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恋は魔法で愛は呪い  作者: ATワイト
第四章
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第117話:絶望の先にある者よ!!

 悪夢(ゆめ)を……見る。


 魔王再封印の成った十数日の後……戦勝に沸く王都サードニクスに魔王再封印隊が遺跡群から帰還した。

 ……西部候都ノワール陥落の数日前から消息を絶っていた侯爵令嬢ヴァネッサ・ノワールの亡骸と共に。




 遺跡群の地下、唯一、三百年という月日を"生き残って"いた区画は……生き残っていたのか、魔族が再起動したのかはどうでもいい。拍子抜けするほど魔王軍の警備が薄く、伝承通りの魔王封印の広間に辿り着いた一行の前に、彼女は現れた。


 現れたというのは語弊(ごへい)があるか、広間の正面には瑪瑙城(めのうじょう)の巨大な門には及ばないものの、見上げる首が痛くなるほど高い、どこか幾何学的な紋様が生物の血管のように張り巡らされた門が聳え(そびえ)て、静かな薄い緑の光が明滅を繰り返している。


 その光に薄ぼんやりと照らし出された広間の中央、円形の祭壇上に彼女は据えられていた。


 材質は……彼女と言えば黒耀という先入観がそうさせるのか……一見すれば黒耀石のようだと思われる。しかし、黒耀石がここまで透き通ることは無い、まるで黒い硝子(がらす)


 そしてその中……上でも下でもなく、中。黒耀石の中にまるで琥珀に閉じ込められた化石のように封じられている黒衣の令嬢。

 閉じられた瞳と血の気の無い肌、至る所に大小様々な傷を負い、特に左腕は根元から喪われていた、それで満足な治療の形跡もないのだから死因は失血死だろうか……? 無論呼吸などしている様子も、できる状態にあるとも思えない。居合わせた誰の目にもそれは黒耀石の棺に納められた亡骸以外には映らなかった。


「そんな…………ヴァニィ……!? どうして!? まさか! 王都が墜ちたのか!?」


 ジョシュアが思わずと上擦った声を上げる、今見えているものが信じられないと、取り落とした"聖槍(せいそう)"が石畳の床の上で踊り、甲高い音を周囲に響かせ、彼の呟きが一行に戦慄となって伝播する。


 彼女は……ヴァネッサは再封印隊への加入叶わず、再封印に旅立つジョシュアをノエルと共に王都で見送った筈である、そのヴァネッサが変わり果てた姿、それも明らかに戦闘を行ったと思しき彼女だけが纏うことを許される黒に金色の装飾はヴァネッサの軍装に間違いがない。


 王都にいる筈の侯爵令嬢が、魔王軍の本拠地である魔王封印の地にて軍装で屍を晒している。それは最悪の事態を想起させる。



 魔王軍による王都サードニクスの陥落、それは魔王再封印の失敗を意味する。


「間に合わなかった……ってのか、よ……」


 悔しそうな呟き。ディランが両親の思いが込められた肩盾に右手を添え、オヤジ……オフクロ……と呟く、そして同じく王都に住まう家族を思い、水色の瞳を零れ落ちんばかりに見開いた彼女はぺたんと床に座り込んでしまっている。



「違うッ! まだだッッ!!」



 絶望に呑まれてしまいそうな一行の中、まだ終わりではないと鋭く激を飛ばしたのは、レオナードだった。


 以前は一行の中で最もヴァネッサを毛嫌いしていたレオナード、彼は学院を離れて南部候都の戦を経てから明らかに一皮剥けた。声変わりも多分しばらくぶりに会った人が気付く程度にはしている。


 それ以来特にヴァネッサについて言及する事もほとんど無くなっていたのだけれど……亡骸を前にして毅然とした態度のレオナードの目は真っ直ぐとヴァネッサに向けられている。同じ侯爵家の嫡男と令嬢、道を違えた幼馴染はきっと自分と同じ誇りを持っていると心から信じている、そういう眼差し。

