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384 冒険者という仕事

 冒険者ギルド長ゼラスにツインヘッドを丸ごと預けた翌日。お昼のピーク時に実家の食堂の手伝いをしていると、もはや常連と化しているリザがいつものように来店してきた。


「いらっしゃいませー」


 ちょうど近くにいた俺がリザを空いている席に案内する。


「リザお姉さん、今日は注文は何にするの?」


「ええと今日は、テンタクルスパスタとテンタクルスの塩焼き、それと普通のお好み焼きでお願いするわね」


 いつもながらその引き締まったお腹のどこに入っているんだというオーダーだ。ちなみにニコラが言うには、その栄養はすべてむっちりとした尻のメンテナンスに使われているらしい。


「ああ、それとね――」


 リザが思い出したように付け足す。


「例の解体、終わったらしいから、マルク君のお手伝いが終わったら一緒に冒険者ギルドに来てくれないかしら?」


「えっ、もう終わったの!?」


 ツインヘッドはかなりの巨体だ。誰にも触らせん! と一人でやる気マンマンだったし、なにより営業時間外しか解体作業をすることを許されなかったこともあり、数日はかかるものだと思っていたんだけど。


「どうやら徹夜でやりきったみたいなの。私が今朝冒険者ギルドに出勤してきたら、あちこちに返り血をつけて目を爛々(らんらん)とさせたギルド長が解体場の扉から出てきて、思わず悲鳴をあげちゃったわ」


 そりゃ怖いだろうな。それにしても徹夜かあ。セリーヌの言ったとおりになったな。


 昨日の夜、セリーヌに森に行ったことから冒険者ギルドに行ったことまですべて報告したのだ。冒険者ギルド絡みなら、セリーヌに話しておけば、きっといいアドバイスをくれると思ったからね。


 するとセリーヌは「あのギルド長、気持ち悪いくらいに魔物の解体マニアだからね。私がこの町に来てからというもの、もっと珍しい魔物を狩ってこい、そのために冒険者ランクを上げろ、パーティを組めってうるさくてね~。まあそんな人だから、きっと明日には解体が終わってると思うわよ~」と、この展開を予想していたのだ。


 まさかそんなことはあるまいと思っていたのだが、さすがはセリーヌである。


「でも僕まだもう少し、お手伝いがあるんだけど……」


 今はピーク真っ只中。少なくともこのピークを乗り切るまでは手伝いたい。


「大丈夫よ。ギルド長にね、マルク君を連れてくるまでが仕事だから、それまでここで待機してろって言われてね。じゃあその間の受付はどうするんですかって私が聞いたら、ギルド長が直々に受付をするんですって。だからむしろマルク君にはゆっくりしてもらったほうが嬉しいかもしれないわね? ふふっ」


 リザがいたずらっぽい笑みを浮かべる。いろいろと職員を振り回していそうなギルド長だったからなあ。リザとしてもやり返したい気持ちがあるのかもしれない。


 まあそういうことなら、あちらの都合は考えずに思う存分お手伝いをさせてもらおうかな。



 結局、ニコラから『お兄ちゃんがお手伝いをしていると、私もずっとお手伝いをしないといけないじゃないですか。ほらもう十分にお客さんは減ってますよ?』と文句を言われてお手伝いは終了。それから更に二品注文したリザと一緒に昼食を食べた後、一緒に冒険者ギルドに向かうことになった。


 ニコラもリザの尻目当てについてきた。ディアドラは精霊の宿木でお休み中だ。


「ところでマルク君は、冒険者になるつもりはないの?」


 南広場を通っているあたりで、ふいにリザが俺に問いかけた。俺は顔見知りの屋台のおばさんに手を振りながら答える。


「んー。将来就きたい仕事の一つとしては、考えている……のかな?」


 セリーヌなんかはやりがいを持って楽しんでいるように見えるし、収入面でも悪くないように思える。でもなあ……賭けるのが自分の命ってのが大きすぎるんだよね。だからせいぜい選択肢のひとつ止まりだ。


