忘れ形見
やっと母さんの名前が出ました。主人公は…たぶん次回?
~ギルドマスターの部屋、ナリア視点~
人の趣味にとやかく言うつもりはないのだが、久しぶりに訪れたこの部屋は相変わらずの内装をしていて私はうんざりとした顔をした。壁にはいくつもの魔物の毛皮や角と言った素材で飾られ、もちろん足元に惹かれている毛皮も魔物の物。全体的に薄暗い部屋で気味が悪い。その部屋の奥にある椅子に腰かけている人物がこの部屋の主のギルドマスターで名前はマーレイ。
「来たか…で今日はどんな用なのだ? 話に聞いたところ連れがいるようだがまさか…」
「ああ予想通り連れは『彼』だよ」
「じゃあまさかついにっ!」
「まあまて。それは流石にまだだと思うぞ」
「ふむ…」
『彼』を連れてきたといったら慌てたマーレイだがその後に続いた私の言葉にほっと胸をなでおろしている。
「では一体何のつもりで連れてきたんだ?」
「あれだ『彼』の要望での。町へ出てそろそろ一人で生活してみたいといいだしてな。なれるまで私も付いているつもりだが…もしかすると前兆かもしれないし、そうじゃないかもしれない」
「ふむ…まあSランク冒険者が傍についていれば多少は安全か」
「もしも、とかもあるから今から本人を鍛えておくのはありかと思ってね」
「して『彼』の能力はどうなんだ?」
マーレイの言葉に私は顔をしかめる。普通に生活してきただけの人がどの程度の能力かなんてたかがしてれいるのだ。そんなこともわからないはずもないだろうに一体私にどんな答えを求めるというのか。
「しいて言えば普通。若干物覚えはいい気がするくらいだな」
「では違う可能性もあるのか…」
「さてのう。流石にそれは私にもわからん」
「そうか…」
「そうじゃ…」
私もマーレイも過去を思い出したのか少しだけ顔を伏せた。お互いの顔がよく見えないのでどんな顔をしているかわからない。
「…はっ 親子ねぇ~」
「むっ?」
どうやらマーレイと私の考えていたことは違ったようだ。若干人を馬鹿にしたかのような笑みを浮かべてこっちに顔を向ける。
「いや気持ちはかわからんでもないんだが、流石に親子って言うのは無理があるんじゃないかなーと」
「うるさいわっ お姉さまの忘れ形見を面倒見ないわけにもいかないだろうが!」
「血の繋がりもない姉なのにか?」
「…血など、どうでもよいわ…」
軽く拳を握りしめ私は顔をそらした。本当は姉のためなんかじゃない。でもそんなこと口にはできない。これが一番周りも納得できる理由なのだからな。
「まあいい。して『彼』は冒険者にでもなるのか?」
「さあ…どうなんだろうな?」
「おいおいじゃあなんで連れてきた」
「そんなの決まっておる。ここで買い取りとかあるだろうが」
「それだけかよ…」
「そうだが? まあついでに顔でもだしておこうかなとね」
「Sランク冒険者にして次期エルフの先導者のナリア様の考えはよくわからんねぇ」
私はマーレイの言葉に頭が真っ白になった。気がついた時にはマーレイに向かって杖を突き出し魔力を練り上げていた。
「その呼ばれ方は嫌いなのだが…?」
「か、軽い冗談じゃねぇか…」
「仮にも上に立つものが言っていい冗談との区別もつかんとは…このギルドも長くないねぇ」
「悪かったってっ ギルド利用『彼』も少し融通するからさ!」
「…ふんっ」
杖を振り下ろし練り上げた魔力を霧散させた私はそのままマーレイを背にして扉から部屋の外へと出ていくのだった。