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359 俺の畑

「おっ、マルクはこっちでも石像を作ってたんだなー」


 空き地に来たのは初めてだと言うネイは、遊具場に置かれたパンダの石像の上にひょいっと飛び乗り、物珍しそうに辺りを見渡した。


 そういえば、サドラ鉱山集落で石像を作ってあげたことがあったな。ネイが石像に思いっきりグーパンして涙目になっていたのも、今となっては懐かしい。


「あの辺がマルクの畑?」


 この数ヶ月ですっかり雑草と枯れ草にまみれ、ボコボコになっている土地をネイが指差す。以前は無かった木柵に囲まれていなければ、畑だと思われなかったかもしれない。


「うん。まあギルおじさんの土地だけど、僕が世話していた畑なのは間違いないよ。今はご覧の有様だけどね、はは」


 畑の現状に思わず乾いた笑い声を漏れる。でもだからといって、ギルが管理をサボってこのような事態を招いたわけではない。


 どちらかといえば俺のせい? なのだ。


 俺が旅に出ている間、ギルには畑の管理のついでにポーションを混ぜた水を与える実験をお願いしていた。後日、俺もポーション風呂の残り湯でも試したように、ポーションの含まれた水を与えることは野菜の成長を早めるような効果があることがわかった。


 しかしギルが試したこちらの畑では、その効果は少しづつ弱まり、野菜の味もどんどん落ちていったそうだ。おそらく俺が畑の世話していないことで、畑の土に含まれるマナが減少していったせいだと思う。


 つまり俺が魔法を使って土中にマナを供給し続けないことには、魔法野菜は育たないということになる。混ぜ水を与えるだけで手軽に魔法野菜が育つような甘い話はなかったというわけだ。


 それでもまだまだ普通の野菜よりは美味しいし、たとえ土中に含まれたマナがなくなってしまったとしても普通の野菜は育つはず。


 そういうことで、ギルは引き続き家庭菜園というには大きい畑を一人で管理してくれていた。魔法を使えないとなると維持するだけでも大変だったと思う。


 とはいえ、ここまでは想定の範囲内だった。しかしそんなある日のこと――


 いつものようにギルが畑に足を運ぶと、昨日までは普段通りだった畑が荒らされていたそうだ。


 きれいに整えられた(うね)は崩され、収穫を迎える野菜や、まだ小さいものまでごっそりと無くなっていたらしい。


 この町は治安が良いほうだとはいえ泥棒が出たなんて話も聞くし、野良犬なんかもいれば、空には魔物の鳥だって飛んでいる。ギルは野良犬くらいにしか効果はないだろうがと前置きしながら、畑の周りを木柵で囲うなどの対策をした上で畑の管理を続けた。


 だが数日後、畑は再び荒らされてしまう。木柵程度ではまったく効果がなかったらしく、畑の畝はボコボコに崩され、野菜は盗まれてしまった。


 少し違う点があるとすれば、この時、被害にあった野菜は各種それぞれ数個程度だったということだ。しかも被害に遭っているのはここの畑だけらしく、他所での被害の声は聞こえてこない。ピンポイントで狙われていることもわかってきた。


 こうなってくると犯人はいたずら目的の愉快犯、変なこだわりのある窃盗犯。もしくは知恵のついた魔物が町に入り込んでいるのかのいずれかになるだろう。


 本来、犯罪や治安に関する話になると、衛兵の出番だ。しかし、趣味の畑がどういうわけか荒らされているのでなんとかしてほしい――なんて通報で衛兵が事件を解決してくれるかというと、それはなかなか難しい。


 犯人をしらみつぶしに探して回るわけでもなければ、畑の寝ずの番をしてもらえるわけでもない。せいぜい空き地付近の巡回回数が少し増える程度だろう。それではとても解決できるとは思えない。


 なのでこういう時は冒険者ギルドに依頼するのが一般的だ。そういうことで、ギルが冒険者ギルドに依頼しようかというところまで話は進んだのだけど――


 クエスト:ウチの畑を荒らす原因を突き止め、犯人を捕まえてほしい


 なんてのは、いかにも冒険者ギルドの依頼って感じがする。正直ちょっと面白そうで、俺が依頼を受けてみたいくらいだ。


 ……というか、俺が何年も手塩にかけて作った畑だ。俺のすべてが詰まっているといっても過言ではない。それを荒らした犯人くらい、自分の手で捕まえたいよね、ふふふふ……。