 お陰様で俺はそれなりに魔法が使えるようだし、やれることがたくさんあると思う。だから幼いうちから進路を決める必要はなく、世間をもっと知ってから決めようと思っているのだ。


「うーん、小さな男の子って、すぐ冒険者になりたい! って言いがちなのに、マルク君はちょっと違うのねえ。セリーヌさんと組めばすぐにでも冒険者ランクだってB級A級って上がっていけそうなのに」


『そうですよ。冒険者ランクが上がれば稼ぎだって多くなるらしいじゃないですか。私がお兄ちゃんのお家を警備してさしあげますから、お兄ちゃんは後ろを気にせず前だけを向いてじゃんじゃん稼げばいいと思いますよ』


『ニコラ、お前のそれは自宅警備員っていうんだが、ご存じない?』


『はて、聞いたことない言葉ですね……?』


 しらばっくれるニコラはさておき、とにかく俺はまだ九歳でさらには教会学校で勉強中の身でもある。いきなり就職の話を始めたリザに一抹の不安を覚えながらも、俺たちは冒険者ギルドへの道を歩いた。



 ◇◇◇


「おう! きたかマルク! さあこっちだこっち! それとリザは早く受付を代わってくれ!」


 俺を見るなり、受付カウンターにいた冒険者ギルド長ゼラスが声を上げる。受付カウンターは基本的に受付嬢が並んでいるのだが、そこにおっさんが一人紛れ込んでいるので違和感がすごい。


 ちなみに受付嬢の前には数人の列ができているのに、ゼラスの前だけには誰も立っていない。そりゃ誰だってむさいおっさんよりは美人の受付嬢とお話しをしたいよね……。


「わかりました。それじゃあマルク君、後はセリーヌさんにお任せするから」


「はいはい、おまかせされたわよ~」


 いきなり背後から聞こえたセリーヌの声に振り返る。そこにはリザに向かってひらひらと手を振るセリーヌがいた。


「あれ? セリーヌどうしたの?」


「ふふっ、私が言ったとおり解体が終わったでしょ? ギルド長との立ち会いに私も元保護者として同席することにしようと思ってね、ここで待ってたのよ」


「うわあ、ありがとう!」


 正直すごく助かる。ギルドのことをほとんど知らない俺がギルド長とサシで話し合うのは不安だなと少し思っていたのだ。こういうことでニコラは役に立たないし。


「おっ、セリーヌもついてくるのか? まあいい、ほら、入った入った」


 ゼラスは俺たちを昨日と同じ解体場へと連れていく。昨日はゼラスしかいなかったが、今日は昼過ぎのいい時間帯ということもあり、いくつかのテーブルでは職員が解体作業をしていて昨日以上に血やらなにやらの匂いがムンと立ち込めている。


 その中で一番大きな中央に置かれた作業台には、穴の空いた毛皮や肉、骨などが鎮座していた。もしかしなくてもアレかな。


「ほら、これがツインヘッドの皮肉骨だ。魔石は貴重だから別室に保管してある。それから血の方もできるだけ瓶に詰めておいたからな。成分的にはコボルトの血に比べて少々魔素が濃いだけのようだが、これも錬金術師に売れるぞ」


「あらあら、全部合わせたら結構なお値段になりそうね。ギルド長、しめておいくらなのかしら」


「まあ待てセリーヌ。それよりもだ。マルクお前……今すぐ冒険者になるつもりはないか?」


 ぐいっと顔を近づけて俺に問いかけるギルド長。ほらね、そういう気がしていたんだ。

 本日はコミカライズ版となる「異世界で妹天使となにかする。@comic」も更新されております。ぜひご覧くださいませ~!


 なお10月15日にはついにコミックスも発売されます。書き下ろしSS頑張りました! 予約していただけるとすっごく嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
[一言] 男に詰め寄られることに定評のある主人公
[一言] なるほど尻に……(キャラデザを見ながら)
[一言] >あのギルド長、気持ち悪いくらいに魔物の解体マニアだからね。 ギルド長「さあ、魔物解体ショーの始まりや」 >『ニコラ、お前のそれは自宅警備員っていうんだが、ご存じない?』  女の子は家事手…
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