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68 尾行

 しばらくギルドの中で待っていると受付嬢がやってきた。服装は冒険者ギルドのグレーの制服のままで同行するようだ。なんだか昼休み中のOL感がありますね。


「おまたせ。それじゃ行きましょうか。離れちゃ駄目よ?」


 受付嬢が俺とニコラに両手を差し出す。おててを繋いで行くらしい。先程の事件を思い出して少し照れそうになるが、なんてことも無いように手を握る。ニコラがこちらを見てニヤニヤしているがスルーするのだ。


 手を繋いで歩きはじめると、周囲のおっさん共が囃し立てる。


「リザちゃんが一気に子持ちになっちまったな」「彼氏を作るより先になるとはな」「おおおおれが彼氏に立候補する」「バカ、おめーじゃ釣り合わねーよ!」「俺もリザ嬢に指舐められたい」「ワタシもあの坊やをペロペロした~い」


 随分と冒険者から人気があるみたいだね、このリザお姉ちゃんは。俺も一部から人気が、いやなんでもない。


 冒険者ギルドから外に出た。昼食時ということもあり、周辺の飲食店は盛況のようだ。


「ええと、南門の近くのお店なのよね?」

「うん。こっちだよ」


 南門の方角を指差す。証明書には俺とニコラの住所や両親の仕事まで書かれていたので、それで知ったのだろう。


 それじゃあ行きましょうかとリザが歩き始めると、大通り沿いの飲食店の店前を掃除していた若い男がリザを見かけて声をかけてきた。


 どうやらリザの馴染みの店のようだが、リザが会釈してそのまま通り過ぎるとガックリと肩を落とす。お客を逃したこと以上に落ち込んでるように見えるけど、ドンマイ。



 大通りを自宅に向かって歩く。お菓子の大人買いは中止になったが、ニコラは満足げに受付嬢の手を握ってスキップ、たまにバランスを崩した風に装ってリザの尻に顔をダイレクトアタックしている。


『この受付嬢さん胸はいまいちですけど、お尻がすごいですね。十年に一人の逸材です。こんなの大人になったらお金払わないとやってもらえませんよ。お兄ちゃんも今のうちにやっておいたらどうですか?』


 えぇ、なんなの、このおっさん……。俺はさっきの指舐めでそろそろ青少年的な何かに目覚めそうでそれどころじゃないよ。


「もう、じっとしてないとダメよ?」

「えへへ、はーい」


 尻にまとわりつくニコラをリザが窘める。内心は欲望渦巻く酷い状況ではあるが、外から見れば幼い兄妹と年の離れたお姉さんが仲良く歩いてるように見えることだろう。とてもいい雰囲気なんだが。


 なんだが、……うーん。


『ニコラ、後ろに誰かついて来ているよねえ?』


『はい、三人いますね』


 さすがに大金を持っていることだし警戒しておこうと魔力で周囲を探索していたんだが、冒険者ギルドからずっとついて来ている連中がいた。


『ギルドから出る時も雰囲気は良かったし、そんな悪い人はいなかったと信じたいんだけど』


『高額報奨金目当てで結構な数の冒険者が流れてきたみたいですし、ちょっとカツアゲしてやるかくらいに思ってる輩がいても不思議ではないですよ』


『ギルドの職員が一緒にいるのにやっちゃうの?』


『世の中には自分の理解の及ばない人がたくさんいるんですよ。前世でもコンビニの冷蔵庫に入る人や、寿司屋の醤油差しを鼻に突っ込む人を理解出来ましたか?』


『な、なるほど』


 そう言われて納得できてしまったのは残念なことだが、とにかく今は後ろの連中をどうするかだ。実家までついて来られたくは無いので、途中で撒くのが一番よさそうだ。前を見ると丁度いい感じの路地があった。


「お姉ちゃん、ちょっと路地の方に行くよ。こっちのが近道なんだ」

「え、マルク君?」


 リザの手を少し強めに引っ張る。そしてすぐ近くの路地に入った。薄暗くて細い、おあつらえ向きの通路だ。


 その中を小走りである程度進んだところで土魔法を発動。来た道を遮る形で数メートルの高さの石壁を作った。


 路地は薄暗いし壁面もある程度ボロく見えるように作成したので、これで尾行している連中からは行き止まりに見えるだろう。これで脇道に行ったと思ってくれればいいんだが。あとは感知スキルがないことを祈るばかりだ。


「土魔法で一瞬で壁を!?」

「お姉ちゃん、しーーっ」


 驚くリザに口元に指を立てて見せると、リザは両手を口に当てて黙ってくれた。


 異世界でもこのジェスチャーが通じるんだなと感心していると、石壁の向こうで足音がした。


「なんだ、どこにもいないぞ?」


「見失ったのか? チッ、お前がチンタラしてるからだぞ」


 どうやら尾行していた連中のようだ。リザも状況を察して顔を強張らせた。ニコラが怯えてリザの腰にしがみ付く……風に装って、尻に顔を埋めてて深呼吸している。おい、もう少し緊張感を持ってくれませんかね?


 とにかく立ち去るまで待とう。もし勘付かれたら……、人気のない路地に入ったのは逆に良くなかったのかもしれない。


 辺りを歩き回っているのだろう乱雑な足音が聞こえる。


「どうだ? そっちにいたか?」


「分からねえ。どこの脇道に入ったんだか……」


「ったくよー。こんなことならさっさと声をかければよかっただろうに」


「バカ野郎。こういうのは遠くから見守るのが格好いいんだよ」


 んん?


「まぁ俺達より前にも後ろにも尾行している連中はいなかったようだし、もう心配ないだろ」


「そうだな。それじゃあ帰るか。ったく締まらねえなあ」


「ギルドに戻ったらさ、リザさん達を見失ったじゃ格好つかねえから、家まで見届けたって口裏合わせておこうぜ」


「それがよさそうだな」


 足音が小さくなっていく。ああ、そういうことだったのね……。


 俺とリザは同時に大きく息を吐く。そして顔を見合わせると声を出して笑った。


 そんな中、ニコラは今なお恍惚とした表情で尻に顔を埋めていた。リザの方からはニコラの顔は見えない。怯えていると思ったんだろう、ニコラの頭を撫でる。


「怖かった? もう大丈夫だからね」

「……うん」


 ニコラが尻から顔を離しリザを見上げると、その目には涙を浮かべていた。それを見てリザがしゃがみ込んでよしよしと背中を撫でる。


 この短時間に嘘泣きをするのは大したもんだが、よだれを拭き忘れてるのはいただけない。というかコイツ最初から尾行の連中のこと分かってたんじゃないの?

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