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恋は魔法で愛は呪い  作者: ATワイト
第四章
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第100話:湯気の向こう

 アルファン王国においてアメニティはほぼ魔法で補われている。


「きゃっきゃ」


 というか[洗浄]の魔法が存在するため下手をすれば風呂なんか入るのは時間の無駄だとか言い始める蛮人もたまぁにいるらしい。

 ……平民、特に職人や野外生活が長くなりがちな行商人、護衛、冒険者……あとは訓練中毒の剣士などもその傾向はある……意外と多い。


 ちゃぷっ。


 これは貴族社会では大変嫌われる、[洗浄]の魔法とて万能ではないので、大変申し上げ難いのですがなかなかのスメール放ってますね! となってしまっていたりするので注意が必要である。


「うふふ……」


 そも一口に[洗浄]の魔法と言ってはいるけれど、意外と奥が深くて、まず前回この魔法が使用されたのもやはり黒い三連星のお部屋での出来事だったけれども、希少魔統≪雷迅≫の特殊性で「なんでも雷属性~」なおバカちゃんが制御をミスして口の中から感電していた。


 ……クオンリィの場合はちょっと特殊過ぎるのだけれど、制御をミスると結構悲しい事になるのが[洗浄]の魔法。

 生活魔法に分類されているけれど魔法学的に分解すると[攻性魔力]を使用する、超微弱な攻撃魔法でもあるのだ。


 よってアルファン王国の貴族女子達は皆アメニティグッズが大好きである。

 例外なく三人娘もそうで、王都には高級アメニティの専用店があり、次の休息日には三人で覗きに行こうと話していたのだ。


「おいタエル取ってくれ」


「タオル? ほい」


 ヴァネッサのお買い物は基本的に買いに行くスタイルではなく商人を招いて行われる買ってやるから来いスタイルが基本ではあるけれど、候都ノワールにいた頃から三人で市街によく出たものであった。

 後は寝るだけというお風呂タイムで使用される香料・石鹸だけでそこらの衛兵の一週間の給料は吹き飛んでいる……。


「いい湯でしたわ」


 というわけでアメニティ解説という湯気の向こうで三人娘の入浴シーンは終了した、うん、すまないとは思っている。


 三人娘はそれぞれ明日の用意などに思い思いに動くけれど、続きの扉は解放され、ちょっと声を張れば声は届くのだけれど流石にご令嬢なので避ける。


「ヴァニィちゃーん、もう寝ますかあ?」


 猛犬以外は。


「まーだ寝ーませんわー」


 そうでもなかった。

 侯爵令嬢とはいえ相手がクオンリィとノエルならばヴァネッサはあくまで自然体で接することができる、意外と肩がこるのよ。お胸がでかいから。


 短銃姉妹(ろざりぃ&しゃーりぃ)を手慰みにくるくるくるくるとガンプレイで回しながら上機嫌、個室から応接室に出て来たヴァネッサはシックな黒いワンピースタイプの夜着に身を包んで、一度くるりと身を翻すと後ろ回しでポコッと蹴って自室の戸を閉じる。

 お行儀は悪いけれど両手が塞がっているのだから仕方がない、ダンスレッスンの自主練習も兼ねているという事で。

 髪に溶かし込んだあまり強めではない薔薇の香りがヴァネッサが応接室でくるりくるりと舞うに長い黒髪なびいて香りが咲く。ありきたりではあるけれどやっぱり己の異名の一つ"西部の黒薔薇"らしく薔薇の香りが一番好きだった。


 ちなみに、賊が呼ぶ"西部の黒百合"の黒百合は人によっては悪臭と言える匂いをさせる虫誘香なので流石にヴァネッサも纏う気は無い、ハエがたかる。

 特に西部の荒野ハエはかなり危険な魔物で、生きた人間にでも平気で卵を産み付けに来る、拳大の大きさでブンブン飛んでくれるからまだわかりやすいのが救い。


「そんじゃあどうしましょっか? カード? ボード? ダーツでもいいですね?」


 そんなことを言いながら連れ立って二人部屋から出て来たのは鞘を持った全裸と着ぐるみタイプの夜着。ぺちぺちん、≪魔弾≫[ヴァニィちゃん平手・弱]が二発全裸に飛んだ。


「あふん!」


「変な声上げてないでせめてガウンくらい羽織ってきなさい」


「へーい……」


 すごすご引き下がる全裸ことクオンリィが少しして浴衣を羽織り帯に刀を差して出て来た頃には今宵の戯れはカードに決まったようであった。


 既に五枚のカードがテーブルに配り終えられ、ヴァネッサとノエルの手には五枚のカードがある。


 ……真っ当なゲームの気配がしない。


「配るとこからやりませんか?」


 ヴァネッサから見て向かって右がクオンリィの定位置である、差しものを帯から抜いて傍らに抱え込みながらソファに身を落としてそんな提案をしてみる。


「いやよ、いい手が来たんですもの」


「配っただけだよ?」


 しれっと言う従姉妹同士、そうして同じような表情を浮かべていると少しだけ目元が似ている。

 仕方がないと伏せられたカードを手にするが、見事なポーキーで頬が引き攣る。


「あらあらあ? クオるんほっぺが引き攣ってますわよ?」


「引き攣ってまーせーん! ベットは?」


「コイバナでしてよ」

「ほい、アタシフルハウス」

「クワッズ」


 ヴァネッサが答えると流れるようにノエルが手をテーブルにパーンとオープン、ヴァネッサもそれに続いて、えっ!? なっ!? なんて交互に驚いた顔を向けたけれど……二人ともしれ~っと澄まし過ぎている……。


「ぐっ……この……茶番……交換はしてもいいですね?」


 山札から捨てた枚数分引くファミリーポーカーである。諦めてたまるか、ワンチャンかけてやると紫の目に真剣な色を滲ませた。


「ええ、いいわよ? 一回ね。それでクオるん剣聖の弟子はどうでしたの?」


「はーとんだ尻軽だあ、ヴァルくん聞いたら泣いちゃうよ~?」


 既にオープンしている二人の手と自分の手札を見比べ、少しでも可能性のあるカードチェンジを考えるクオンリィだけれど、負けてもいないのに人のコイバナが始まった。

 そもそもこの三人でまともに恋バナができるのがいない、ノエルはセンテンススプリングな話が出てくるので聞くのも焦る、ヴァネッサ様はワンパターンと女子会としては地獄のような環境だった。


「……どうしたもこうしたも一撃ですよ、あとノエル、ヴァルター様をからかうな」


「あらー、きゅんと来ちゃいましたの!?」


「けっ、破局待ってるよー」


 そこへやってきたオーギュストという獲物は実に弄りがいがあった。


「んなわけないでしょう、弱すぎますよ……よし、三枚、シャッフルで引いていいですね?」


「ええどうぞぉ? ああでもヴァルターはクオンおねーちゃんは―? っていつも聞いて来るわよ? 満更でもないんじゃないかしら」


「ノエルは聞かれないでしょうね、あの子おっぱい聖だから」


 祈るように一枚一枚丁寧に引いて、そして、ギィと口の片端が吊り上がる、好き勝手言ってくれましたけれどこれまでですよ! と言わんばかりの表情にまさかストレートフラッシュでも引き当てたかとヴァネッサ達の表情にも緊張が走った。




「――そらきたぁ! フラッシュです!!」




 数日はこのネタでいじれる。


 従姉妹二人は頷き合うのだった。

ついに本編100話、いつも読んでくださってありがとうございます!



※ポーカーの役の強さ


ストレートフラッシュ

クワッズ

フルハウス

フラッシュ

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