 ヴァネッサの婚約者であるジョシュアが数度頭を振るような、そんな眼差し。


「そう、か……そうだね、すまない……ボクとした事が……眼鏡がずり落ちてしまうところだった」


「うむ! 皆も思い出せ! 奴らが南部に続いて王領ではなく西部を攻めた理由を!! ヴァネッサが西部侯爵家ノワールの姫であるという事を!」


 ジョシュアの手元が狂い眼鏡はずり落ちてかしゃりと割れた。フェルディナンドもオーギュストも、思い出した「理由」にハッとするよりも困惑が多く顔に浮かんでいる。

 そうだ、魔王軍は『順に攻める必要がある』のだ。


 お前なんか変なもの喰ったか? とあからさまに顔が語っているのは在学中はヴァネッサの悪口仲間だったディランだ。余談ながら出した札が宣言通りかを当てるゲームの通さない時の宣言を「ですわー」と言うのをレオナードが提案した事があったけれど、ジョシュアがキレ散らかすのでやめたという逸話すらある。



「そうかそうか、この"絶望"……またも覆されるか!! だが収穫はあったぞ? ヴァネッサ! うむ、良き名だ!」


「誰だ!!」


 ヴァネッサの棺の向こうから、隻腕の偉丈夫が姿を現す、本当にこれが今まで隠れていたのか? 誰一人気付けなかった存在力が其処にはあった。


「ヴァネッサ妃に免じて名乗ってやろう人間! 我こそが魔王軍四天王最後の一人!"絶望"のファルファーラよ!!」


「妃だと!? ヴァネッサはボクの婚約者だぞ!?」


 取り落とした"聖槍"の石突を踏み、梃子の原理で跳ね上がった槍を掴むジョシュアは臨戦態勢である、旅の中で次々と明らかになる彼女がこれまで行ってきた数々の悪事は……とても彼女が西部侯爵令嬢で自身の婚約者であることを差し引いてもお咎めなしとはいかないだろう――けれど、それでも……。



 ジョシュアにとっては、間違いなくかけがえのない愛する人だったのだ。



「ならぬ、妃は魔王様のお世継ぎを産れる運命(さだめ)である! よもや寝所に放り込まれるや否や魔力を暴走させて散華とは……いやはやとんだ凶弾の魔女であったがな」


「キサマァァッッ!!」




 今コイツは何と言った?


 果ては望まぬ(ねや)に放り込まれるや魔力暴走……そうか、自決か……ノエるんが先に散るも、もはやこれまでとなろうとも……。

 ただ一発の銃声を其処に届けようと、絶望だけはしなかった。


「ああもっと前に……仲直りがしたかったな」


 眠るヴァネッサの軍装姿、その腰の佩刀。

 黒に白銀の装飾も美しき魔鞘・雷斬。


 すうと息を吸い、左の拳を力強く突き出したレオナードの足元から渦のように熱気、否、もはや(ほむら)が沸き上がる、こんなもの魔力発揚のレベルではない。これを『魔当て』と見切れるのは今は亡き父上くらいであろう……。


「落ち着けィジョッシュ!! 短絡は最期まで諦めなかったヴァネッサを汚すぞ!!」


 腹から絞り出す声がビリビリと広間の空気を打ち震わせる……言う己が落ち着いていないのかもしれない。


「ほう! 貴様もまた素晴らしい!! 許す! 冥途の土産に名乗るがよい!」

「黙れッッ!! このオレを誰と心得る?? "魔龍候"レオナード・アルフ・ヴァーミリオンなるぞ!!」


 名乗れと言われて名乗らぬ誇りはない、先を逝く三人の幼馴染は「あいつ名乗りやがった」「バーカ」「許されてんじゃありませんわー」とでも笑うだろうか、笑ってくれるだろうか。思い出させてくれた一番迅く(はやく)駆け抜けた彼女は遂げたのだ、だから自分も願おう、誓おう。


 彼女が願うのならば!!



「その願い!! 生き様!! 誇れ!!」


 鮮烈に迸る魔力はプラズマとなってレオナードの発動準備が完了したことを報せて散る。

 一度右肩を左の拳で叩けば、亡父の遺品である立派な飾緒(しょくしょ)がしゃらりと鳴った。



 ――叫べ!!我が焔!!





()()!! ≪龍焔(りゅうえん)≫ッッ!! ――発動ッッ!!」」





 絶望の先にある炎が、武く(たけく)燃え上がる。

レオ様かっこいい!続きをはようと思っていただけましたら嬉しいです。

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