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恋は魔法で愛は呪い  作者: ATワイト
第四章
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第113話:やっぱりバカじゃねェか

「ジェシカ・レイモンドの~」

「好感度~、御開帳~」


「いやああああああ!!!!」


 つかつかと部屋の隅にへたり込んでいるジェシカのところに近づいていくクオンリィ、左手は腰の高さ、右腕はだらりと力を入れず弛緩している。「巻き藁一本斬るのに構えなんざ不要ですよ?」なんて、抜刀伯が聞いたら確実にゲンコツ食らうような事を口走りながら、柔和な顔立ちに満面の笑顔を咲かせる。


「ま、巻き……?」

「セーブでしたっけ? しなさい、今」

「えっ……」


 明らかに尋常じゃない人斬り抜刀嬢の様子にびくついていたところで突き出された要求に真顔になって問い返すジェシカ、冷や汗一つ顔を伝った。


「フィオナにテメェの好感度を丸裸にヒンかせた私の記憶を定着させます、こういう使い方でしょう? なぁフィオナ?」

「あ、そっか……でも私は覚えてるから自死されてもクオンが斬っても、もう好感度センサー使わなくてもネタは上がってるよ?」


 シャドーでしゅばばばと拳で空を切ってアップ暴露大会の準備はオッケーよ! とばかりなフィオナがぽやっとした問いかけをクオンリィに投げ返す、記憶保持の持ち主よりもなしのほうがセーブを使えている気がする。転生者はバカしかいないのか。


「オマエ、何のためにこの場で見る事になったのか忘れてますね? バカですか? バカでしたね」

「バカじゃないもん! クオンに信用して貰う為に……あ」

「やっぱりバカじゃねェか」


 それはともかく、本題である。クオンリィは隅っこでへたり込んでいるジェシカを睥睨へいげいすると。


「おいレ嬢、舌を噛んだら斬ります。セーブしなければ斬ります。」

「ひ、ひぃぃ……フィオナ、この人ヤバイ……」

「知ってる。一回斬って安心してるからほんとに斬るよ? 割と躊躇ちゅうちょなく」

「せ……≪セーブ≫」

「よおし! 念の為一回逝っとくか?」


 嬉々として軽く右の手首を振って感触を確かめている猛犬中尉もうけんちゅういがにっと爽やかに白い歯を見せて笑うけれど、怖いわ! ジェシカは窓側に逃げていなかったことを後悔した、窓側ならワンチャン脱出……『良識の螺旋』結構高かったなー、地上三階から四階の高さ……しかも内濠うちぼりの無い区画だった筈……駄目だコレ巻き戻る。


「いやいや、ジェシカのソレ、回数制限あるのかとか一日何回逝けるのかとか前回のセーブからの間隔制限があったりするかも? とか、同じ場所に二回戻ったらどうなるのかとかわからないことだらけだからね?」


「ふむ……成程、検証を繰り返すわけにもいかねえ……と、めんどくせえな」


 ちぇーと口先をとんがらせ、黒鞘をサッシュに差して左手は柄頭を包むように添えるクオンリィ。あからさまに不満そうな顔で「死合いし放題だと思ったのによー」なんてとんでもねぇバイオレンスを囀って(さえずって)いらっしゃる……。適度にステイしてくださるヴァネッサ様は大変偉大なのです。


「まぁ本題です、楽しみですね?」

「ダララララララララ……」

「本題が地獄!」


 口でドラムロールを挟む程度にはフィオナちゃんもノリノリである、ぶちかませい! と右手を振るクオンリィとの息はぴったりだ。


「順不同でいくよー! ディラン・フェリ! 59%!!」

「ほう、それはどういう値ですか?」

「ちょっとはマシなモブ!」

「ええええっ!?」


 驚きの声がジェシカの喉を震わせる、そんな、結構付き合いも長いし、確かにちょっと実力不足な所はあるけれど見所はあると思っていたフィオナの、そしてフローレンスの幼馴染のびっみょーな好感度……こんなバカな……。


「ダララララララララ……」

「次ィ!!」

「レオナード・ヴァーミリオン!! おお、これは……76%!! 結構好きが出ました、異性ならキュンですよ隊長!!」

「うそお!? そりゃレオ君は頼りになるけれど……」

「なんだなんだあ? レオも隅に置けませんねえ! さてはお前チョロいな!!」


 確かにオールラウンダーのジェシカにとってレオナードの後方支援火力は大変な戦力だった、何ならレオ君がそこの眼帯女に引導を渡して失踪に追いやったともいえる、とにかく≪龍炎(りゅうえん)≫が超強力なのだから……しかし、故郷ヴァーミリオンの"銀朱城(ぎんしゅじょう)"が魔王軍の手で陥落させられ、両親と死別して南部から敗走の憂き目を見た事で、えらい影と憂いのある次期侯爵の気配を纏うらしいけれど……。

