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恋は魔法で愛は呪い  作者: ATワイト
第四章
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第128話:銀朱城防衛戦・決着

 暴虐の死に、周囲で戦いを続けていた銀朱城防衛軍と魔王軍の士気に決定的な差が開く、特に魔族の士気はどん底までに低下する事になった。


 元々がして種族混成の魔王軍である、これまでも指揮官である四天王が前線に出られないという状態からの防衛側の仮面の剣士のおかげで開け放たれた門にすら辿り着けないという一週間で、如何にヒャッハーな精神状態が売りの魔族といえども心は疲弊していた……。


 そこに来てバカだけれど暴れて突撃させれば魔王軍随一で、実際これまで城に至るまでのヴァーミリオン軍の砦を完全な力押しで蹂躙してきた最大火力がまさか撃破されるとは……。剣士との一騎打ちが始まり「入れねぇなら投げ込めばいいじゃねぇか」という狂気の作戦に弾として使用されずに済んだ、という暴虐の自業自得な安堵も手伝い、魔族は後方の策謀に判断を仰ごうとして……このタイミングで転移魔法が使える策謀の姿がないことに気付いた魔族は我先にと撤退を始めていた。残されたのは狂化して暴れるばかりのケモノのみ。


 ここに実質、銀朱城防衛戦は防衛側の勝利で幕を下ろそうとしていた。


 ……代償を払いながら。


 勝ちはしたけれども本当に締まらない、お義父様の首級も突き刺したリントの笄も消し飛ばしちまった……すべてを出し尽くしたクオンリィの気力がついに絶え、雷光が終える(ついえる)。魔素に還っていく雷腕、ついに刀が墜ちる。それを見たロウリィが血相変えて駆けて来やがる、バカが……大将首は獲ってもまだ戦闘は終わってねぇ。

 そう、終わっていない、手負いで武器を落としたクオンリィに魔物がじりじりと間合いを詰める。殺到されなかったのは幸運、というか魔物もあのド派手な雷を目の当たりにして警戒を強めていたのだろう。


 学院ではザコ扱いしたけれど、戦斧を振るいここに駆け付けんと魔物をなぎ倒すロウリィはなかなかに腕が立つ、もう一人のレオの取り巻きのナッシュというのも良い弓手だ、「安心して任せられる」などとぼんやり考えてしまう。諦めなかったからここまで来れた……でも、一度「ここまで」と思ってしまえば、膝ががくりと落ちた、驚くほど力が入らない。ドレスについていた泥が先の≪雷神≫で乾いて固まっていたのかパラパラと地面に零れ、あごが上がって、雪の降る空を正面から見上げる、いや、見上げてはいない……気づけば仰向けに倒れていた、地面に頭をしたたかにぶつけた筈だけれどもう全身傷みなんだか暑いんだか寒いんだか良くわからなくなってきた。


「……レォ……」


 一度一線を越えてしまうと、あれよあれよと気持ちが溢れて、まさかこんな時に呟く名前になるなんて思わなかった。



「南部のやり方じゃ総大将は本丸でドンと待機しているもんらしいですよ? まあ気持ちは分からなくもありません、ヴァネッサ様は争いを好みませんから前線でも指揮所で寝ておられました」


「……ヴァニィちゃんの事は置いておいて、だからって前線指揮官も突撃して敵の前線を切り崩すものでもないぞ? 今まで通り普通の籠城じゃダメなのか?」


 軍議の場でレオナードに総指揮を譲ることと、門を開けて精鋭で打って出るといういかにも西部式のキ印作戦が提案された、他ならぬこれまで防衛の指揮を取って来た実績のある令嬢からである。これまで危機と見るや飛び出して存分に暴れべらぼうに強いのも軍議に参加する諸将の誰もが知っているから……レオナード以外の反対意見は無かった、ぶっちゃけスタンスが暴虐と大差ない。


「駄目だ、いいですか? 二ノ丸は城門一つ、これが強みで弱点ですよ? 門を閉ざして群がるゴミに集中砲火を浴びせられる構造はいい、けれど全く門に届かないわけじゃありません、実際毎晩夜を徹して修繕が必要なほどに削られてはいます。内濠を越えて城壁を昇って来る魔物への対応で門の内側は破られた時の万全の備えができてるか? と言えばそれも正直微妙です……そして何より」


 クオンリィがリントの(こうがい)の先でテーブルに広げられた銀朱城縄張図の本丸を指し示す。


「本丸がクッソ脆ェ……特に飛竜隊の竜舎は大群が突っ込むにうってつけです……二ノ門は最終防衛線です、破られたら終わると思え……いいですね? 門は開けちまえば損傷しない、開ければ敵が殺到する、打って出て迎撃ができるならそれに越したことはねぇ、門の防衛にかかりきりだった攻性魔術士や弓兵も城壁を昇る魔物に対応できる」


「けど、クオちゃん……いくら何でも、その、豪快というか頭イってないかというか、心配するオレの気持ちにもなってくれんか?? お前をもし喪ったら破綻するではないか!!」


