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恋は魔法で愛は呪い  作者: ATワイト
第四章
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第115話:乙女回路

「この期に及べば……私からも、貴女達に言う事があります」


 机を戻し、改めて三人で椅子に着いたところで、クオンリィが言った。


「そこのレ嬢が死んで戻る時、干渉できる御方がもう一人居られます」


 その言い方、誰とは言わずとも……。

 水色の瞳を丸くしてフィオナがその名前を口にする前にクオンリィが開いた掌をフィオナに向けた。「言うな」そういうことだ、意図が伝わったフィオナは言葉を嚥下えんげする。


「まあ私は実感が無いのですが……結局のところ因縁いんねん因果(いんが)の関係と考えていいでしょう……風が吹いたら桶屋は儲かってついでに蝶が飛ぶ的な?」


「余計わからないよ……」


 理解れ淫乱ピンク、と小さな嘆息。「溜息は幸せが逃げちゃうよ?」なんて幻想をぶっ壊してくれた本人がいけしゃぁしゃぁと宣ってくれるから右手をカギ爪のようにわきわきさせると、雷閃抜刀流・狼牙(ウルフファング)を恐れたか媚びた視線をこちらに送って来た、教室に戻るまでに一発は極めようと思う。


 さておき。


「あー……ちょい戻りで因果、戻る前に確定されていた結果のことですよ? それを変えようと思ったら、それに関わる因縁に干渉すれば因果も変わるってことです」


「それならわかる、庭園を通ってたのを通らない事にしてジェシカが消し飛ばされるのを回避した、みたいな?」


「深くは聞きません……いいですか? ……それは逆に言えば因縁が繋がっていれば変えようとした因果とは別の、意識していない別の因果も変わる事もあるって事です」


 誤射、と言っていた……そうか、消し飛ばしちゃったか……。クオンリィは若干気まずい思いを得て窓のほうを見やる。

 フィオナとジェシカが気付いているか知らないけれど、実はとっくに昼休みは終わって三限が始まっている、三限は薬学だったか? 苦手だからいいやと伸びない学生の思考。なおフィオナは得意分野で授業中わからないところが聞けるのはいいけれどいちいちマウントを取ってくる。


「あたしがラスクを拾って飼い始めたことで、ジェシカ世界の暴れるラスクがいなくなった、みたいな?」


「そういうこった、私が子犬のラスクをどうこうすることもなくなった……しかしちょっとおかしいですね? 婚約お披露目の時は私達ギリギリどころか結構前から瑪瑙城に逗留していましたよ?」


「じゃあ……私が何もしなくてもディランがノワールの馬車に轢かれそうになる事は……なかった?」


 余計なことしちゃったかな? なんて苦笑いを浮かべるフィオナ。


「ヴァネッサ様が中心の流れだから、事前に登城したのであれば……何もしなくても何事も無かったかも知れません……かも、という言葉を私は使いました……ちょい戻りの話ですけれど因果を変えようと因縁に干渉したけれど、浅い干渉や干渉しなかったことは戻る前と同じ因果に帰結したそうです」


「それって?」


「テメェがフェリとラスクにしたことは無駄じゃねぇと思いますよ?」


「クオン……ありがと」


「ふン……大変気に入らない事に……大筋の流れって奴は既に存在して? お前らには認識に差異はあっても因果が存在している……? だったら……――話は単純にしちまえと思いますがねえ?」


 示指(じし)でトントントン、と一定のリズムを叩く、クオンリィが考え事をするときのクセであり……実は師匠である抜刀伯に直せと口を酸っぱく言われている事だった。何故か? このリズム、実はクオンの体内時計のリズムである……熟練の使い手に見抜かれればタイミングを計る要素を与えてしまう。もちろんそれだけでどうこうできる猛犬中尉ではあるまいが、抜刀伯に全く歯が立たない時は大体これが原因だった。


「ど、どういうこと?」


「レ嬢……オマエ特に一年余計にジェシカ・レイモンドやって今ここにいるんでしょうが……? どうしてお前らガン首揃えてどうしようどうしようってやってンですか?」


 呆れに視線を細めてジェシカを、そしてフィオナを見る。


「とどの詰まり、なっげー巻き戻り中ってワケですよね?」


 今時分が、と補足に添えながら若干不敵に口角など上げるものだから二人はごくりと唾をのんだ。


「じゃあ次に据えるのはなんだ? 大目標は≪封印≫覚醒のリミットまでにバカ五人とフィオナがオトモダチになる、これですね?」


「バカって……」


「バカで十分ですよ、ったく見所あると思ってたら錯覚とか激冷めですよ……」


 今【好感度センサー】を使ったら言ってる通り冷めているのだろうか……なんて思ったけれどそれをやったら藪からヒュドラの大群になりそうなのでフィオナは苦笑いを返すに留めた。


