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352 紐なしバンジー

 コミカライズ版の第2話後編が更新されました。ぜひぜひ後書き下にある「ニコニコ静画」リンクからご覧になってくださいませ!

「うわあああああああああああ!」


 思わず叫び声を上げながら落下していく俺を、銀鷹がじっと見つめているのが視界に入った。


 だがその表情からは俺を騙してやったという(あざけ)りや、ましてや殺意なんてものは微塵も感じられない。なんとも表情が豊かな鳥なのでそれくらいはわかる。いたって真剣な顔つき……だと思う。


 その顔を見て思い出す。そういえば銀鷹って、厳しく子育てをするという千尋の谷ガチ勢だったよね、と。……えっと、つまりこれって、俺にもその教育方針が適用されたってことでは!?


 そういうのは勘弁してほしいし、最初からわかっていたなら手伝いなんて頼まなかったと言いたい。……言いたいところなんだけれど、いまさら文句を言ったところでもう遅い。今はこの状況をなんとかしないと――死ぬ! マジで死ぬって!


「レッ、浮遊(レビテーション)ッ!」


 俺は身体の中の魔力を風属性のマナへと変換して放出させ、浮遊(レビテーション)を試みた。


 しかし落下によってバチバチと全身に当たり続ける風に魔法の発動が阻害されてうまくいかない。放出されたばかりの風属性のマナが、周囲の風にかき回されてうまく整わないのだ。


『ほら、どうした。しっかりと風のマナを作り上げよ』


 突然の念話に周辺に目をやると、いつの間にか俺に併せるように銀鷹が真横を垂直落下していた。


「そんなこと言われても、うまくマナが形成されないんですっ!」


 この風が渦巻く状況でも俺の声は届いたらしい。呆れたように銀鷹が答える。


『何を言う。この程度の試練を切り抜けられぬようでは、大空を翔けるフェルニル種として一人前にはほど遠いぞ』


「僕はフェルニル種じゃないんですけどっ!」


『ん? ……うむ、そうであったな』


 一瞬ポカンとした顔をする銀鷹。これ絶対に俺が人だってすっかり忘れてたヤツだよね!?


『だ、だがな、お前はあの当代領主のお気に入りなのであろう? この度の失態はともかく、あやつは歴代のウォルトレイル一族の中でも有数の人物であった。あやつが我の元へと訪れた折に、お前のことをしつこいくらいに称賛しておったのだ。マルク、お前のことを我もきっと気に入ると。試練を与えれば必ずやそれを乗り越えるとも言っておったぞ』


 銀鷹がごまかすように早口で語る。どうやらあの領主が余計なことを吹き込んだらしい。別れ際にはそんな素振りも見せなかったのに、やっぱり苦手だ、あの領主……!


 それにしても領主といい銀鷹といい、ついでにセリーヌも、俺に対しての無茶振りが過ぎる。そりゃあ俺だって安全に暮らしていくための力は欲しいとは思うよ? でもそのために生死を賭けてまで鍛錬するのはなんかおかしくない!?


 ――などと愚痴っている場合でもなかった。落下していく俺の体は雲の層をとっくに抜け、どんどんと地上に近づいてきている。


 よし、こういう時こそ落ち着け。ヒッヒッフーだ、ヒッヒッフー。なにか違う気がするけれど、もはやよくわからない。とにかく落ち着かなくては。


 ヒッヒッフー、ヒッヒッフー、ヒッヒッフー、ヒッヒッフー。


 やがてヒッヒッフーが効いたのか、次第に頭の混乱が収まってきた気がする。やっぱりヒッヒッフーで間違いなかった。いつかテンパりやすいエステルにも教えてあげたい。


 すっかり冷えた頭で考える。やはり一番の問題は周囲の風に風属性のマナが乱されることだと思う。それなら今まで以上の出力でマナを一気に放出すれば、周囲の風に邪魔されずに浮遊(レビテーション)ができるのだろうか?


 それを制御できるのかはわからない。けれど悩むよりはまずやってみるべきだろう。悩んでいる時間はないのだ。


 俺は精神を集中させ、深く強く魔力を練り上げようとした。だがそこで銀鷹が口を挟む。


『違う、そうではないのだ』


「えっ?」


『今お前が感じている風、この風を己のマナに取り込むのだ。自らのマナと周辺の風を融合させれば、マナが乱されることもあるまい』


「あっ……!」


 俺は初めて土魔法で土壁を作ろうとした時のことを思い出した。


 あの時の俺は覚えたての土魔法をうまく使えなかった。そこでニコラの助言に従い、自分の魔力から作った土だけではなく地面の土も利用し混ぜ合わせたのだ。その結果、なんとか土壁を作ることができた。


 そうすることで消費する魔力は少なく済んだし、土壁の構築スピードも早かったはず。最近は慣れているので自分の魔力だけで作ってばかりだけど……。風属性でも似たようなことができるということだろうか。


 ありがたい(?)ことに今ほど風を感じる機会はそうそうない。全身にくまなく当たっているし、不用意に口を開くと喉の奥にまで風が入り込んで苦しいくらいだ。


 この風を自分が放出するマナに取り込めばいいのか。しかし俺にそれができるのだろうか? いや、できる! 絶対できる! できなければ死ぬ!


「~~~~!!」


 俺はぎゅっと目を瞑り、体に当たり続ける風に意識を向ける。


 するとたしかに吹きつける風から、風属性のマナをほのかに感じることができた。


 さらに深く感じ取ってみると、風の中にあるマナは俺が生み出す風属性のマナとはほんの少し質が違うことまでわかってくる。なるほど、この微かな違いがマナの反発を生んだのか。


 その微かな違いを意識しながら、自分のマナを自然界のマナの質に近づけ、その二つが無理なく一つになるようにやさしく混ぜ合わせていく。


 そうして混ざり合わせていくと、やがて俺のマナと自然界のマナは一つの風属性のマナへと変化を遂げた。


 そのマナに、俺は自らの意思を伝えた。『()べ』と。

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― 新着の感想 ―
[一言] これどこぞのV2みたいに風の魔力が光の翼に見えるとかになったらリアがアヘ顔で悶死しそうだな
[良い点] >> 「僕はフェルニル種じゃないんですけどっ!」 >> 『ん? ……うむ、そうであったな』 銀鷹さん、鳥頭。 [一言] マルクは『名誉フェルニル種』かなんかになるんだろか?(苦笑) …
[一言] > やがてヒッヒッフーが効いたのか、次第に頭の混乱が収まってきた気がする。やっぱりヒッヒッフーで間違いなかった。いつかテンパりやすいエステルにも教えてあげたい。  いつかエステルをヒッヒッフ…
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