「今頭イってるって言いました? 私の実力はレオが一番知ってるはずですけれど?」


「オーグが一撃でやられた時は本当にフローレンス嬢が斬られると思ったわ……だが、最後はオレに負けたのも忘れるなよ??」


「はあ? 他のオンナの名前出すとか、荒野で迷って干乾びたいんですか? それともリントで刺してやりましょうか?」

「笄を逆手で持つな……ちょっとシャレにならん魔力を帯びてるぞ……すまん」


 魂は魔力、魔力は魂、昨晩自爆キスで仲良く添い寝してからレオナードは時折歳の離れた兄的存在の気配を頻繁にクオンから感じていた、絶対いる……しかも完全に嫁の味方だ。


 完全に余談だけれど、後日「リントのほうが気持ちよかった」などと言われて翌日二人して一日動けなくなるのだけれど閑話休題。


「万全で、四の五の言える鉄火場じゃねえんだよ、レオ……ま、私がヤバいなら出てくればいいでしょう?」


 駆け付けてね、言外の想い、素直じゃないめんどくさい女だなと自嘲する。


 魔物の群れを龍の炎が薙ぎ払った、来たのかよ……指揮官が出てくんなって言ったでしょう? ……クオンクオンって聞こえてますよ、相変わらず声だけはデケェな……。




「避けろおぉぉクオォォンッッ!!!!」




 妻の危機を知らされ天守を飛び出したレオナードには見えた、四天王の一柱を愛する妻の魂が雷柱となって討つのも、その影に何かが入り込んだのも。


 避け……ろ? 華の香り、椿か? マリアおばさ、お義母様が……好きだった。


「うううああああ!!!!」


 無いわ! と届いた声にはっと紫の単眼を見開き、微かな香気から辛うじて身を捩れば、右耳の孔を貫きかけた鋭い何かは辛うじて? うなじ辺りに突き刺さる、ぐあと呻く力も出ない。


 これは、駄目だ……比喩無しに致命の一撃と把握する。


 横眼を向ければ舌を針のように伸ばしたマリアおばさまの面影がある、醜い貌が。


「ケヒ、ケヒヒ!! 頭ン中ァカキマワシテヤロウトオモッタガ! ――その首でも致命傷ねぇ……クオンちゃん?」


 マリアおばさまの声に、改めて不覚を悟った。ちくしょう、またうまく行かないのか。そう思ったらカレシ……旦那の声が届いた。


「キサマあああああああああああああああ!! クオンから離れろ!!」


 レオナードの龍の炎が針のように細く鋭く伸びる、下手に火力を上げられないのはよりにもよって妻の顔の脇に顔だけ影から出しているからだ。


「レオ……母に何て無体な」


「母上はな……そんな禍々しい貌しないんだよ……! 息子を揺らがせられると思うな!! 外道!!」


「ヒヒ!こンな切れ端の身体ニハもう用はナイ」


 クソ外道は、殺した相手の姿を乗っ取る。妻に聞いたばかりだ、母に似た額を≪龍炎≫に貫かれて燃え尽きた筈の策謀の魔力が、どんな目に遭っても諦めないで歩んできた足に微かに生じたのが、レオナードには見えた。燃え尽きんばかりの弱弱しい愛しい人の魔力も。


「外道がッッ!!」


 何なのだこの世界は、何としてもクオンを不幸にするつもりか?




 ――視えているんだろう? 私/オレ!!




「クオンックオンッッ!! 集中しろ! 魔力を……魂を絶やすな!!!!」


「……耳元で……怒鳴ンじゃねェ……なあれオ……頼む、私の雷斬……」


「オレに使えなどと言うな!? お前の鞘だろう!!」


「ばぁか…………お前じゃねぇよ」


 ぺしっと額でも張ろうかと思ったけれど……なんだ首から下がさっそくピクリとも動かない……、隻腕となった傷口は≪雷神≫で多分焼けた筈なのに、どこかから失血が止まらなかったか……?


「ヴァニィ……に、必ず……それと、ゴメンね」


「わかった! わかったから! 必ず二人で届けよう?――……」


 今度は返るレオの叫びがうるさすぎて、鼓膜がイったか? 音が消えた……奪われたのか? ああちくしょう、視覚はまだ大丈夫らしい、レオナードが必死な顔をしている……でも、理解るんだろう? 何ができるのか、如何するのか。


 口を動かして言うべきこと言ってるつもりだけれど言葉になっているのかが分からない。



 でも、身体の中で外道が焦ってるのはよくわかる、ああそうですよ……道連れです。



「テメェが私の冥途の土産です」


 音が帰って来た、レオの魔力が体を包んでいる……[魔力譲渡]……ああ、気持ちいいですね、けど……泣くなよ。


「レオ……キスして?」


 そして、送ってくれ。

 迸れ……≪龍焔≫、[送り火]。



 ――



 ――こんな悪夢は、どうか辿らないで。わかったか私……いいですね?



 ――こんな悪夢なら、クオンの愛など!!

 ……淋しいこと言うなよ。



 恋する心は魔法みたいに何でもできるから、愛は呪いになって二つの世界に魂に絡みあう。




 愛の呪いが、魔法になる。





――続く。


※ いつもお読みいただきありがとうございます。

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