第105話:ともだち
確かにフィオナは何か知らんけれど特別だ、でも……。
「姐御」
「ンだよ?」
「あたしのこともぶってください!!」
朝の教室の喧騒が、波のように引いていく。
オーディエンスの注目をひとり占め、ニューヒロインの誕生だ。
言われたクオンリィの脳内では、なぜかノエルのへったくそなオカリナの音色が残響のように鳴っていた、ぷぽーぽぴー。うるせぇ。ぷぴー。
「あー……フレイ?」
「押忍!!」
「私はちゃんと聞く上司と地元じゃちょっとした評判のガールです、異論ありますか? ないですね? だから聞いてやります、酔っぱらってんのかお前?」
「押忍ッ! 酒は未経験です!」
酔っぱらっていたほうがまだなんぼかましだった、亜麻色をかき上げながら高い天井を見上げる、元々の王城にこんな教室は不要な設備だから増築された部分のはずだけれど天井の装飾からも当時の職人のこだわりが見てとれる。
クオンリィとしては別にフレイをぶん殴るのは構わないのだけれど……。
「大丈夫か? 多分痛いぞ……」
「多分じゃなく痛おごぉ!」
実際ごっつんごっつんやられているフィオナが食い気味に抗議の声を上げる、急にフィオナが来たものだからその石頭にゲンコツが落ちるのはこの世の摂理。
羨ましいかこれ? とフィオナと二人してフレイの顔色を伺う、マスクのせいで口元が見えないけれど少なくとも眉根は寄ってハの字になって二人を見ている目はなんだか潤んでいる。
「な、泣くこた無いでしょう?」
「ぐすっ……だって!」
「なーかしたーなーかしふぐぅ!?」
「だって……アタシも……専属なのに……」
「専属腕章は別にぶん殴るマーカーじゃありませんよ!?」
ああ困りましたねとクオンリィが困惑に視線を彷徨わせていると、レバーブローで蹲ったフィオナがじっとりとした恨みがましい視線を向けてくるから無視をする。煽るからそうなるんですよ……。
「ったく……」
仕方ねぇな、と呟いてから、ぺちこーんと打ち下ろし気味にフレイの頭を平手で叩くクオンリィ。
「あいたあー!」
「ほら痛い! だーから痛いって言ったじゃない! ばーかばぶぁ!」
どごす、とフィオナに垂直落下に鉄拳を打ち下ろしてから、一息。音が違うとか平手じゃないとかいう抗議の声が聞こえるけれど当然無視だモーストバカ。
「……フレイ」
「……ッ……押忍ッ!」
殴られ慣れていないフレイはまだ頭を抑えていたけれど、敬愛するクオンリィからの呼びかけに居住まいを正して応じる、殴られる光栄に瞳に焦がれが煌めいていた。
「……お前はな……その……私の事姐御って呼びますよね?」
「押忍ッ!」
「その……な……た、大切な……」
「大切な!?」
食い付いたフレイのテンションに引き気味のクオンリィ、超珍しい反応だった。
「……ともだち……だからよ」
「姐御おぉぉああああああああぉぉぉぉおおおおおおおおおぉぉぉおおおおおおおおおおおおあぁぁぁぁあああああぁああああああああぁあぁああぁぁぁぁぁ!!!!」
発狂した。




