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恋は魔法で愛は呪い  作者: ATワイト
第四章
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第124話:銀朱城防衛戦・6

 目の前で肩を震わせ激昂する白面の女は、その仮面の下でどんな表情をしているのか窺い知ることはできない……どう見ても両目が塞がっている、とんだホラーだ。長身の茜色のドレスで「我は空」とか言い始めかねない。 いや……それよりも……オレは今、どんな顔をしているのだ?


「……いや……察せはないな悪ィ…………戦闘続きで気が立ってました……言いたいことは……言うべきことは……そうじゃないんです」


 深呼吸をして、緩く頭を左右に振る、仮面越しの声が震えているのは遅く着いたオレに対する怒りなのだろうか……? それとも自分に憤っているんだろうか? ……クソチビは謝らないんだな? 緩く肘を曲げクオンにしては珍しい、白い髪飾りに……髪……飾……り。


「ちょっと待て、オレにも言わせろ……それは、どういう事だ?」


「……ぁあ? ……ああ……そうか、魔力が……どうもこうもリントですよ」


「なぜ」


「私が斬りました」


「なぜだ……ッ!!」


 レオナードとリントは歳の離れた兄弟のように育った、勿論人と竜だから言葉こそ通じはしなかった、けれども……リントにとっては主であり育ての母でもあるマリアが腹を痛めて産んだレオナードの魔力は波長を合わせやすく、レオナードもまた母の魔力に近い魔力を、魔力というものを知るよりも早くからリントに感じていた為大変よく懐いた。二人……一人と一匹の間には会話さえ成立しているような仲だった。だから……。


「どうしてだリント……どうして自分が斬ったなどと嘯く(うそぶく)アホの頭なんぞを飾らされて……ッッ! ……どうして、そんなに安らいだ魔力を宿している……」


「今アホって言いました?」


 レオナードは、術士としてこの世代では規格外の魔力を持つ、それ故かクオンリィなどのように魔力を意識して感じようとしなくとも魔力が視えるという天賦の才に恵まれていた。実はこれ、結構とんでもない特異な能力なのだけれど、本人の感覚的なものなので誰にも説明のしようもないものである。


「なぜだ!? なぜリントがクオちゃんに斬られなければならない!? なぜ斬った!!」


「……怒鳴らなくても聞こえてンだよ、相っ変わらず声だけは一人前にデケェな……」


「答えろッ!」


 無意識に愛称呼びされてドレスの肩口がぴゃっと跳ねるけれど、興奮しているレオは気付きもしない。

 耳を小指でほじりながら沈黙を反す仮面の女というのは表情が見えないので不気味でならない、と思えば軽く仮面をずらして小指の先をふっと一息吹く際にちらりと見えた口元は、確かに良く知る幼馴染のものだった。そして。


「…………お前だよ、レオ……お前に姿形だけでもマリアおばさまの姿をした敵が討てるか? …………リントはそれをお前にやらせたくなかったから……レオが銀朱に帰って来る前に急いで決着をつけようとしたんですよ……――そ・れ・を・こ・ん・な・ちんたらと……ッッッ!!!! ……いや、悪ィその話は後だ」


 そして、仕損じたのだ。予想外に遅かったことは今は言うまい、後で言う。


「は……母上? 何を言ってる」


「……順番に説明してやる……まずは落ち着け」


「お、オレは落ち着いておるっ!! 縁談があるからと呼び出されて里帰りして見れば城は焼け、親の部屋に変な仮面をつけた幼馴染がドレス姿で突っ立ってる事に動揺などしておらぬ!!」


「……あーはいはい、それ私な。そんな事よりも大事な話だ、まず、魔王軍四天王にクズが一匹いる」


「母上の話をせんかあッ!! 魔王軍四天王を名乗る以上フツーにクズしかおるまい!?」


「あーもう! うるせぇからちょっと黙れ!」


 一流の剣客が間合いを詰めようと思ったなら、いかに天才と言えど術士に抗えるものではない、急な踏み込みでもないのにレオナードがはっと気付けば茜色のドレスの白面女が目の前だ。


 さて、困った。


 そっと胸元に手を添えながら寄り添って身を預ければ、髪の香りと改めて目の前にリントの(こうがい)がレオの目に飛び込むはずで、ギルバートおじさまとダンスしている時の基準でマリア仕込みの女の手管を使おうと思ったのだけれど…………身長差がある、チビが。まぁ誤差だろう。


「むぷっ!?」


 正面から抱きしめればヴァネッサ様のキャノン砲まで行かずともそれなりにご立派な自慢のブツにレオの頭を埋めさせる事になる、これは黙らせる為で他意はありません、ないったら、耳まで真っ赤になっているのが自覚できるから仮面は着けておいて正解であった。

 レオの後頭部をしっかり手で掴み、背中に腕を回す、耳が見えるくらい抱きしめりゃ十分だろう。


「いいか、クズの名前は策謀……殺した相手の姿を奪う外道だ……私ももっと警戒すべきだった、執務室でお仕事の邪魔をしてはいけないなんて言わず……もっと甘えれば良かった、ヴァーミリオンの嫁と受け入れてくれたおばさまの傍にいればよかった」


 もがもがなんか言っているようだけれどくぐもっていて聞こえない、息苦しいのかと思うけれど荒い吐息は感じるので呼吸はできているはずだ、なるほど女の武器……うるさい時にはとても便利かもしれない。


「手段は分からねぇ、暗殺だ……マリアおばさまがヤられた事を魔力の繋がりが深いリントだけははっきりと認識した……マリアおばさまの姿をした外道が成りすましている事もな……もし私がリントの立場だったら……その場で死ぬまで暴れ狂うだけだっただろうよ」


