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恋は魔法で愛は呪い  作者: ATワイト
第四章
136/175

番外編:若返りの香・1

※ !! CAUTION !!


今回の番外編は、前回以上の完全お気楽極楽な番外編です。

いきなりアホなの始まったとイメージをぶち壊す恐れがあります。


それでもよろしければ。


「クオるん……おぎゃってみない?」


 ある日の昼下がり、ヴァネッサはソファに腰かけ優雅に紅茶を嗜み、その足元でソファの座面を背凭れに床に胡坐をかきながら刀の分解整備を行っていたクオンリィは、ノエルからかけられた言葉に「はぁ?」と片眉を上げて一度ヴァネッサに伺うように顔を向けてから、改めて相棒を見た。なお傍らに置かれた魔鞘には今バラしているのとは別の刀がしっかり収まっている。


「ノエるん……バブみを感じてほしい……のですか?」


 本日のノエルは完全軍装モードだ、なにせ朝からお仕事していたのだから、

 制服のブラウスは変えない授業や放課後と違い、上もしっかりとした忍装束、多少忍装束にしては上腕の甲や左肩の悪鬼を模した肩当など、重装気味になるのは彼女がガラン一族の次代を担う姫だからに他ならない。ちなみにまだ中忍。しかし動くに音は発生させない精巧なる装い。


 下着はサラシにノーおパンツデーである、穿いてない。


 ヴァネッサが見ているのはそんな見慣れた装束の事ではない、ノエるんの大荒野だ、従姉妹だ、従姉妹である。胸囲の格差、とはいえどーにもならない、だから……かわいそうだからぺったん娘とは言葉にはしない、ただ一言。


「疲れてるのよ、膝枕する?」


 言外に言う。寝ろ。寝る子は育つ。


 それにトンチキな言動は慣れている、幼馴染が二人とも軽く脳みそパラダイスなのでヴァネッサもその扱いは日常茶飯事。何なら全身のほくろの数まで知ってる仲だ。

 カップをわずかに唇に着けて、移る紅で今日の色合いを確かめる、今日はジョシュアに会う予定はないけれどもしもの時に備えなければ婚約者失格ですわ。


「ちーがくてぇ! それとも……ヴァニィちゃんがおぎゃる?」


 ……音もなくカップをソーサーに乗せて、睫毛をゆっくり伏せた……こいつは強制睡眠が必要かもしれない……具体的には撃つ。無言で右手をドレスのスリットから腰のベルトに手を伸ばすと。「違くて!」とかノエルから聞こえるけれど、違くても構わない。


 ――違 く て も 構 わ な い。


「貴女達の不規則言動には慣れっこですけれども……起きて寝言はやめなさい?」


 達? と刃文を改めていたクオンリィがふと顔を上げて眉を顰め、ヴァネッサのほうに顔を向けてノエルとヴァネッサを交互に指さしながらコテリと小首を傾げる。――そこをズドンだ。達ですわよ? 間違いなく。


 結構ガチ目の発砲音がしたけれど「あいたぁー」で済んでるのはどうしたものか、ヴァネッサもちょっと金色を丸くして愛銃と(なかご)をしっかり握りつつ額をさすさすしているおバカちゃんを交互に見ている、まあ威力は兎も角、話を聞こう、姉短銃(ろざりぃ)をくるくる回してノエルに目配せ。


「い、いえねー? まあ聞いてよー。例のレイモンドを探ってたら……」


「例のレイモンドって駄洒落かよ……ククッ」


「…………」


 余計なムーヴ決めたせいで額を抑えながらだというのにどうしてこのおバカちゃんはいちいち水を差すのか、ジト目に瑠璃色を眇め(すがめ)ながらノエルは自分の脛甲をかちゃんと蹴る。


「――は?」


 ぱきっ、とクオンの尻の下の空間が割れる、そうすれば当然すぽっと亜麻色の髪をなびかせて落っこちた……下の階ではない、≪伽藍洞の足音≫の空間転移に、である。


「うおおあっぶないですねえ!?」


 同じ位置に天地逆さに出現すれば、抜身の刃物を持ったままでは首と肩で受け身をとるのが精いっぱい、なお長襦袢一丁のラフな姿なのでいろいろあられもない姿だけれどまあ大体いつもの事だ。


