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334 作戦開始

 俺、エステル、リアーネ、マイヤの四人は今、城から離れた郊外で馬車の到着を待っていた。


 ここには人気(ひとけ)がなく月明かりだけがほのかに辺りを照らしており、見渡しても舗装のされていないデコボコ道と雑木林が見えるだけ。城から馬車で移動するのは目立ちすぎるので、ここが集合場所となったのである。


 俺は馬車を待ちながら、食堂で聞いた作戦の概要を思い返す。


 今回の作戦は大きく分けて二つのフェーズがある。拉致被害者の救出とダルカン商会の制圧だ。


 俺たちが拉致被害者に(ふん)して実行するのは、当然ダルカン邸の地下に(とら)われているであろう被害者の救出だ。被害者の安全を確保した後、それを共鳴石で制圧組に知らせればミッション完了となる。


 そして拉致被害者の安全を確保する方法だが、こちらは状況によって手段が分かれる。拉致被害者に付けられている隷属の魔道具を無力化するか、囚われている地下牢から逃がすかのどちらかだ。どちらを選択するかは臨機応変でとのこと。そしてその判断をするのが、一緒に潜入することになったマイヤである。


 ふと隣に立つマイヤを見上げる。今はひっつめ髪と銀縁眼鏡の姿。かつての冒険者時代には冒険者ギルドからの依頼でダルカンと何度か顔を合わせたこともあったらしいが、伯爵家のメイドになってからは一度も会ってはいないそうだ。


 まあ親しかったセリーヌですら、なかなか気づかなかったくらいの変貌みたいだし、ダルカンに勘付かれることはないのだろう。


 そうして待っていると、ガラガラと音を立てて古びた馬車がやってきた。御者台に座っているのは薄汚れた衣服をまとった目つき悪いゴロツキだ。馬車が止まり、ゴロツキが俺たちに声をかけた。


「マイヤさん、お待たせしました!」


「まあ……。モリソン様、とてもお手の込んだ変装をいたしましたのね」


 そう、このゴロツキは騎士団団長のモリソンだ。今回は野盗に変装して俺たちとダルカン商会の仲介を行う手はずになっている。これまで何度か見たモリソンは精悍で真面目そうな顔つきの中年男だったけれど、今のモリソンはどこからどう見ても町のゴロツキだった。


 マイヤの言葉にモリソンは背筋を伸ばし、ムンと力強く握りこぶしを作ってみせる。


「万が一にも連中に気取られてはならないと入念に変装しました! 完璧に野盗を演じきってみせますので、マイヤさんは大船に乗ったつもりでいてくださいっ!」


「あら、頼もしいですわね。そういうことでしたら安心してお任せいたしますわ。ふふ」


「は、はいっ!」


 マイヤが上品に笑うと、モリソンの顔が月明かりでもはっきりわかるくらい真っ赤になった。おやおや、これはこれは……。でもマイヤはトライアン狙いなんだよなあ。


 特に知りたくもない大人たちの恋愛模様を知ってしまったけれど、ここで突っ立っても仕方ない。俺たちはさっさと馬車に乗り込んでおくことにしよう。


「リアーネ様、お先にどうぞ」


 俺は馬車の扉を開けてリアーネに声をかけた。この世界にレディーファースト的なものがあるかは知らない。だけど先日トライアンが馬車に乗り込んだ時は彼が一番先に乗っていたし、偉い人から順番なのは間違いないだろう、多分。


 するとここにくるまで一言も口を開かなかったリアーネが、(せき)を切ったように話し出した。


「そ、それですわ!」


「え?」


「わたくしたちは幻霧団に捕らわれた哀れな被害者を演じなければいけません。わたくしの顔はともかく名前は領都ではそれなりに知られておりますし、そのままの名前ではなにかの弾みで気取られる可能性もあると思うのです! で、ですから! と、とと、特別にリアと愛称で呼ぶことを許しますっ!」


 一気に話し終えたリアーネがプイッと横を向いた。たしかにリアーネの言うとおりだ。念には念を入れたほうがいいだろう。慌ただしくここまで物事が進行したせいで、そういう細かい設定を詰めるのをすっかり忘れていたよ。


「リアーネ様のおっしゃるとおりですね。それでは……リアちゃん?」


 ニコラのようにちゃん付けで呼んでみた。するとリアーネは横を向いたままぷるぷると肩を震わせる。


「ちっ、ちがいますわ! 呼び捨てで結構! あと敬語も不要です!」


 目をぎゅっと瞑りながらリアーネが声を上げる。その姿からは、本来なら俺なんかには気安く呼ばれたくはないけど、作戦の成功率を高めるためにはなんでもやってみせるといった覚悟を感じた。


 正直お貴族様相手にタメ口なんて勘弁してほしいところだけれど、あちらがそこまでして挑むなら俺もしっかり協力しないといけないね。


「……わかったよ、リア」


 俺の言葉にリアーネ――リアは激しい葛藤に耐えるかのように足をばたばたと踏み鳴らした。変わらずそっぽを向いたままだけれど、その頬は赤く染まっている。俺にタメ口をきかれるのは頭に血が昇るほどに辛いのか。


「~~~~~っ! そ、それでいいのですわ! マリー様! マリー様! マリー様ぁ!」


「リア、そっちは敬語だし、僕に敬称までつけてるけど……」


 後、どうして三回言った。


「わたくしは裕福な家庭で育った子女という設定ですから、これでいいのです! そ、それではお先に失礼しますわ!」


 リアはお嬢様らしからぬ勢いで飛び跳ねるように馬車に乗り込み、ワクワク顔のエステルがそれに続く。そして俺とマイヤが乗り込むと、御者台のモリソンが馬車をゆっくりと動かし始めた。


 うーん、さすがにリアの様子がちょっとおかしい気がするんだけれど、大丈夫なのかな。少し不安になってきたぞ……。

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― 新着の感想 ―
[一言] モリソンさん、カミラさんのお店に良い子おったやろ なんで身近な毒餌に食いついてしまうんや
[一言] これはたいへんすばらしいぽんこつお嬢様 マルクよ、行く先々で現地妻つくるとかどこの赤毛の剣士だよ…
[一言] ふむ… ちょっとシュルトリアに行ってリアーネにポータルストーン作ってもらおうか 大丈夫大丈夫、マル…マリーに手伝ってもらうから短期間で済むよ!
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