 レオナードの抵抗の動きが徐々に治まっていく、聞く気になってくれたかとクオンリィもほっとして続けた。


「……リント、は……すげえな……流石……だな……耐えて、機会を伺って、耐えて、耐えて……ッッ……そんな間も……家出娘に優しくしてくれて……さ。――でも、お前があのクソ外道の姿を見たら、一発で見抜くから……そうしたらレオに手を下させることになるから……挑み、及ばなかった」


 気が付いたら、レオナードの腕がクオンリィの腰と背中に回され、ぐっと抱きしめる力を感じる。そういえば密着間合いはレオめちゃくちゃ強いんだった、小柄ながら抱きしめる力は流石の逞しさがあった、でもどうして? と思えば乳の間からどうやらスペースを見つけたらしい声が届いた。


「……リントが、泣くなって言ってるぞ」


 乳に埋もれるとは十七年生きて来て、多分余程幼い時以外の母上以来だった、ガサツで粗暴狂暴、暴力の権化のような幼馴染だけれど、こんな事で女の子なのだと意識してしまう。根っこの優しさはあの幼い日から変わらない。


 身体と声を震わせて、途切れ途切れに何度も口呼吸をする気配、鼻が詰まったのだろう……泣いているのだ、リントの話をしているからか、リントの魔力を感じる、魂とは魔力に宿るという、そこにいるのだな、リント。


「泣くわけ……ねぇだろ……わた……わたし、が……踏み込んだら……リント、澄んだ目をして……ッ翼……!」


「そうか……」


 ふぐっとか鼻を啜る音とか、仮面の顎の部分から垂れてるのかレオナードの頭に雫がぽたぽたかかる、涙か……涙だよな?


「だから……私がそれを継いだ、ゲロ外道の奴の狙いは飛竜だ、前線に出させて狂化させて飛竜騎士団をどうにかするつもりだと読んだから、後方支援、住民避難に回るよう団長のヒゲに頼んだ……リントでさえ正気で無くなったのに他の飛竜ではとても出せないってな……おそらくリントも自分が狂化したことを理由にさせるためにあんな人の多い時を狙ったんだと思う」


「それで、避難していたのか……」


「あのクズそれでとうとう本性出してな、避難開始直後のタイミングで城門に架かる橋を降ろそうとしやがった、門の外の魔王軍も一気に本格的に攻撃を始めたから……それで、私もそれをさせるつもりはねぇから私から仕掛けた……」


「……成したか?」


 クオンリィのこれまでの話を聞く限り、策謀とやらは母の姿をしている。包み込むように抱くに至らず、力任せに抱き寄せる。


 学院で最後に姿を見た時はまるで幽鬼で、これまでのフローレンス嬢への数々の妨害行為や直接的な戦闘行為はとてもではないが看過できるレベルではなく、フローレンス嬢の為に炎を放って来た事に後悔はないにしても、出奔したと聞いて少しだけ心配はした。


 今日再会して見れば思いのほか元気だとは思ったけれど……母やリントと過ごす時間は彼女にとって元気を少しでも取り戻す切っ掛けとなったらしい。


 けれど、その温かな時間があの狂剣を鈍らせたのではないか、と思ってしまうのは、女の子に対して失礼か、クオンリィ・ザイツの餓狼の牙は、母の姿に届いたのか……。


「……侯爵様が、割って入らなければな……」


「父上……」


 ギルバート侯爵はレオナードよりも魔力ははるかに高い、しかし……魔力を見る目は持っていなかったのだ。なぜ外門に二人がいるのかはわからないが先日右肩を砕かれた妻が目の前で左腕まで斬り跳ばされて冷静でいられなかったのだ……斬られた左腕から全く出血もしていないという事を見逃すほどに。


「なんだ、流石に強いな……」


「ま、まさか……父上が亡くなったというのは……ッッ!!」


「いだだだ! ば、加減しろ! 折れる!」


 何度も言うけれどレオナードの服の下はバッキバキのムッキムキである、魔法制御を成すのは仕上がった筋肉と絞り上げたカッティング、そして決めポーズがヴァーミリオン流。クオンリィも相当鍛えており腰を抱いた時感じたその足腰の強さがドレス越しの引き締まった身体を想像させる。


 ふと我に返ると正面から抱きしめ合って乳の谷間からモガモガとくぐもった声を発しているのは何だか随分と……そうだ、今顔の周りにあるのは乳だ、思った以上に柔らかく弾力がある、そして冷静になればもう一つ伝わってくるものは、相手の体温だ、熱でもあるのかというくらいに熱い。女子は心拍数も早いのだな。なんだかこちらも……い、良いのだよな?


 その時。


「失礼致します、クオンリィ様、二の丸の防衛に成功いたしました! 魔王軍は城下で態勢を整え直す模……よ……レオ様?」


 ノックも無しに扉が開いて報告の声が飛び込んできた、戦闘中なのだと気持ちが引き戻される。目元は埋まっているのでわからないけれど、声は良く知っている、銀朱城の魔術士隊を父上の下で指揮している男の声だ。


「応、兵に休息を、くれぐれも警戒に穴は作るなよ。それと門の修繕は奇襲に気を付けて必ず護衛を付けろ」


「は、誰もこの部屋には近づかぬよう手配いたします」


「そんな指示は出してませんよねえ!?」


「は、マリアノートの御指示でございます」


「お、おい、何だそのノート!?」


「オッパイに顔を埋めながら申されても聞こえませぬな……それでは」


※ お読みいただきありがとうございます。

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