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81 あーん

 授業が始まる前に教室を見渡す。


 出来ることなら登校初日にエンカウントすることは避けたいと思っていたのだが、幸いなことにジャックの姿は見当たらなかった。


 そもそも最近はめったに来ないので、もしかしたら次に教会に来るのは教会学校卒業時に自らのスキルを鑑定してもらう「鑑定会」の時になるのかもしれない。ジャックもデリカと同じくスキル鑑定を楽しみにしていた。


 そうしてしばらく考え事をしていると、リーナが教室にやってきた。今日の授業の始まりだ。


 八歳と九歳のグループは席が近いので、最初の「読み」の授業中にパメラの様子を伺ってみた。授業についていけているか気になるからね。


 そういうことで、リーナが巡回していない隙を狙ってパメラを見ていたんだが、妙にこちらをチラチラと伺うパメラと目が合った。向こうはすぐに視線を外すがバレバレだ。


 授業内容が分からなくて集中出来ていないのかと心配したんだが、どうやらカミラに勉強を教えてもらっていたのだろうか、授業は問題なく受けられているようだった。


 もしかしたら気配に敏感な子なのかもしれない。パメラの勉強の邪魔をしないように自分の授業に集中することにした。翻訳スキルがあるので相変わらず「読み」の授業は最高につまらない授業なんだけどね。


 しかしその後もたまにパメラがこちらを伺う気配を察することが出来た。やっぱり普通に集中力があまりない子なのかもしれないな。まぁ授業に慣れればそのうち集中も出来るようになるだろう。



 ――――――



 読み書き計算の授業が終わり昼休憩の時間だ。デリカとユーリは昼食を食べに自宅へと戻った。


 俺とニコラは父さん特製の弁当で、パメラも昼食を持たされているようだ。午前中の様子だと放っておいても同い年の女の子から昼食のお誘いはあるとは思うが、今日は先に約束していたので一緒に昼食を食べることになった。


 九歳グループの女の子たちとおしゃべりをしているパメラに呼びかける。するとパメラは女の子たちに手を振りこちらへやってきた。


「もうすっかり仲良くなったんだね」


「うん、マルク君のおかげ」


 パメラは照れたように笑った。なんというか安心できる笑顔だね。もう学校に行くことを怖がることはないだろう。


 三人で裏庭に行き、土魔法で丸テーブルと椅子を作る。そして三人で囲むように座った。


「それじゃあ食べようか」

「はーい!」

「うん」


 アイテムボックスから俺とニコラの分の弁当箱を取り出し、コップに水魔法で水を注ぐ。パメラも手提げ鞄から弁当箱を取り出すと、空のコップと共にテーブルの上に置いた。


「水を入れてあげようか?」


「ううん。魔法の練習になるから自分で作る」


 そう言うと空のコップに水魔法でちょろちょろと水を注ぐ。コップがいっぱいになると、ふうふうと息を吐いて額の汗を拭った。


「まだ全然駄目だけど、いつかマルク君みたいに魔法を使いこなしたいな」


「そうだね。がんばってね」


 魔力は使えば使うほど器が鍛えられる。きっと無駄にはならないはずだ。俺の体験談でもあるしね。さすがに自分の成長率はちょっとおかしい気はするけど。


 弁当箱をパカリと開ける。俺のリクエストで茹でたテンタクルスを特製ソースで絡めたカルパッチョが入っている。


 さっそくフォークで一刺し、食べてみるとやっぱり美味しい。ニコラもムニュムミュと噛み締めて味と食感を楽しんでいる。


 しかしそろそろ生でも食べてみたくなったな……。イカ刺しって無理なのかなあ、セカード村ですら生で食べてなかったしなあ。でも生食文化が無かっただけかもしれないし、ポーションを万が一に備えておけばなんとかならないかな。


「マルク君、その白いのって何?」


 俺がイカ刺しに想いを馳せているとパメラから声がかかった。


「これはテンタクルスっていう魔物を使った料理なんだ。最近ウチの宿屋の食堂でもメニューに出したりしてるんだよ」


 興味深げに見つめるパメラに「食べてみる?」と聞くとコクリと頷いた。


 それなら切り身をひとつパメラの弁当箱に置いてあげよう。そう思った瞬間に左隣からプレッシャーを感じた。視線を向けなくても分かる。ニコラだ。


 これはつまりそういうことか。……わかった。わかったよ。あーんをすればいいんだな?


 パメラは弁当箱に手を添え、こちらに差し出そうとしている。それをインターセプトするように、切り身の刺さったフォークをパメラの方に向けた。


「はい、あーん」


 すると途端にパメラの顔が真っ赤に染まり固まってしまった。


「………………」


 そこから十秒ほど経過した。真っ赤なパメラを見ていると、からかってるような罪悪感を感じたので、ごめんねお弁当箱に乗せるね? と言おうと思った瞬間、パメラは目をギュッとつぶって小さく口を開いた。


 そこにフォークごと切り身を口の中に入れると、パメラはパクッと口を閉じる。そして口からフォークを引き抜くと、真っ赤な顔のまま俯いて咀嚼した。


 しばらくして喉を通過したようだったので、「どう?」と聞いてみた。


「よ、よく分からない……」


 俯いたままパメラが答えた。


『恥ずかしくて味を確かめるどころじゃなかったんですね。いい反応です! お兄ちゃん、やればできるじゃないですか!』


 うん、かわいかったね。でもパメラにやるのと受付嬢のリザにやるのはちょっと違う気がする。リザならドキドキ、こっちはほんわか? みたいな。


 ニコラは大喜びだが恥ずかしがるパメラがかわいそうだ。やっぱり今後は控えよう。

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