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32 鑑定能力

 共有休憩所から帰る途中、ふいにセリーヌが立ち止まった。今度はちゃんと周囲を警戒していたから、尻には当たらなかったよ。


「見て」


 小声でセリーヌが指差す。小高い丘のようになっていたそこにゴブリンがいたが、今までのように木の棒や石を持っているのではなく、弓矢を持っていた。


「あんた達も実際ゴブリンを見て思っただろうけど、ゴブリン自体はそれほど強くないのよ。でもたまにああいう弓持ちがいるのよね。ああいうのはとても厄介。こちらが気付くより先に矢が放たれたら、ヘタすりゃそれだけでこちらがやられるわ」


 たしかにその通りだ。自分の認識外からの攻撃は怖い。魔物だって真正面から殴りかかってくるやつらばかりではないのだ。ゴブリンが自分が思っていたよりずっと弱いと感じていたのは確かだし、気を引き締めないとな。


「ゴブリンって弓を作れるくらいの知能はあるの?」


「無いわよ。でも使うことは出来る。冒険者が落としたり盗んだものを使ってるの。ああいうのを見かけたらなるべく駆除するのが冒険者の暗黙の了解ね。……ま、こっちが先に発見したら、あとは楽勝なんだけどね。倒してみる?」


「やる!」


 セリーヌからゴーサインが出たので張り切って倒そう。石の弾丸にマナを込めてゴブリンに向けて発射する。ゴブリンに向かった弾丸は狙いよりやや下、腹の方へと飛んでいき――


 ――トシュッ


 ほとんど音もなくゴブリンの腹を貫いてそのまま彼方へと飛んでいった。そしてゴブリンはと言うと腹を押さえて「なんじゃこりゃあ!」と言いたげな顔をしている。


 貫通力が強すぎたせいか致命傷にはならなかったようだ。無駄にいたぶるつもりは無いのでダメ押しで三発同時に発射してみる。横一列に並んだ弾丸が、今度は狙い通りにゴブリンの胸へと向かっていく。


 先程と同じく弾丸は貫通していったが、骨に当たったんだろう。今度は衝撃でゴブリンがしっかりと倒れた。


「なんか私の知っているストーンバレットと違うわ……」


 セリーヌがボヤいている。おそらく本来のストーンバレットはこんなに貫通するものでは無いんだろう。もう少し石の硬度を下げれば貫通はしなくなるとは思う。もしくは弾丸の先端を弾き飛びやすいように加工すれば殺傷能力が高まるかもしれない。


 しかしそれだと倒した後の素材が痛みそうだし、それよりも数を撃ったほうがいい気がした。


 三人でゴブリンが倒れた場所まで歩き、耳切り係と化した俺が右耳を切って革袋に入れる。


 ゴブリンの死体の近くには妙に立派な弓が落ちており、腰には矢筒まであった。セリーヌが矢筒から矢を一本取るとこちらに見せた。矢尻に何かが塗られているように見える。


「よりにもよって毒矢だわ。落としたか奪われたか知らないけどやっかいなものをゴブリンに与えてくれちゃってるじゃない。どれほどの毒かは分からないけど、今回処分することが出来て良かったわね」


 毒矢か。ついでに少し確かめたいことを思いついた。アイテムボックスを使った鑑定だ。


 ちなみにセリーヌには、まだアイテムボックスのことを知られてなかった。もうセリーヌになら知られてもいいと思うんだけど、最初に隠していただけにタイミングがね?


「セリーヌ、ちょっと矢を貸して?」


 うさんくさそうな目をするセリーヌから矢を借りる。そして目の前で収納してみせた。アイテムボックスの中では

 

 毒矢 ワイルドスネークの毒


 と表示された。やっぱり毒の種類も鑑定出来るな。こりゃ便利だ。風呂の残り湯を鑑定してしまった時に比べてイメージがはっきりしているし、これからもどんどん使っていこう。以前ニコラに訊ねたところ、マナの容量に応じてアイテムボックスの性能も上がっていっているのではないかとのことだった。


「ワイルドスネークの毒だって。強い毒?」


「ちょっ、あんた……」


 セリーヌが目を見開いてこちらを見ている。最近呆れたような顔をするのはよく見ていたけど、驚いてるのは浴槽に水を入れた時以来だな。


 セリーヌが大きなため息を付く。


「はぁ~、なんて子よまったく……。アイテムボックスなんかも持っていたのね。しかも鑑定まで出来るのなんて初めて見たわよ」


「隠しててごめんね?」


「ううん、今は信用してくれたってことだから嬉しいわ。そんな信用あるセリーヌお姉ちゃんと結婚しない?」


『結婚してもいいけど、私を養うのも忘れないでくださいね』


 セリーヌジョークだ。スルーに限る。妹の念話もスルー。


「それでどんな毒?」


「相変わらず可愛げはないわね。……うーん、そうねえ。それほど強い毒じゃないわ。人間に当たっても半日以内に対処すれば大丈夫」


 なるほど。ちゃんと実在する毒なんだな。俺の知らない知識でも鑑定に出ると分かったのは大きな発見だ。


 それにしても……。今日一日のセリーヌのリアクションを見ていると、俺はちょっと頑張ってる六歳児という範疇からは外れてるんじゃないかと自分でも思えてきた。


 神様はチートなんか無いと言っていたけど、少なくともアイテムボックスは神様からのギフトだし、やっぱり神様と人間の認識のズレ説が有力な気がする。神様にとってのチートってどんなのだろうなあ。なんだかすんごいのを想定してそう。


 まぁチートはともかく俺だって一応は努力し続けてるし、それにしっかり結果が伴っているのってすごくやる気になるよね。神様に感謝しつつこれからも頑張ることにしよう。


 セリーヌがなんだか半分魂の抜けた顔で弓と矢筒を燃やしているのを見ながら、俺は決意を新たにした。

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[一言] >ほとんど音もなくゴブリンの腹を貫いてそのまま彼方へと飛んでいった。そしてゴブリンはと言うと腹を押さえて「なんじゃこりゃあ!」と言いたげな顔をしている。 クッソウケた。 「なんじゃこりゃあ…
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