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恋は魔法で愛は呪い  作者: ATワイト
第四章
135/175

番外編:ネーミングセンス

※ !! CAUTION !!


今回の番外編は、四章完結を記念した完全なお気楽極楽な番外編です。

いきなりアホなの始まったとイメージをぶち壊す恐れがあります。


それでもよろしければ。

幸せな夢へようこそ!!


 ここはある晴れた昼下がりの銀朱城。

 雪解けの季節を迎えると至る所で融けかけた氷柱からぽたぽた垂れる雫が屋根やら軒先の積まれた木箱やらを叩きなかなかにリズミカルな音を奏でている。


 侯爵一家が暖炉のあるサロンで思い思いの時間を過ごす、当主であるギルバート侯爵はテーブルで嫡男であるレオナード次期侯爵とカードに興じていた。もちろん賭けゲーム。


 賭けの対象は、なんと南部侯爵位である。アルファン王国のアルフを名乗ることを許された上位貴族、つまり侯爵及び公爵位は基本的にガッチガチの世襲であった。



 特に各方面軍の軍閥を統轄する侯爵家は、派閥傘下の各家は主家に従うという趣があった。侯爵イコール方面軍のトップであり各騎士団の指揮系統が代替わりで崩れる事を防ぐ意味と、結局は四大侯爵家に受け継がれる希少魔統がまさしく格が違う事が原因である。


 王立魔法学院で天才攻性魔術士の名を欲しいがままにしたレオナードは、現在は王城瑪瑙城で宮廷魔術士団に勤め、いわゆるエリートコースでキャリア新人として日々職務に励んでいる。


 学院在籍時代からの婚約者とも王都のヴァーミリオン別邸で半同棲のような生活を送って順風満帆の自称次期魔龍候であった……ところが……。


「ところで、お名前はもう決めているの?」


 コロコロと鈴が転がるように笑いながら母上がぶち込んできた、手元にあるのはもう何着目になるかわからない乳児用の服だ、父上もノーリアクションを装いながら明らかにソワソワしている……。父上……初孫の名付け親になりたいのは分かりましたからそのバルクでモジモジしないで下さいキモいです。


「まだです、レオとも何度か話し合っているのですけれど行ったり来たりで方向が定まらず」


 クオンリィが笑顔で自然に返すけれど、まず妊婦である。茜のドレスで着飾られ、実際は結構ポッコリ膨らんでいるのであるけれど、しっかりお腹が目立たないデザインである……毎日仕立てているのだろうか?


 すっかりとマタニティソファが自分の役目と寝転がってクオンリィを腹で受け止めているリントに空の王者の威厳は無い……いや大事なのはそこではない。


「レオからとって、レオンは安直でしょうかね? リント?」


 リオンでも良いぞと言わんばかりにリントが小さく鳴いて翼を動かし翼膜をストールのようにクオンリィの身体に添える……平和だ、幸せだと思う。



 問題は……これが正式な挙式前だという事だ。



 この辺りが少し複雑ながら説明すると、レオナード・アルフ・ヴァーミリオンは学院卒業生全員に授与される「王立魔法学院卒業学位」の名誉騎士爵しか実質持っていない。

 実際は侯爵家嫡男という事もあり、下手な子爵よりも扱いは上であっても儀礼上は無爵、貴族的にはゴク潰し、ロクデナシと言われる迷える貴族子弟の一人にすぎない。


 宮廷魔術士として昇進すれば叙爵も望めるけれどまだ先の話……このままでは王国の慣例的にレオナードの子は儀礼上クオンリィの婚外子として洗礼を受ける事になる。


 希少魔統に目覚めてくれれば話は少し変わるかもしれないが、まず間違いなくレオナードの子にも拘らず扱いは侯爵家に名を連ねる事は出来ない。

 紙切れよりも儀礼的な要素が、学院入学式前の騒動同様魔法王国アルファンでは重視される。


 なお正式に式を挙げた後ならば「次期侯爵の子」と扱われる、正式にクオンリィがヴァーミリオン家に入ったからだ。相変わらず貴族はめんどくさい。


 これに口を挟んできたのは当然婚約者の実家である。


「おうおうレオくゥゥん……? 風の噂で何だがよ……無爵のバカガキがサカって抜刀伯(オレ)の初孫が庶子になるって聞いたんだ……おかしいよなぁ? オレァ確かギルバートのアニキの嫡男に可愛い可愛い一人娘を嫁に出したはずなんだが……お、仕事の邪魔ァしちゃったかな? ――まあいいよな? 最優先こっちで」


