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【書籍化】異世界で妹天使となにかする。  作者: 深見おしお@『伊勢崎さん』コミックス1巻9/27発売!


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63 帰宅

 しばらくしてゴーシュが馬車の速度を落とした。そして緩めた顔で後ろの俺達に振り返る。


「……いやー、ビックリしたな!」


 今後も村を行き交うゴーシュとしては、あまり深刻に受け取らないほうがいいと判断したんだろう。軽い口調で切り出した。


「もうっ! 父さん盗賊なんて出ないって言ったばかりだったじゃないの」


 どうやらデリカもそれに賛成のようだ。多少わざとらしく見えるが、流れに乗っかった。


「ガハハ! すまんすまん。人数が少なかったし、どこからか逃げてきた残党なのかもしれんな。それとマルク、盗賊を見つけてブチのめすなんてやるじゃないか」


「やっつけたのは僕だけど、先に盗賊を見つけたのはニコラだよ」


 ニコラも可愛さ以外でたまには褒めてもらっておかないとな。多少は労働意欲が湧くかもしれない。


「ほう~、そうだったのか。ニコラもよくやったな」


 ゴーシュが目を丸くしてニコラを称えると、ニコラがいつものよそ行きの天使の笑顔で答えた。


「ドヤァ……」

『うん! えへへ!』


 ニコラさんニコラさん、会話と念話が逆になってますよ……。


「お、おう? ……っと、そろそろ到着だな」


 ゴーシュの呟きに前の景色へ目を向けると、次第にファティアの町が見えてきた。町の外壁を夕暮れ前の陰り始めた日差しが照らしている。


「それじゃあマルクとニコラは南門でお別れだな。俺達は東門で馬車を返して、そのまま衛兵に盗賊団のことを報告しておくからよ。まだ街道付近で転がってるかもしれんからな」


 ストーンバレットが直接は当たって無かったように見えたけど、結構な速度で落馬していたからなあ。


 気絶していたり、どこかが折れて未だに転げまわってたり、打ち所が悪ければもっと酷い事態も十分あり得る。どちらにせよ同情の余地はないけどね。


 ニコラと二人、南門で馬車から降りると、馬上のゴーシュ親子から声がかかった。


「俺が買った魔物肉は明日お前の家に挨拶がてら貰いに行くから、今日は預かっておいてくれ。それじゃあまた明日な」


「最後はちょっとビックリしたけど、一緒に旅が出来て楽しかったわ! それと……、ありがとね」


 デリカが少し照れたように感謝の言葉を口にした。盗賊撃退の件だろう。


「どういたしまして。僕らも楽しかったよ。また誘ってね!」


 そう答えるとデリカは表情を緩め白い歯を見せた。そうして馬車は方向を変え、東門に向けて進んで行った。



 南門ではいつもの門番ブライアンが立っていた。軽く挨拶して門を通り過ぎる。特に何も言わなかったあたり、母さんから今回の一泊二日の旅のことを聞いていたのかもしれない。


 そして実家である『旅路のやすらぎ亭』の裏庭へ回り、裏口から中に入る。とたんにキッチンから慣れ親しんだ料理の匂いが届いてきた。


「ただいまー」

「おかえりっ!」


 ニコラと二人で声をかけると、すぐさま母さんの声が聞こえた。料理中で手が離せないんだろう。二人でキッチンに向かう。


 キッチンでは母さんがフライパンを片手に出迎えてくれた。父さんは大鍋でスープを煮込んでいる。


「二人ともおかえりなさい~。……んー、楽しかった?」


 母さんは俺の顔を見るなり片眉を下げて首を傾ける。


 ふと、心配させるだけだから盗賊団に遭遇したことは黙ったほうがいいのではと思ったが、よくよく考えてみれば、どうせ明日ゴーシュ経由でバレる話だった。


 結局バレるなら先に言っておいたほうがよさそうだ。俺は大したことでは無かったかのように、母さんと父さんに盗賊団とのことを語ってみせた。


 一通り語り終えると、母さんは軽く息をつきフライパンの火を止めた。そして俺に近づき柔らかく抱きしめた。


「それでそんな顔してたの? 大丈夫よ、あなたは立派にみんなを守ったんだからね。……だーかーらー、胸を張りなさい!」


 とたんに背中をバシンッと叩かれた。


 母さんの肩越しに見えたニコラはニヤニヤしながらこちらを見ていた。自分では気が付かなかったが、随分と情けない顔をしていたらしい。


 まぁアレだ。前世でも殴り合いの喧嘩なんてしたことなかったんだ。多少引きずって顔が強ばるくらいは大目に見てほしい。


 父さんも俺の傍に近づき、頭をぐりぐりと力強く撫でる。うーん、なんとも照れくさくなってきたぞ。ここは話を変えることにしよう。


「それでね、お土産があるんだ。父さんに見てもらいたいんだけど……」


「お土産~? 私にはあるのかしらん?」


 セリーヌがひょっこりとキッチンに顔を出した。常連客とはいえ、なかなかフリーダムだなオイ。しかし客の視点からの忌憚のない意見も聞きたいし都合がいい。


「セカード村で魔物肉を買ってきたんだ。村の人は好んで食べているんだけど、見た目が良くなくて他の地域の人にはウケは良くないみたい。でもとにかく美味しいから味見してほしいんだ。セリーヌもね」


「味見~? やるやる!」


 入り口から顔だけ出していたセリーヌがウキウキしながらキッチンに入ってきた。


 まずは中央にある大きい調理台から余計なものを片付ける。テンタクルスは大きいからね。


「それじゃあ取り出すよー」


 みんなが注目する調理台の上に、アイテムボックスから取り出したテンタクルスをドカンと乗せた。


「ウワアアアアアアーーーー!!!」


 その瞬間、誰とも知れない絶叫がキッチンに響き渡った。

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