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56 イカのダンスはすんだのかい?

「どうもー。ただいま戻りました」


 ゴーシュが玄関の扉をノックすると、すぐさま扉が開き村長が飛び出してきた。


「おお、ご苦労さん! もうすぐ晩飯の準備が整うので、しばし待っていてくだされ。ささ、中へ!」


 ゴーシュに続いて家の中に入る。家の中は物が少なくガランとしており家の外見以上に広く感じた。奥の部屋から物音がするが、どうやらキッチンで村長の家族が料理を作っている最中のようだ。


 村長は俺達を家の中に引き入れながら俺の方を見つめる。


「マルクと言ったかの? 滑り台を見せてもらったぞ! 魔法であんな物まで作れるもんなんじゃなあ。ウチの村で大事に使わせてもらうからの!」


 そう言うと俺の手を握り、ブンブンと振り続ける。これだけ喜んでもらえるなら作った甲斐があったというものだ。でも少し手加減してくれないと俺の腕が抜けちゃいそう。


「お義父さん、その子が困ってますよ」


 料理が一段落ついたのか、奥から四十歳前後の女性が出てきた。顔にサンミナの面影がある。サンミナのお母さんかな? 村長は俺からパッと手を離した。


「お? おお、すまん! ついつい力が入りすぎたわい! それでどうじゃ? 料理の方は」


「もうすぐ出来ますよ。それじゃあみなさん、そちらにお掛けになってお待ち下さいね」


 女性は隣の部屋を手の平で示す。そこには大きなテーブルとたくさんの椅子が設けられていた。


 椅子に座って待っていると女性が続々と料理をテーブルに運び出す。しばらくするとガッシリした体格の男性が皿を持ってやってきた。横には小さな子供を伴っている。そして俺とニコラに軽く自己紹介をしてくれた。


 男性は村長の末の息子でサンミナの父親のサンタナ。農業を営んでいるらしい。それとさっきの女性はやはりサンミナの母親で、今この家には村長とサンタナ夫妻だけが住んでいるそうだ。


 村長の残りの息子やサンタナの子供はそれぞれ独立して家庭を持っているとのことだ。


 小さな子供の方はなんとサンミナの三歳になる娘で、仕事の間は実家に預けられてるそうだ。


 サンミナは十六歳って言ってたけど、もう三歳の娘がいるのか。とんでもない世界だよ。


 俺がサンミナの娘を見ていると、村長がデレ~っとした顔で説明する。


「かわいいじゃろ? ワシとしても久々のひ孫なもんでな。何かしてあげたいと思っておったところにゴーシュさんからシーソーの話を聞いてな。それで依頼したんじゃわい。オマケで滑り台まで出来上がるし、ほんとによかったの~」


 村長がサンミナの娘の頭を撫で回す。その後もひ孫の話を聞きながら料理が出揃うのを待っていると、サンミナが息を切らせながら家に飛び込んできた。


「間に合ったー! 今日は私も一緒に食べるね! まだ魔法のこと聞き足りないし!」


 どうやら魔法の話を聞きたいからと押しかけたらしい。


「もう、落ち着きなさい。あなた旦那さんはどうしたの?」


「カイなら夜の魔物漁に備えて軽く食べてすぐに出ていったよ! ただいまメルミナ~」


 サンミナが娘を抱き上げながら答えた。


「それならいいけど。というかもうお客さんとはお知り合いなのね」


「昼過ぎに村を案内して回ったんだ! ってヤバ……」


 サンミナママがため息をつく。


「あなたまたサボったのね……。旦那さんに愛想つかされても知らないわよ」


「カイは私にベタ惚れだから大丈夫だよ! ゴーシュさんデリカちゃん、さっきは挨拶出来なくてごめんね! 魔法を見てすっかり夢中になっちゃってさ~」


 サンミナがデリカの横に腰掛け声をかけた。


「デリカちゃーん! ちょっと見ない間に大人っぽくなったねー。そろそろ好きな男の一人や二人、出来たんじゃないの?」


「もう! 今日はそういうことばっかり聞かれるんだから! 私にはまだ早いわよ!」


 ゴーシュに散々いじられたのでご立腹の様子だ。


「早くなんてないよー。私がデリカちゃんの年の頃には、もうカイと結婚が決まってたし、そりゃもう岩陰に隠れてちゅっちゅちゅっちゅと――」


 それを聞いたデリカの顔がみるみるうちに真っ赤になり、サンミナママがサンミナの頭をペシッとはたく。


「小さい子供もいるんだから止めなさい。それより料理が揃いましたよ」


 テーブルには数々の料理が並んでいる。匂いからしてもうイカなのは間違いなさそうだ。イカの姿焼き、イカリングのフライ、イカのトマト煮、イカのマリネとイカフェスティバル状態だ。


