46 八歳になりました
名前に+1が表記されてるのを見て俺がまず思い浮かべるのは、ダンジョンに潜って武器を強化していく不思議なゲームや、合成でハイクオリティな出来栄えだと白いアイコン枠になるネトゲなんかだ。
以前風呂の残り湯を鑑定した時、例えば母さんの残り湯は「レオナの残り湯」じゃなくて「母さんの残り湯」だった。なので俺の主観が鑑定に影響を与えているような気がする。
つまり+1表記はアイテムボックス側で、俺が分かりやすいように名称変更してくれたものじゃないかと考えたほうがいいと思う。
ってことは、セジリア草が性能アップしたと考えていいんだろうか? それとなぜ今になって+1が付いたのかも分からない。いつもと同じ様に栽培していただけなのにだ。
分からないことはニコラに聞くに限る。今日刈り取る分の薬草を全てアイテムボックスに詰め込み、子供部屋で本を読んでいるはずのニコラの元に向かった。
ガチャリと扉を開けると椅子に座って本を読んでいるニコラがいた。
子供ながらに端正な顔立ち。透き通るような美しい金髪は背中まで伸び、窓からの日差しを浴びてキラキラと輝いている。ご近所のアイドルは今なお健在であった。ちなみに俺のご近所での立ち位置は、なんだか変な事をしてる子供だ。双子のはずなんだけどな?
「お兄ちゃんどうしたんですか? さっき花壇に行ったばかりですよね」
「セジリア草を鑑定したら+1になってたんだ」
アイテムボックスからセジリア草+1を取り出しニコラに見せた。
「え? なんですか? ソレ」
「え? ニコラも分からないの?」
「この世界についての基礎知識なんかは聞いてますけど、なんでもかんでも知っているわけではないですよ」
と言うと、ふと思い出したかのように俺から目線を外し
「オレにだって……分からないことぐらい……ある……」
と言って、エア眼鏡をクイッとした。
スルーしていると、ひたすらエア眼鏡をクイクイするので「な、なんだってー」と言ってやると、ひとまずは満足したようだ。
「とりあえず、それでポーションを作ってみればいいんじゃないですか」
「それもそうだな。分からないなら実験だ」
アイテムボックスから大きめのガラスのグラスを取り出す。お小遣いで買ったポーション作成用の容器だ。値段は銀貨3枚だった。
まずはセジリア草+1を手で千切って容器に入れる。軟膏までせずともこれくらいで十分溶けるのはすぐに判明した。腕だけムッキムキの少年になる事態が避けられたことは素直に嬉しい。
そして水魔法で水を入れ、光属性のマナを流し込む。……むむ、いつものE級ポーションよりもマナをたくさん吸い取っているようだ。
しばらくするとマナが入らないようになったので、そこで止める。これで完成だ。
見た目はいつものE級よりも緑の色が濃い気がする。それではさっそく鑑定っと。
D級ポーション セジリア草
「どうでしたか?」
ニコラが俺の方を覗き込みながら尋ねる。
「D級ポーションになっちゃったよ」
「ほほう……。ワンランク上のセジリア草なのは間違いないようですね」
「鑑定では原材料はセジリア草のままになってるけど、広義ではセジリア草だからわざわざ+表記はしないってことかな。それでD級ってどれくらいの代物だったっけ?」
「ちょっとした骨折くらいなら完治する等級で、領都では金貨10枚くらいで売られていると聞きました」
「金貨10枚! ……ギルドのポーション買い取りは市場価格の7割程度って言ってたな。これひとつで金貨7枚の儲けなのか、あわわわわ」
「夢の食っちゃ寝生活に一歩近づきましたね」
「それはお前の夢かもしれないけど、俺はそこまでは求めてないからね? それで後はどうしてセジリア草が+1されたかってことだけど」
「品種改良されたんじゃないですか? お兄ちゃんがマナを与え続けて世代交代していった結果だと思います」
「そうなのかな。マナを与え続けて品種改良だなんて今まで聞いたことないけどなあ」
「もしかしたら秘匿されている技術という可能性もありますね。でもめったに無いことなのは間違いないと思いますよ」
たしかに魔法トマトなんかはずっと名前は変わっていない。最初に作った頃よりも美味しくなったとは思うけど。
「まぁお兄ちゃんもすっかり忘れてるようですけど、天使の魂が混ざってますからね。アホみたいにマナを与え続けた結果、その辺のアレがなんやかんやで品種改良されたのかもしれませんね」
いきなり雑になったな。まぁ考えたところで答えは出ないし細かいことはどうでもいいかもしれない。
「それでどうします?」
「今後の話? そうだなあ。とりあえず今回のセジリア草+1から収穫した種を撒いてみて様子を見ようか」
ちなみに種は「セジリア草+1の種」だ。
「それもそうですね。取らぬ狸のなんとやらだと残念すぎますし」
「じゃあそういうことで花壇に行くよ。そろそろ宿のほうも忙しくなるし、種を撒いた後は手伝ってくる。ニコラはどうする?」
「それじゃ私も降りていきます。最近は少しづつサボりに厳しくなった気がするんですよね……」
最近、宿も以前より繁盛するようになったからな。なにより俺から見てもニコラはサボりすぎだしね。母さんの場合はサボっているのを叱るというよりダラけすぎてるのを心配してるんだと思う。俺達は部屋を出ると階段を降りて行った。
 