 彼が王都に帰ってくる前に入れ違いのようにジェシカは退場するので……直接面識のある傲岸不遜なちびっこレオ君は男性としてどうという感情を持ったことが無いのだから。


「ダララララララララ……」

「かましてやんなあ!」

「フィオナ・カノン! ありゃ!? 67%もある!?」

「ほぁ!?」


 これがフローレンスならむしろ低いとさえ思う、けれど……同一存在扱いなのだろうか?とジェシカは首を少し傾げた、白い髪が微かに揺れる。


「どんどんいけえ! あっはっは!」

「ジョシュア・サードニクス! ……60%」

「微妙だな……?」

「うそん」


 確かにジョッシュはヴァネッサの婚約者だしどうしても一歩引いて接してしまうけれど、前線に立って的確に指示を飛ばすパーティの中盤の要だ……確かに好感度とはちょっと違うけれど信用はしていた筈だ、だってフェルディナンドの実弟だし……。ジェシカの首がさらに曲がる。


「オーギュスト・ギラン! あらあら……75%、隊長! キュン異性が二人目とかこいつとんだドスケベです!!」

「えええええええ!? ちょ、だってオーグはフローレンスの事が……!!」

「っかー! 横恋慕ですか? イヤだイヤだ! これだから今どきの尻軽チョロ子さんは!」


 ドッスケッベ!ドッスケッベ!と他人のコイバナだからと並んで肩を組んで煽りまくるフィオナとクオン、女子力である。ジェシカとしては困惑しかない……多分親友が好きな男の子は同じ剣士のオーグだった、と思いたい、フェルディナンドとも仲が良かったけれど。


「他に高いのは無いんですか?」

「えーと……きた、98%!!!!」

「や、やだ恥ずかしい……フェルディナンド?」

「ヴァネッサ・ノワール……様」

「……え?」

「は? ……ヴァニィ?」

「ちなみにフェルディナンド・サードニクス……30%」

「無い! だってあたしはフェルを愛してるもの!!」

「はっ、テメェの愛の程度が知れますねえ……?」


 衝撃の値が飛び出してきてクオンリィもジェシカも困惑の色を濃くする。なんか変じゃない? とクオンリィの紫とジェシカの黄色が交差する中フィオナはノリノリであった。


「次は、ノエル・ガラン。95%!!」


「…………ちょ……待て」


「……」


「えーっと、あとはジェシカ・レイモンド、これはひどい……10%」


「…………おい」


「……」


 ジェシカのへの好感度? クオンリィの眉尻がピクリと跳ねた。 ジェシカはといえば、察しがついて気まずそうにさらに部屋の隅っこへと体を押し付けている。


「どしたの? クオン、次はラスク! 80%だよ!」


「……私はどうですか?」


 ラスクへの好感度がなかなか高い、ジェシカってばワンコ大好きすぎね! なんて心弾ませているところに、底冷えするようなクオンリィの問いが差し込まれた。


「えーっと……あれ? クオンが……無……い」

「これ私の好感度ですねえ!!!!」

「ぐぺっ!?」


 がっとフィオナの右手首を左手で掴み、抜刀で鞘引く鋭さを以て一気に引き込めば、フィオナの体は自然と右の半身。併せて踏み込むクオンも向き合う右の半身、即座折り畳んだ右肘の先端でフィオナの顎先を鋭くアッパーカットに刈ると奇声と共にフィオナは平衡を手放して床にべちゃりと溶け落ちた。雷閃抜刀流・無手之型「骸牙スカルファング」……一閃。


「いつの間に視やがりましたか!? 二十か!? 二十でぶん殴ったときにプリンみたいにぷるるんと抜け落ちましたか!? つかあの思わせぶりな馬歩ばふ無しに一瞬で視えてんじゃないですか!!」

「あ、あっるぇ……や、意外と検索条件が良かったというか??」


 事故である。"不運"がシャルウィダンス? 嫌だと言ってもアフターカーニボォ!!

 入学してこの方ハードラックとダンスダンスダンスしてばかり! 毎度おなじみH.T.D.である。


「くっそ、こうなったらたたっ斬って巻き戻しですよ!」

「や、さっき……クオンが……」


 上書きさせましたねえ。


「……」


「……クオン?」


「しっ! フィオナ! 藪からヒュドラよ!!」


 藪を突いたら蛇が出たの上位表現を使いながら壁に身を摺り寄せるジェシカが言う、なんか隙間に引っかかって屋根の上までワープできたりしないだろうか? 無理? デスヨネ。


「忘れなさい……?」

「え、鋭意努力します……」


 フィオナが完全に調伏された悪鬼の様で呻くように答えるのを見て、そこで壁の虫となっていたジェシカが跳ねるように顔を上げる、二本のアホ毛がびーんとV字に開いた。


「!! ≪セーブ≫ッッ!! あたしも()()()()()()()()忘れませんけれど、これで聞いた記憶完全固定ですからね!? 斬っても無駄ですよ!! ザイツさんは好感度を聞かれた状態で確定されました!!」


「……この……ッ賢しい(さかしい)真似を……ッッ!!」


 フィオナと同じを強調するのは忘れない……。


 手詰まりだ……クオンリィ・ザイツ、完全敗北の昼下がりであった。

勝利者などいない……。

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