71 報奨金の分配
冒険者ギルドで報奨金を貰ってから数週間が過ぎた。
さすがに金貨90枚は大金だと思ったので、使い道を両親に委ねようと思ったんだが、両親は俺達に任せると頑として聞かなかった。
それじゃあ好きにやらせてもらおうということで、まずは金貨30枚づつの三分割にすることにした。
そしてまず30枚をゴーシュに分配することに決めた。ゴーシュはなかなか受け取ってはくれなかったが、本来なら盗賊を撃退してそのまま放置していたのをゴーシュが衛兵に同行して捕縛してくれたお陰で貰えた報奨金だからと説得し、なんとか受け取ってもらえた。
次の30枚は両親に贈った。両親は俺達がそれで構わないのならと、こちらはすんなり受け取ってもらえた。
残りの30枚は俺とニコラで15枚づつ折半した。
90枚の金貨で手元に残ったのは15枚。これでも大金ではあるんだけど、こうした金貨の配分にニコラから文句が出なかったのが意外といえば意外だった。普段は俺のおやつを横取りしたり、あーん一つで激怒するくせにな。
そして俺は今、裏庭の花壇の手入れをしている。お風呂小屋の平屋根の上にあるセジリア草+1の種を植えた花壇だ。
鑑定した結果、どうやら全てセジリア草+1に成長したようだ。ということはこれからはD級ポーションを量産可能ということになる。
どうやら普通のセジリア草よりも成長速度は遅いようだが、それでもひと月足らずで1個あたり売値は金貨10枚、卸値は金貨7枚のD級ポーションが出来るのは大きい。相場を崩さない程度に売っていけば、この間の報奨金の金貨90枚とはなんだったのかというレベルで稼げることになるだろう。
とはいえ、8歳の俺は商人ギルドに卸しに行くことは出来ないし、セリーヌに売るとしても、セリーヌが高価なD級ポーションを大量に買うようなことはないだろう。
まぁ大金を使うようなアテは特に無いのだ。E級ポーションと同じくアイテムボックスに貯め込みながら、ゆっくりと別の使い道を模索しようと思う。
とりあえずセジリア草+1はノーマルよりもマナをたくさん吸ってくれるので魔力を鍛えるついでにやるには丁度いい。花壇に向けて思いっきりマナを放出していると、後ろから声が聞こえた。
「マルク、また花壇の世話?」
平屋根に登ってる俺を腰に手を当て見上げているのは、赤毛のポニーテールに黒いロングワンピース、白いフリルエプロンを身につけたメイド……ではなくデリカである。
「やぁ親分」
「親分禁止って言ったでしょ! 私はこの宿屋で雇われてるんだから親分はおかしいじゃない? それどころか本来なら私がマルク坊っちゃんに敬語を使ったほうがいいと思うんですけど?」
「うへっ、分かったよ。……デリカ」
そうなのだ。ついにデリカはここでアルバイトとして働くことになり、それに伴い親分呼びが禁止されてしまったのだ。うちの母さんも賛成したし、嫌なら逆にデリカが俺に敬語で話すと言われ、それもなかなか耐えがたいことだったので渋々了承した。
ちなみにデリカお姉ちゃんと呼ぼうと思ったんだが、デリカでいいとのことだった。
そしてあの衣装はニコラが金貨15枚を握りしめ服飾店にオーダーメイドしたものだ。手持ちのお金は殆ど吹っ飛んだそうだが、いい仕事をしたと満足げだった。
「それでどうしたの?」
「キッチンのテンタクルスがもう無くなりそうなんだって。新しいのを持ってきて欲しいそうよ」
セカード村では丸ごとを三匹購入したけれど、ついに二匹目に突入するらしい。まだ当分は大丈夫だと思うけど、そのうち仕入れに行ったほうがいいのかもしれない。まぁ三匹目に突入したら考えようか。
「分かった行ってくる」
梯子を使って平屋根から降りると、デリカと一緒にキッチンに向かった。
キッチンではニコラが野菜を切り、それを父さんと母さんがハラハラしながら見守っていた。
最近母さんは父さんに頼んでニコラに色々と料理の練習をさせている。自分は料理を覚えるのが遅くて苦労したからという親心らしい。
将来は俺に寄生すると言って憚らないニコラだが、さすがに両親にぶっちゃけることは出来ないらしく、渋々ながら練習していた。
ちなみにニコラが今練習している程度のことは、俺は既に手伝いついでに仕込まれている。ニコラは今までサボったツケだと思って受け入れるしかないだろう。
「来たよ母さん。テンタクルスが無くなりそうなんだって?」
「ええ、そうなの。冷蔵庫に入れてもらえる?」
「丸ごとじゃ入りきれないから、ちょっと調理台を借りるね」
調理台の上にアイテムボックスから丸ごとテンタクルスを出す。ちらっと隣を見るとデリカの顔が引きつっていた。最近ではここの料理にテンタクルスは欠かせない。なるべく早く慣れて欲しいもんだね。
調理台に置いてある包丁を手に取り、最近練習中の風魔法を包丁に纏わせる。
調理台を切らないように注意しながら、テンタクルスを適当に切り分けた。風魔法を纏わせた状態で切ると包丁の切れ味に関係なく軽い力でも、魚も骨ごとスッパスパ! 鮮やかでしょ? となるのだ。
関の職人が仕上げた逸品でもなく、刃にはチタンコーティングも施していないのにこの切れ味である。魔法ってすごいね。
そして魔道具の大型冷蔵庫にテンタクルスの切り身を入れて、大半はアイテムボックスに戻す。母さんが何かに気づいた様に手をポンと叩いた。
「あっ、そういえばマルクにテンタクルスのお金を支払ってないわ!」
「元々僕が食べたくて買ってきたものだし、別に構わないよ」
「駄目駄目、こういうのはしっかりやらないとね。ほんとごめんね?」
母さんがキッチンから食堂に向かう。受付からお金を取ってくるんだろう。すぐに戻ってきた。
「はい。待たせちゃってごめんね」
手の平には金貨2枚が乗せられていた。テンタクルスは1匹銀貨5枚だ。3匹分でも少し多い。俺が疑問を顔に浮かべて見上げると、
「お駄賃込み。ニコラにも分けてあげるのよ」
母さんの声に続いてニコラの念話が聞こえた。
『私はお駄賃よりも今のこの状況から逃げだしたいです』
ニコラを見るとキャベツを切りながら恨みがましい目でこちらを見ていた。
「母さんありがとう。それじゃあ遊びに行ってくるねー」
俺はニコラに気づかないフリをしてキッチンから逃げ出した。