「ノエルう! あっぶないでしょ!?」


「どーせ平気でしょ、ともかく! 色々はしょって手に入れてきました! 若返りの香ッッ!!」


 ぱんぱかぱーん!と口で言いながら


「まあ! どう考えても窃盗して(パクって)きましたわね……」


「こいつを使えば誰でも幼児化するっていうご禁制の呪具です!! ご禁制!! だからセーフ!!」


「それはまたずいぶんざっくりとしたやつですわね……?」


 誰でも幼児化なんて使い道があるのだろうか? こてりと首を傾げながらいまいちリアクションが薄いヴァネッサだけれど、ノエルは自信満々の様子を返す。


「まあまあ百聞は一見に如かず……クオるん、おいでー?」


「なんですか?」


「ほれ、これ嗅いで」


「なんですかあ? もう、くんかくんか」



 ぽふん。謎の煙が長身のクオンリィを包んだと思えば、煙の晴れたそこには……。



「なんですか? ノエるんがでっかくなりました!」


「バカが!!」


 見た目四・五歳くらいだろうか、クオンリィがクオるんに一瞬で変身? した、これにはヴァネッサも金の双眸を丸くして興味深そう。身に着けていたものや手に持っていたものは、ばっちりダウンサイジングされている。そう、手入れ中の刀もである。


「あら可愛らしい、見たところ頭の中身と服はそのまま小さくなるんですのね……着替えられるのかしら? クオン、軍装着てらっしゃい」


「はい!」


 頭の中身はそのままと評されたおバカちゃん一号、てってけとお着替えするべく手入れの終わってない刀身を持ったままお部屋に行って、すぐに全裸で戻って来た、ノエルの目は見逃さない!「勝ったぞ!!」


「どうしましたの? やっぱり着替えられませんでした?」


「ちぢんで手が届きません!! ノエるんお着替え手伝ってください!!」


 これには思わずノエルが素早く顔を背けながら「でゅふっ!!」 と顔を真っ赤にしながら咳き込んだ……。やっぱり頭も若干体に引っ張られているようで喋り方が幼い。なかなか懐かしくもあるし可愛らしいと、小娘を大人と言うかは兎も角、大人なヴァネッサとノエルの母性を刺激してくる。ノエルのは本当に母性なのか。


 なんとなーく「コレ二人きりにしちゃダメなやつじゃない?」と思うから「わたし自らが出ますわ」とヴァネッサが腰を上げホルスターにすちゃっと姉短銃(ろざりぃ)を戻した。もちろんヴァネッサも可愛がりたいだけです。


 よって音声でお送りします。


「ええ……着替えられるんだ?」


「手に取ったらぴったりフィットしました!!」


「そういえば眼帯どころか刀まで縮んでますわね……まあ呪具ってくらいだしそういうものかしら?」


「髪型もそのまんまだねえ ……なんかこのサイズのクオるんが軍装ってすっごい新鮮」


「やー! おちりさわらないでください!」


「ぐへへへ……」


 そんなこんなで……完成しましたクオンリィ・ザイツ軍装幼女フォーム。


 応接室に三人で戻ると、とこてけ愛鞘の所に急ぐクオンリィ、幼い手が黒鞘に触れるとどういう原理か不明ながら魔道具である魔鞘・雷斬もしゅっと縮んだ。


「魔道具まで……ねえクオるん、それもう一回置いてみて?」


 ヴァネッサに言われると「はい」と素直なお返事、鞘を置くと変化がない……ノエルがぎょっとして目を剥く。え? やばくない?


「え、ちょ、雷斬小さいまま……」


 わなわなと震える声でヴァネッサのほうへ瑠璃の視線をやるノエル、縋るような色を見せている。知りませんわよ……ヴァネッサはツイと視線を逸らした。


「ええ」


「え? アタシ効果時間は分からないけれど、クオるんが元に戻ったら……」


「……雷斬が小さいままだったら確実にブッ飛ばされますわね」


 まずい! と必死の形相でぐりんと再び刀の手入れにちょこんと座り込むクオンリィに顔を向けるノエル、柄や目釘が触れると次々クオるんサイズにダウンサイジングしてまるでいつも通りという様子で手入れを続ける相棒はその状況に何の疑問も感じていないのだろうか。


「ク、クオるん……ちょっと雷斬置いてこっち来て?」


 離れれば何とかなるんじゃね? と思ったものの、クオンリィは訝し気に単眼を眇めてノエルを見つつ、一言。


「やです、ノエるんなんか企んでるでしょー?」


 唇を尖らせてぶすくれて見せる幼女クオるんにアアアアア可愛いんじゃアアアアと思わず飛び掛かってしまいそうになりながら自制にごくりと喉を鳴らすノエル、じりじりとにらみ合いを続ける二人であった。


「企んでない、企んでないから……ほーら、ラスクもあるよ?」


 ヴァネッサは「別に確かめるだけなら雷斬じゃなくて手入れしてるほうの刀とか部屋に置いてきた襦袢でもいいんじゃないかしら?」とは思ったけれど、それは言わずノエルの手からラスクをひょいと取って自分は再びソファへ。


「あっ……ヴァニィちゃーん、助けてー?」


「ご自分で何とかなさい」


「そんなあ~」




番外編「若返りの香・1」


――つづく。


※ いつも読んでいただいてありがとうございます。

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