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【書籍化】異世界で妹天使となにかする。  作者: 深見おしお@『伊勢崎さん』コミックス1巻9/27発売!


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36 畑トーク

「ドギュンザー!」


 思わず声を荒げてしまった。リーナが目を丸くしてこちらを見ている。ニコラはドギュンザーと知った瞬間に目が死んでいた。


「は、はい。そうですよ、ドギュンザーです」


「……えーと、ドギュンザーって食べ物だったんだ~」


「食べ物というか薬草の一種かしら。乾燥させて粉末にして水と一緒に飲むと発熱や喉の痛みに効くのです」


 風邪に効く生薬みたいなもんだったのか。そんなものを調味料で入れるのはよくないよね。今度改めて母さんに忠告しよう。


「でも怪我には効かないので、マナの含んだ薬草を森に取りに行ったりもしているのよ」


「あっ、ラングに聞いたことがあります。孤児院のみんなで外に薬草を取りに行くって」


「あら、ラングさんとお友達なのね。森は深くまで立ち入らなければそれほど危険ではないのですが、それでも安全ということもありませんし、ここで栽培が出来ればいいんですけど、どうやら森でしか育たないみたいで……。また今度取りに行かないと」


 リーナがため息をついた。ほほう、マナを含んだ薬草は畑じゃ育てられないのか。


 しかし畑の土を見ると、マナを感じるが豊富な量とは言い難い。さっきテーブルから崩した砂の方がマナを含んでいそうだ。シスターはそれほど魔法は得意じゃないのかな?


「リーナ先生。この畑からマナを感じるけど、先生がやっているんですか?」


「ええ、そうです。でも、私よりもマルクさんの方が魔法は得意なのかもしれませんね」


 さっき崩したテーブルと椅子の残骸を見ながら、リーナがこちらを見てにっこりと微笑んだ。


「あ、良かったらその砂を畑に使ってみますか?」


「まぁ! ありがとうございます。さっそく入れ替えてみますね」


 リーナは畑の横に備え付けていた小さいスコップで畑の土をいじりはじめた。その横顔はとても楽しそうだ。収穫物は孤児院で消費してるみたいだけど、趣味と実益を兼ねているんだろうなあ。


 しかし薬草ね。俺が畑にマナをガンガンに注ぎ込んだら森以外でも栽培出来ないかな? 魔法パワーでなんとかなりませんかね?


 試しに薬草取りに同行させてほしいけど、きっと断られそうだ。今日のところは色々と畑トークをするだけにしておこう。


「リーナ先生、他の野菜についても教えてください。僕は空き地でトマトを育ててるんです」


「そのお歳で大地の恵みを育てているだなんてすごいわ。私が教えられることで良ければ教えてさしあげますよ。そうですね、まずはこのキャベツなのですが、害虫に食べられやすいので小まめにマナを込めた土に入れ替えて――」


 ――――――


 昼休憩の間、リーナに畑について色々と教えてもらった。ついでにキャベツとキュウリの種も分けて貰えた。さっそく明日にでも空き地で撒いてみよう。ドギュンザーも手渡されそうになったが、丁重にお断りした。


 そして午後の授業。宗教教育のお時間だ。


 実際に神様に会ったことがある俺からすると、一番微妙な授業である。ここで崇められている神の像は女性を形どっているけど、俺がお世話になった神様とは別人なんだろうか。


 それとも上司だったり部下だったり? 別系統の神? 教会が作り上げた空想の産物? 色々と気になったりもするが、あまり深く考えないほうがいい気がする。ニコラにもあえて聞かない。俺は俺を転生させてくれた神様に感謝と祈りを捧げればそれでいいのだ。


 そして最後は賛美歌を歌って今日の教会学校は終わりだ。生徒がバラバラと教室から出ていく。ちなみに「せんせーさよーなら、みなさんさよーなら」なんて言う慣習はここにはなかった。


 教室を見渡し、孤児院に帰ろうとするラングを捕まえる。ラングは茶色の短髪の九歳。早くも身長が伸び始め、ウルフ団では一番の高身長だ。


「ねえ、ラング。今度また薬草を取りに行くんでしょ? そのときに一株でいいから薬草を根っこから掘ってきてもらえないかな?」


「ん、薬草? ……ああ、空き地で育ててみたいのか。シスターは栽培には向いてないって言ってけど……、まぁお前なら育ててしまうかもなあ。いいよ、持ってきてやるよ」


 さすがいつもトマトを育ててるのを見てるだけあって、ラングは察しがいい。


「ありがとう。今回は観察しやすいように家の隅で育てようと思うんだけどね」


「そうか。もし増やすことが出来たら孤児院にもおすそ分け頼むな!」


「うん、いいよ! それで次はいつ頃行くの?」


「そうだな……。今は色々と立て込んでるから、多分一ヶ月くらい先になるんじゃないかな。急いでるのか?」


「そっかー。早く試したいとは思うけど、別に急がないから大丈夫だよ。それじゃあその時はお願いするね」


「ああ、任せてくれ」


 ラングに手を振り別れた。さて俺も帰るか。


 ――この時俺は、教室の隅からジャックがこちらを見ていることに全く気づきはしなかった。

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