77 ハンバーグサンド
俺は手品を見せるように溜めを作り――
「じゃん!」
アイテムボックスからまな板、フォーク、ナイフ、皿と次々と取り出してみせると、パメラは驚きで口をポカンと開ける。その顔はテーブルを作ってみせた時に見たカミラの顔にそっくりだと思った。
「すごい……。それって魔法?」
「魔法なのかな? アイテムボックスって言うんだ」
そう言いながら更に白パン二個と父さん特製の熱々ハンバーグ二個をまな板の上に置く。
そしてナイフでパンに切り込みを入れてハンバーグを挟み皿に乗せると、まだ呆然としているパメラの前に置いた。
「はい、どうぞ」
「あ、はい、いただきます……」
パメラは会釈をすると丁寧に両手でハンバーグサンドを手に取る。お作法のことを思い出したんだろう。なんだか微笑ましい。
そしてパメラと一緒にハンバーグサンドを食べる。うん、今日もおいしいね。食べながらパメラに話しかける。
「パメラは何か魔法を使えるの?」
「水魔法が少し使えるよ」
パメラはジュースの飲み終わった自分のグラスに片手を添える。すると指先からちょろちょろと水が出てグラスへ注がれた。
「お母さんはもっと得意なの」
少し誇らしげにパメラが答える。水魔法が得意かー。水商売だからとか関係あるのかな、いや無いな。
「マルク君、水魔法は使える?」
「使えるよー」
俺も自分のグラスに同じ様にちょろちょろっと水を入れた。ここでたっぷりと水を入れてドヤ顔するような大人気ないことはしないのだ。
「他にも何か使えるの?」
パメラが興味深げに聞いてきた。今までは俺から話しかけてばっかりだったが、ここにきてパメラからも話しかけるようになってきたのは嬉しいね。人見知りな女の子との会話の糸口にもなるなんて、やっぱり魔法はすごい。ようし、ちょっと張り切っちゃおうかな。
「それじゃあ、少し見せてあげるね」
俺は集中すると光魔法で指先に光の球を作り、それを最初にジュースに使ったっきり放置されていた、氷のたくさん入ったガラス容器の中に放り込んだ。
すると氷とガラスが不規則に光を通し、薄暗い店内の壁にぼんやりとした光を放った。その光が店内を満たす中、続けて赤っぽい光球、緑っぽい光球、青っぽい光球を容器に放り投げる。
そしてそれぞれをガラス容器の中でゆっくりと動かすと、その不可思議な色合いの光が部屋中を駆け巡る。まるで部屋全体が万華鏡になったかの様だった。
「すごい……きれい……」
うわ言のようにそう呟いたパメラは、しばらくその幻想的な風景に魅入っていた様だった。そして俺に静かに話しかける。
「……男の子はみんな怖いのかなって思ってたけど、マルク君は怖くないね」
「うん? そうだね、怖くないよ」
俺ほど怖くない八歳児はいないだろう。なんといっても前世の記憶があるしな。
そう考えるとジャックの件はジャックが全面的に悪いにしても、同情の余地がないこともない。
俺だって前世では女の子をいじめたりはしなかったが、それでも歳を取ってから思い出して後悔するような事は一度や二度はあった。子供の頃から清く正しく生きるのは大変難しいのだ。そう思うと、少しだけジャックを擁護したい気持ちが湧いた。
「まぁジャックにしてもさ、そりゃジャックが悪いし許してあげてとまでは言わないけどさ。可愛い女の子にいじわるをしちゃうのは、バカな男にはあったりするもんなんだよ。だからパメラもあまり気にしないほうがいいよ」
俺がそう切り出すとパメラが口を尖らせ、
「それじゃあ、いじわるしないマルク君は、私のことを可愛くないって思ってるってこと?」
「あ、いや、そういう意味じゃなくてね、僕はほら、うまくやれるというか、成熟した精神というかね?」
少し慌てながら弁解をしているとパメラは口を綻ばせ、
「冗談」
そう言って笑った。
おっとお兄さん一本取られちゃったな。冗談まで言うなんてすっかり打ち解けたようだ。やっぱり魔法はすごい。YMSだよ。
その後もハンバーグサンドを食べながらぽつぽつと会話を続け、食べ終わって少しまったりとしていると、突然裏口の扉が開き昼の光が差し込んできた。
「ごめんなさい、少し相談が長引いちゃって。……あら、もしかしてお昼ご飯も食べ終わったのかしら? なにかごちそうしようかと思ったのだけれど」
扉を開け放ったままこちらに近づいてきたカミラは、片付けが終わりテーブルの上には何も無いというのに、何故か食事が終わったことを察したようだ。
不思議に思っていると、俺の方を見て何かに気づいたパメラが懐から取り出したハンカチで口元を拭ってくれた。どうやらハンバーグのケチャップが付いていたらしい。
「おっと、ありがとう」
「うん」
ハンカチを仕舞った後パメラが少し照れたように俯いた。それを見たカミラが、
「あらあら、少しの間で随分と仲良くなったのね。マルクちゃんは魔法以外にも才能があるのかしら? ……と、それは後にして」
カミラが頭を振り、言葉を続ける。
「えーと、マルクちゃん、一週間後の領主様の視察の日にね、ウチの店を手伝ってくれない?」
え? 俺にホストでもやれって言うの?




