飛び退きながらイイ気持ちになって気分アゲアゲクオンに文句を言うと、「チッ、外しましたか」なんて不穏な言葉が冗談交じりに返って来る。もちろん狙ってなんかいないけれど、そのリアクションには実は狙ってたムーヴで返すのが最適解だ。


 「あぶねぇから離れな、[春雷]でいく」とノエルに言い残し鞘を持った左肩を前、左足を前にする右を開く構えに腰をゆっくりと沈める。


「クオンリィ・ザイツ!? 生きていたの……!? いいやっ! ――いけっ! わたしの子!!」


 ファウナの号令を受け、送り足で間合いを詰める彼女の前に巨大なハンマーを両手に持った魔導人形(ゴーレム)が迫り……。


 紫電――――迅る。


 装甲の厚い胴体前面部どころか抜けて背中側迄、逆袈裟に雷電伴う刀閃が奔った。


 抜刀前とあまり姿勢に変化はない、ただ刃元まで納刀していた刀、鞘をぐっと押し出すようにして鯉口を合わせると、くるり踵を返してハンマーを振り被ったまま固まった人形の正面を悠然と後退する。

 シメに景気付けと左手で鍔を(チン)と爪弾けば。雷鳴が遅れて轟音鳴らして人形は火花散る機械の断面晒して真っ二つ――。


「ピンク頭だけ斬るとかツマラネェ……全部ガラクタにしてやンよ」


「ちょ、え、何……今の……」


 フィオナもドン引きです、魔導人形(ゴーレム)は頑強……と知識にはある。攻性魔法を弾き、特に物理を凌ぐ様は前衛殺しとさえ呼ばれる。

 つまり本当は抜刀令嬢の天敵…………だった。


 《雷神(らいじん)[春雷]》


 頑強? ならより強く鋭く速く斬るだけです。魔導人形が爆砕する爆風を背中に受けながら、思い出した覚醒(メザメ)を、ヴァネッサと並び立つ戦場で、侍り振るえる事にクオンリィはたまらぬ感動を噛み締めるのだった。


「な、何よ何よ何よ今のはあああああああッッ!?!?」


 鎧袖一触に[魔導人形]を一体失った≠フィオナのファウナが何処か悲哀を込めて叫ぶ。


「だいたいあなたが死んだから! ノエル・ガランが! ヴァネッサ・ノワールが!! って二人共いるし! なんなの!? なんなのよ!」


 ファウナの言葉を受け、紫電纏うクオンリィの眉尻が下がった。


「そうかよ、悪かったな…………ソッチの私も負けドッグですか」


 正直、「私は如何死んだ?」と聞きたい気持ちはある……私は出奔したのか? 私は銀朱城には辿り着けたのか? 私はレオと……。

 しかし聞くだけ無意味だ、「死んだ」つまるところ過去形なのだ、このフィオナの見ているユメが過去/未来の再現なのか、それとも違うのかさえ判らないけれど『本来のこの場にクオン・ザイツは辿り着けなかった』という事が分かればそれで十分だ……。

 隻眼に雷光宿らせて、軽く空を振り仰げば、燃ゆる王都に煌々と照らされた夜空は煙も手伝って星一つ見えやしない。


「クオン」


 トーンの落ちたクオンリィの声を聴いて、カツカツとリズムよく石畳を鳴らす足音を伴って近づくヴァネッサがかける声は、クオンリィの意識を一瞬で引き戻した。ピンク頭も腰を曲げてへこへことついてきている。


「ヴァネッサ様……」


「わたくしの〝愛刀〟はここにいて、わたくしには何も届いておりませんわ? 美事な《雷》でした――その名は?」


「――ッ! はい! 《雷迅》転じてママ上様の二つ名と同じ《雷神》です!」


「《雷》は神の位に至りし、と…………ふぅん? なんだか紛らわしいですわねえ、クラリッサおば様が〝雷神〟で《落雷》、クオンが〝迅雷〟で《雷神》だなんて」

※いつもお読みいただきありがとうございます。


41236+P《雷神[春雷]》通常版との違いは演出と〝火力〟です。


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