「おお、それじゃあ始めるとしようかの!」


 テーブルに全員が揃う。代表して村長が口上を述べる。


「今日は本当にご苦労さんじゃった。ゴーシュさん達が作ってくれたシーソーと滑り台で、村の子供達はきっと元気にすくすくと育ってくれるじゃろう。それで今日はささやかながら感謝の宴を用意した。どうか心ゆくまで食べて飲んで楽しんでくだされい!」


 村長の口上が終わるとみんなが一斉に食べ始めた。


「うまい!」


 イカリングをひとかじりしたゴーシュが声を上げる。そして幸せそうにエールをゴクゴクと飲み始めた。


 それじゃあ俺もいただくとするか。ゴーシュと同じくイカリングから口に運ぶ。もぐもぐ……ゴクン。


 ――ウマーイ! そしてこの歯ごたえと味! これはイカだ! 間違いない!


 やっぱりこちらで言うところのテンタクルスはイカだった。むしろイカよりも若干味が濃いようでこっちの方が美味しいくらいだ。魔物に含まれるマナが影響しているのかな。


 ちなみにテーブルには刺し身は無かった。イカを愛するあまり踊り食いでもやりそうな人達だと思っていたが、さすがに魔物の肉を生食する剛の者はいなかったらしい。


 隣の席を見るとニコラも一心不乱でイカ料理を食べている。『やっぱりイカだったね』と念話を送ると『そうですね。今は忙しいのでこれで』と会話をぶった切られた。


 逆の席を見ると、デリカは目の前に置かれている料理をもくもくと食べていた。デリカがイカが苦手なのはさすがに周知の事実のようで、別の料理も用意されていたようだ。


 こうして楽しい食事が続いた。サンミナから魔法のことを聞かれ、俺が逆に村での生活を聞く。やはり町とは色々と違う習慣があり、聞いているだけでも楽しかった。


 話の流れで魔物漁の見学についてもお願いしたところ、食後にサンミナが連れて行ってくれることになった。



 こうして食事は終了した。久しぶりのイカ料理、大変美味しゅうございました。


「それじゃあそろそろ行こうか!」


 ゆっくりと食休みを取った後、サンミナが俺達に声をかける。


 ニコラが同行することになり、デリカも誘おうと思ったんだが、目前のイカ料理にSAN値が削られたらしく、早くも寝室に引っ込んでいた。


「おじさん達、それじゃちょっと行ってくるね」


 まだ飲み足りないらしく、男三人はテーブルを囲んでチビチビと飲んでいた。


「おお、気を付けてな!」


「サンミナ、子供達が危なくないように気を配るんじゃぞ」


「うん、任せてよー!」


 サンミナはランタンを片手に玄関の扉を開け、俺達もそれに続いた。



 ――――――



 家の外に出ると辺りはすっかり暗くなっていた。民家の窓から漏れる薄明かりと空に浮かぶ月の光だけが周囲を照らす。


 サンミナの持つランタン一つだけでは心許ないと思ったので、光魔法のライトで俺とニコラの足元を照らした。雑談の中で光魔法を使えることはサンミナに言っていたのでサンミナも目を丸くするだけで何も言わなかった。


 昼と同じ様に林を通る。そろそろ抜けようかという辺りでサンミナが口を開く。


「そろそろ照明の魔法を消しといてね。ランタンも消しちゃうから足元に気をつけて」


 疑問に思ったが言われた通りにライトを消す。そして月明かりだけを頼りに前に進んだ。


 林を抜けると昼に来た時と同じ様に広大な湖が目前に広がった。しかし月明かりに照らされた湖には船の姿は見当たらない。


 沿岸から十メートルほど離れた陸地側で人が動いているのが見えた。どうやら男達が火のついてない松明を地面に突き立てているようだ。数メートル横には同じような松明が均等な間隔で横並びに続いている。


 そして松明の周辺では十人以上の男達が三メートルほどの長い槍を持ち、松明の準備を見守っていた。


「そろそろ始まるよ」


 サンミナがそう言葉を発した直後、一人の男が拍子木だろうか木片のようなものを打ち鳴らし、カーンカーンカーンカーン! と甲高い音が湖に鳴り響いた。それを合図に一斉に松明に火が灯される。


 横並びの松明から一斉に火が揺らめく。松明が灯された後も拍子木の音は鳴り止まない。


 カーンカーンカーンカーン!


 松明の周辺では槍を持った男達が湖を見据えながら深く腰を落とし、何かを待ち構えているように見えた。


 一体何が始まるんです?

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[良い点] 読み返してたら、56話のタイトルが回文だったと気づく [一言] おみごと
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