「――ッ……はい」


 娘が例え生家を継ぐとしても自分に何かがあったら屋敷を残してやれるかを心配していた義父のライゼン・ザイツ抜刀伯に瑪瑙城の廊下で背後から肩を抱かれた時レオナードは持っていた書類をぶちまけながら自分のハラワタぶちまけた気がして生きた心地がしなかった。


「あなた、レオ君のせいじゃありませんわ……や・は・り・あの子には侯爵家の細君など無理だったのです……今からでも婚約を解消し、やや子は婚外子としてザイツかエイヴェルトで育てましょう? ヴァルター様や、オーギュスト殿下をお迎えするのもいいですわね」


 元々この婚姻に反対の立場を崩さなかった義母がとんでもない事を言い始めた、冗談ではない……婚外子になろうとレオナードの子である限り、ヴァーミリオン侯爵家が誇る希少魔統≪龍≫を継承するかもしれないのだ。


 婚姻関係が持続されているならともかくそれまで失っては、もうレオナードは我が子にとって良く来るおじさん枠。そも会えるかどうかも微妙である。


 すると西部軍閥は侯爵位の魔統を二つ抱える事になり、レオナードが別の女を娶って二子三子をもうけて希少魔統≪龍≫を継承させる事ができたとしても、ヴァーミリオン家の地位は地に落ちる、ひいては南部軍閥の影響力さえ著しく損なわれる……。


 つまり四大侯爵家のパワーバランスが崩れるという事だ……最悪、黒耀に呑み込まれる事も。


「お、お義母様、お怒りはごもっともです!! しかしそれはどうか……ッ! どうかご再考を!!」


「あらあら、まだ正式には義母ではございませんわ? レオナード様」


 宮廷魔術士といえば瑪瑙城の内勤でもエリート、そして聞こえる内容は次期南部侯爵の大変な醜聞スキャンダル、伯爵夫人に土下座をキメる勢いで廊下に両手を着き懇願するレオナードは……近くの扉に立つ衛兵達にとってはとってもほっこりする光景であった。


 だったらせめて孫が生まれてくる前にテメェの爵位を何とかしろ、というのは、子爵家三男から剣の業前一本で抜刀伯の名と伯爵位を掴み取り伯爵令嬢を射止めた義理の父からの課題であった……。とつきとおかって短い……。



 仕方なく、最速の方法として「オジキ、ここらで……オレに跡目譲っちゃあくれませんかね?」とまぁ実の父親に相談したのが二カ月前、練武場に文字通り首根っこを引っ掴んで放り出されて「カカッテコイヤー!!」と消し炭にされかける事数週間、「惚れたオトコの為になら私は不義理だって通します……ここで退いたら、オンナが廃る!! オウジョウセイヤー!!」と妊婦が光り物抜いて参戦しそうになったので、平和的にテーブルゲームになったのだけれど……。


「レオ……お前は弱いなあ、はっはっは」


「ぐぬぬ……」


 ギルバート侯爵としては、ここらで楽隠居でもして別邸で過ごすのも良いと考えていた、銀朱城を見渡せる絶景が自慢の別邸だ。どうせ息子は王都勤めなのだし、侯爵の仕事も重なれば実家に帰る余裕もあるまい。孫を溺愛し放題の未来に自分の爵位なんぞが欲しいならさっさと跡目は譲ろう。「それにしてもバカだなあ、式の前に妊娠発覚して式を延期するなんて……ばれなきゃいいのになあ」とギルバート侯爵は手続きにかかる日数からいつごろ敗ければいいのかを計算するのであった。



