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恋は魔法で愛は呪い  作者: ATワイト
第四章
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第116話:退場になどならない

 舌打ちを連続させながら、ぎっしと椅子の背凭れに体重を預ける抜刀令嬢、乙女回路とはいったい……。


「だいたいですねえ? 一目惚れとか言っときながら、どうやら理由は私にかまけてフィオナそっちのけにする覚醒阻害の流れってことじゃないですか? しかもフタマタだあ? 顔だけ男がふざけやがって」


 オーギュストの名誉のために言っておけば、とんだ誤解もいいところである。まずフタマタと断じたフローレンスとの(えにし)に関してはそもそも世界が違う。

 フィオナとフローレンスが同一存在でも別人であるように、オーギュストはオーギュストでもぶっちゃけ別人の話だ、今すぐ三組に乗り込んで「フローレンスって誰じゃこら!」とかやっても本人何を言われているのかがわからない事だろう。


「あ、あはは……」

「顔は……ね……」


 だからその辺「わたしじゃないわたし」がなんか棒っきれぶん回す系女子だったとか言われてもそんなこと言われても困っちゃうフィオナとしては視線を他所にやって苦い笑いを浮かべるしかない。


 ところがジェシカには記憶の連続性がある、オーギュストといえばジェシカにとっては親友と同じ頼れる前衛で、平民でありながら≪聖剣(せいけん)≫の魔統に覚醒した抜群の剣士。

 そして本人が隠していたつもりかはわからないけれど、明らかにフローレンスに好意を抱いていた男子生徒である……正直この眼帯女に気があるらしいと初めて聞いた時は「野郎、浮気か」とボルトを一本へし折ってしまいそうにすらなった。


「……なんですか? いいですよ? キレないであげますから言ってみな?」


「……残念でしたね……振り向いてくれない幼馴染を追うのに疲れてきたところでせっかく新しい恋に進めそうだったのに」


 だからというか、言ってみろというなら言ってやる。恨み言の一つも湧く、件のフローレンスに見た目だけは瓜二つのフィオナがぎょっと水色の目を丸くして静止の声を上げるには十分だった。


「ちょ、ちょおお!? ジェシカ!? 暴れちゃう! 猛犬中尉(もうけんちゅうい)――ぷふっ……が暴れちゃう!!」


「…………はっ! 言うじゃねぇか……」



 軽く噴き出しながらも必死にジェシカを止めようとしているのか……煽っているのかわからないフィオナがはらはらしながら二人を見やるけれど、意外やクオンリィ、ジェシカのこの挑発をすんなりと通した。



「えっ!? 今の通るの!?」

「お前は通さねぇけどな……アトデオボエトケ」

「エ? ナンノコト??」


 一言余計なフィオナちゃん安定の墓堀技術である、アンダーテイカー。


「ま、いいんですよ私は、そんなものが今すぐ無くても満足に在る為の生き方もしているつもりですし、心の(よすが)となる人にも私は囲まれています……それを手放しなどしません」


 言葉にはしないけれど……振り向いてくれない幼馴染に何年、一体何年歯がゆい思いをし続けたと思っていやがりますか? と言っているようで……流石にフィオナにも口がはさめない。

 そして更に言外に、退場になどならないと改めて言葉にする、言葉に続き、ジェシカにも目を向けて。


「テメェが()られることがあるなら、私が相手です、あの御方の手は汚させません、もっとも、そうならないように立ち回れよ? 主命とあらば容赦はしません」


 一息。


「という事でそれぞれの担当は分かったな? このバカの課外活動班に勧誘すんぞ」


 ジョシュア、レオナードは後回し。ディランはフィオナ本人、オーギュストはクオンリィ、となれば消去法でフェルディナンドはジェシカとなる。

 貴族的な身分や、一応幼馴染の立場ではあるクオンリィが手を貸すのが望ましいけれど……先程の大暴露によればフェルディナンドは相当苦手らしい……。それでも何よりヴァネッサ様のトリガーに対する抑えにはなってくれるだろう……なってくれるよね? それ以上を望むのは贅沢というもの。


「ま、時間はあるんでしょう? ヴァネッサ様に降りかかる災禍厄難をたたっ斬るぞ」

「おー!」

「は、はい」


 ふたりの応え(いらえ)を受けてパキン! と指を打ち鳴らすと、[音声遮断]のが解除され部屋の外の音が入ってくる……。


「あれ? 結構静かだね、もっとわっとなると思ってたのに」


 音声遮断解除に立ち会うのももう何度目かになる、大体は一気に音が津波のように押し寄せて、慣れないとそれだけで身じろぎしてしまいそうになるものだけれど。個室ってすごいね、なんてへらりと笑ってそういやそんな学内公共施設を軽くあらしたね……とはるか遠くを見つめる眼差し、視界の隅に壁を真一文字に走る刀傷が入るけれど、フィオナちゃんには見えません。


「ん? ああ……もう三限始まってますよ?」


 言いながら制服の胸ポケットから銀色の懐中時計を取り出して時間を確認する、なかなかの高級品、商会の令嬢のジェシカも持っていないけれど、ヴァネッサが自分の誕生日に三人揃いの懐中時計を王家に所望したという逸品である。ともあれ今から戻れば途中入室はできるだろう。怒られる? 知りませんね。


「ええッッ!?」


「どうしました? レ嬢、三限は薬草学でしょう? 何なら遅参の理由に私の名前を使って構いませんよ」


「……クオン」


 フィオナが首を横に振る。


「四組……魔法学」


「レ嬢!! さっきの無しだ!! 絶対私の名前は出すな!! いいですね? わが身可愛さで言ってるんです!! いいですね?」


 放課後、母と娘のほほえましい追いかけっこが学び舎で繰り広げられたとか、一瞬で決着を見たとか……それはまた別の話。

 もちろん遅参したジェシカも居残り馬歩(ばふ)の構えで寮の部屋に帰って来た時には膝が大爆笑だった


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