70 元手ゼロだからカロリーゼロ
もぐもぐとお好み焼きを食べる。美味しいのはある意味当然とも言えるが、自分が作ったキャベツに自分が探して購入した魔物肉と手間もかかっている分、単なる一つの料理という以上に食べているだけで喜びが沸き上がってくるね。
俺がお好み焼きを食べていると、リザが木のコップに入った水を飲みながらセリーヌに話しかけた。
「セリーヌさん、このお好み焼きに使われてるキャベツって、普通のキャベツじゃないですよね?」
「ふふん、その通り。魔法キャベツを使ってるのよ」
なぜかセリーヌがドヤ顔で答えた。
「えっ、魔法キャベツを使ってこの値段なんですか? 魔法キャベツなら普通はもっと単価があがるんじゃ……」
屋台で売ってるようなお好み焼きは銅貨4枚程度。ウチのブタ玉は銅貨8枚 テンタクルス入りは銅貨12枚なので十分高価だと思うんだけどな。
「マルクが魔法の練習で畑を耕してるのよね。マルクが言うには、練習の副産物だから実質タダなんだってさ」
「これで無料なワケないじゃないですか。これだけの技術を使って無料だなんて、他の農家の方々が絶句しますよ!」
「でも魔法の練習になるし、お金にもなるんだよ? 逆にどうしてみんな野菜を育てないか不思議なくらいだけどな」
俺が口を挟むとリザがため息をついてこちらに向き直った。
「マルク君、普通はそんな簡単に出来るものじゃないのよ? 一般の魔法使いなら畑にマナをバラ撒くだけで、しばらく動けないほど疲れるんだから」
「私がマルクに初めて会った時は、五歳でもう魔法トマトを作ってたわよ」
「五歳!?」
絶句するリザにセリーヌが笑いながら頷くと、リザはじっとりとした目で俺を見た。
「……なんていうか、規格外ですね」
いや待て、元々トマトを作れといったのはギルだったし、ギルはそこまで驚いた様子はなかったんだけど。
……もしかしてギルは魔法が使えないから、魔法ってのはこういうものだと納得していたのかな。
しかしなんだ、こうして褒めてくれるのは嬉しいけど、逆にプレッシャーも感じるわ。「二十過ぎればただの人」にならないように精進しないとなあ。農地はそろそろ限界だし、新しい魔法の特訓法を考えたほうがいいかもしれない。
俺が決意を新たにしていると、リザがガックリと肩を落とした。
「こんな……、こんな店がこの町にあったのを知らなかったのは本当に不覚です」
「フフフン、しかも宿にはお風呂まであるんだからね」
またしてもセリーヌがドヤる。
「お風呂もあるんですか? 私が住んでる借家はシャワーがあるんですけど、それでも随分と家賃を奮発してるんですが……。うーん、私もここに住もうかしら」
結構稼いでいるらしいC級冒険者のセリーヌはともかく、冒険者ギルド職員ってどれくらい給料を貰っているんだろう。
「リザお姉ちゃん、この宿は一泊銀貨5枚で朝食付き、お風呂は銀貨2枚だけど大丈夫?」
「ぐっ……、一泊ならともかく毎日泊まるとなると結構家計に響くわね……」
リザはテーブルに肘をつけて息を漏らす。
「仕方ない、諦めることするわ。でもたまにお風呂に入りに来るし、昼食は少なくとも全品制覇するまで毎日通うから、今後ともよろしくね」
そう言うとパチリとウィンクをした。美人さんはこういうのもサマになりますなあ。眼福眼福。
『お風呂!』
スルーしていたが、さっきまで延々と愚痴っていたニコラが目を輝かせる。これでようやく説教モードから解放されたみたいだ。正直助かった。
「さて、それじゃあそろそろ仕事に戻ります。マルク君、ニコラちゃん、また明日ね」
「うん、今日は送ってくれてありがとう」
「リザお姉ちゃんまたね~」
リザは俺達に手を振り返しカウンターで料金を支払い店から出ていくと、セリーヌがボソッと呟いた。
「明日からギルド周辺のレストランで、男共が悲しみに暮れることになるのね」
そういや俺もそういうのを一人見かけたな。すまんな皆の衆。