 さてそんなこんなで日々は過ぎ……。



 先日手続きの為に瑪瑙に登城したところ……明らかに待ち構えていた新・黒い三連星に鉢合わせた。


「あら、クオン……やーっとレオを落しましたのね?」


「ヴァニ……ヴァネッサ・アルフ・ノワール公爵夫人……わたくしの名ははンリィ、レオナード様の妻で次期ヴァーミリオン侯夫人ですわ?」


 誤魔化す名乗りにぶっふぉと後方に控える黒服の秘書官が噴出して、妻のブッコロオーラが昇る様はなんだか学院生時代のようだ。


「クオるん、流石にンリィはないわー、猿山に住んでセンス死んだ? ガランの里にしばらく泊まるー?」


「うっせ、センス死んでねーし! 見ての通り身重で当分外泊なんかできねェよ」


 ヴァネッサ様に合わせる顔がないとか言って着けている仮面の意味が全くない……。さもありなん、宮中で堂々と大刀を腰に差すぽっこりお腹の妊婦など二人といてたまるか。早々に外して肉眼で旧友と話に花を咲かせている。

 だいいち婚姻を機に少し離れる事になっただけ、たったそれだけなのだ……だからって侯爵夫人がごく自然に給仕の真似事してるのは如何なものか??


 相手は公爵夫人なので身分的にはありえない話ではないのだけれど宮中侍女たちが戸惑っている。


「んで? レーオー? 侯爵になるんですってね? クオンを孕ましてくださいましたケド、名前は決まってますの? ヴァオンリィ? はちょっとオーガニックね……ノエンリィ……は事前会議でノエルからダメが出ているわ」


 この室内で最も身分が高いのは侯爵であるレオ、次いで既に公爵であるジョシュアの伴侶としてヴァネッサ、あとはクオンリィ、ノエル、宮中侍女たち、秘書官と続く……良く見れば全員かつて黒い腕章を身に着けていた者達で周りが固められていた……警護の王領騎士もだ。久しぶりの再会に皆会話に花を咲かせている。


「それは、これから……」


「はい! パオンがいいと思っています」


「「「「……」」」ぶっふぉ!!」


「……え、マジですの?」


 軽率にぶっこんだ妻の上機嫌な声、一方気まずい沈黙と噴出した秘書官と、若干ヒキ気味のヴァネッサが呟く。秘書官を速攻アイアンクローで片手一本釣りにした妊婦が笑顔で振り返った、こっちみんな。


「女の子ならパオンリィ、なんて……波の音でぱおんなんですよ? 可愛らしいでしょう?」


 ちょっと恥ずかしそうに頬を掻いて、どうですか? なんて可愛らしく小首を傾げる手管は間違いなくマリアお母様の仕込みだ。振られたレオナードの視線が泳ぐ。


「ぴえん」


「ぱおん……」


 浅葱の忍と黒耀の主君……まて、主君なのか? 主君なのか……。が、視線を向けるに瑠璃色と金色をどこか遠くに投げる、説得を諦めやがった。


「ま、まてまて……初耳だぞ?」


「可愛いでしょう?」


「いやいやいやほら、オレからとってレオンとか言ってたじゃないか!?」


「地味」


「発想がドブ以下ですわね」


「キサマら……」


 腕を組んで考える様子のクオンリィ、そして……。


「レオ…バート…バ? うーん」


「おい、父上の名前を入れればいいというものでも……」


「閃きました!」



――



「レオパルドンでどうですか!!!!!!」


「耳元でやかましいですわ……!!」


 ずどんと目覚めに魔弾が直撃する、あ、これどろっぷキックくらいの威力ありますね? 壁にめり込む勢いで三人並んで眠るベッドからまさに蹴り出される。もちろん防音設備も完璧な女子寮、この程度騒ぎになる事はない。



 それは、辿らなかった夢/未来。


 それは、もしかしたら。


 これは、そのほんの一欠片。



 かも?



番外編「ネーミングセンス」


END


※ いつも読んでいただいてありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 四章お疲れ様でした! 恐らく想定される最悪の結末である銀朱城防衛戦の顛末、これで事が起きる前に当事者に知れた訳ですけども、やはりある程度は避けられないのかなあ… 番外編みたいな未…
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