 そう思ってしまった俺は、ギルにこう提案した。どうせ今は魔法野菜は作れないし、畑をすべて維持するのはギルも大変。盗まれる物が無ければ荒らされないかもしれないし、僕が戻ってくるまで空き地は放置でいいんじゃない? と。


 この提案にギルもあっさり納得してくれた。もしかすると問題が解決できたとて、そのまま一人で広い畑の管理をするのが大変だと思ったのかもしれない。マナが切れれば野菜の防虫やら防寒やらの対策で、手間が一気に増えるもんな……。


 とにかくそういうことで、畑は収穫できそうなのを根こそぎ収穫し、その後は休耕地となった。


 それと原因不明のままでは危険なので、近所の憩いの場となっていた遊具場近辺も含め、空き地は全面立ち入り禁止にさせてもらった。月夜のウルフ団の秘密基地もしばらく閉鎖である。この件は少し申し訳なかったね。デリカに説明したら納得はしてくれたけど。


 こうして畑が放棄され、空き地が封鎖された。それからというもの、やはり異変はなにも起こらなくなったそうだ。



 ――と、このような経緯なので、今の畑の荒れ具合は俺のわがままみたいなものなのだ。


 そして俺が戻ってきたからには、もちろん畑の作り直しを始めることにする。


 犯人はもう飽きたのか、それとも野菜に釣られてまたやってくるのか? まずは餌を仕込んで様子を見なければならない。


 俺は太めの木材を組み合わせて作られてた柵を乗り越えて畑の中に立つと、まずは雑草抜きから始めることにした。


 人の手なら大変な作業だけれど、魔法なら簡単だ。雑草が生えているあたりの土に土属性のマナを込めて柔らかくすれば、後は念じるだけで雑草がアイテムボックスに入ってくれる。土がふかふかになって畑に適した土壌になるので一石二鳥だ。


 この時、雑草の根っこの周辺の土まで、しっかりと自分のマナを浸透させるのがコツだ。


 ちなみにシュルトリアの森林伐採のときも同じことをしたけれど、木の根っこが深く広がっているため、根っこは自分で切らないと収納できなかった。


「久々にマルクの魔法を見たけど、相変わらずすげーな! すごすぎてよくわかんねえ! あはは!」


 瞬時に消えていく雑草を見て、木柵に腰掛けたネイが足をぷらぷらさせながら楽しそうに声を上げた。


「数ヶ月間セリーヌにしごかれたからね。前に会った時よりもいろいろと上達もしたと思うよ」


「へー。やっぱり修行は大事だよなあ。あたしもお前の爺ちゃんのところで防具の修繕なんかは教わってるんだけど、もう少し稼いだらサドラに戻って本格的に鍛冶修行を再開しないとなー」


 まだ子供だと言うのに、働きながらの職業訓練は大変だ。そう考えると俺は恵まれた立場にいると思う。いろんなことに感謝しないといけないよね。


「ネイ、なにか僕に力になれることがあったら言ってね? ネイのお陰でうちの宿も助かったみたいだし、恩返しさせてよ」


「なに言ってんだよ。こっちも給料をたくさん貰ってるんだから、気にしないでいーよ!」


 そう言ってネイは木柵からぴょんと地面に降り立つ。


「それよりあたしにも畑の手伝いやらせろよ。次は種まきだろ? それともコレも魔法でするのか?」


「ううん、それは手作業だよ。それじゃあ一緒にやろうか」


「おう、任せろ!」


 そうしてネイと、しばらくしてやってきたギルにも手伝ってもらいながら、俺は野菜の種を次々と畑に()いていった。犯人をおびき寄せてくれる、立派な野菜になることを祈りながら。

 書籍二巻は2月10日発売……もうすぐですね! もちろん予約受付中ですので、是非ともよろしくお願いいたします!


 それと、そろそろ二巻キャラクターデザイン等の公開もしていく予定となっております。


 今回は前回と違って短いスパンでドバドバッと公開していきますので、お気に入りユーザに登録していただき、活動報告をチェックしていただけると嬉しいです。もちろん作者ツイッターの方でも告知予定です!\(^o^)/

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― 新着の感想 ―
[一言] 新章突入という感じですね。犯人は一体何なのか。 キャラデザ楽しみ。パメラとかパメラとか
[一言] > クエスト:ウチの畑を荒らす原因を突き止め、犯人を捕まえてほしい  子供の頃に飼っていたキラーパンサーが居そう!
[一言] ほのぼの生活のはじまり!と思ったら不穏な気配だー。
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