 正解である、何やらじっとりとした半目に眇めて光彩を消した紫色が不意に向けられたのだから……「視たか?」と口頭で言うよりもハッキリ言外に告げてくるから、ラスクが水浴びした後の犬ドリルばりに桜色の頭を高速振動させて事なきを得た。


「とにかく……レオは確かにこのままいけばジョシュアと確実に揉めるでしょうね……っつーか……とっくの昔にジョッシュからは敵認定されてます」


「ぅ……」


「ヴァーミリオン侯爵家が王家と不仲って話は聞いたことがありませんよ? 王領との交易も順調ですし……」


 四地方と王領の交易、交友は商家の娘としてジェシカにも一家言ある分野の話、しかし少なくとも南部から王領への材木や石炭の流通は価格も数量も安定している。


「そりゃな、レオはともかくジョッシュは上っ面の付き合いはしますし、あくまで個人の話に留める理性くらいは持ってますよ……まぁ……将来的になったら……わかりませんけれど……」


 ノワールとヴァーミリオンは終わるだろうなぁ……なんてどこか遠い目の次代ノワール家の重鎮になるつもりのクオンリィは呟くのであった。そういう意味でも仲直りしようとしているレオに好意を感じていたものだけれど。ジェシカとしては棚から牡丹餅というか、藪からパイソンくらいの衝撃である。

 西部ノワールは材木資源が絶望的な荒野である……代わりに金山鉱脈資源が潤沢で、南部とは大変良好な貿易関係を結んでいるけれど……それが終わるというのか、というか終わるって……材木資源を求めたスパルタンがヒャッハァする内乱の予感に体が震えた。……これはビジネスチャンスだ、保存食や武装の需要が上がる。


「――あと、わかってると思いますけれどジョッシュのヴァネッサ様への執着はヤバいぞ?」


「ヤバそうだから後回しにするつもりだったけれど……クオンにまで仕掛けてくるとまでは思ってなかったよ……大丈夫?」


「私を狩りたきゃクソ親父でも連れてくるんですね。まぁそんなことはどうでもいい…………レオとの兼ね合いも含めてこの二人は慎重に進めるんですね、あちら立てればこちらが立たず……めんどくせー男どもですよ全く」


 なんだかすっかりやさぐれてしまっている、フィオナもジェシカも顔を見合わせて困惑である、「え、こいつチョロい上に乙女回路搭載型?」「属性盛りすぎでしょ、あつまれ属性の森ガール?」円滑なアイコンタクトが交わされる。


「オウ……テメェら……何か失礼なこと考えてませんか? ……まあいい、ヴァネッサ様にブチギレられる心配ばっかしてるみたいですけれどヴァネッサ様の不興を買ったらまずジョッシュが真っ先にキレるからな?」


 フィオナドリルアンドヘドバン再び、ジェシカが真似してるけれど長い髪が絡まってドリルが途中で固まった……これは痛い、ジェシカのふわふわとした癖のある髪は少し羨ましかったけれど、ドリルに向かないとは……フィオナは一つ賢くなった気がした。


 そしてクオンリィの言う事もしっかり肝に銘じる、確かに……クオンリィとノエルと言えばヴァネッサ様と完全にセットの三人、【黒い三連星】だ、その排除を目論むほどジョシュアは拗らせている……。


「フェリは……フィオナ、私はてっきりお前らとっくに突き合ってると思ってましたよ?」


「クオン、指。下品な指やめて。指しゅぽしゅぽさせないで。卑猥なこと言わないで。……ディランとはただの幼馴染、攻略済みだからいつでも誘えるってだけ……」


「……レ嬢、どう思う?」

「あざといです」


「そ、そおおんなこと言うならクオンこそオーギュストはどうなのよ!?」

「て、てんめえそれを!? 失恋したての私に聞くかあ!?」


 ずがんと机を叩くクオンリィ、周囲の知らんうちに勝手に失恋したらしい、乙女回路めんどくせえなあ。

好き、キライ、でも好き

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