285 マジックショー
子供たちに取り囲まれているのを見ると、なんだかデリカに初めて会った時を思い出すね。あの時はいきなり空き地の占拠を宣言されて唖然としたものだったけど、今回は――
「なあなあー。姉ちゃんたち、どっから来たのー?」「さっき来てた馬車に乗ってたの!?」「耳なっがーい」「あたし知ってる! エルフって言うのよ!」「えるふ~? なにそれなにそれー!」
俺たちを取り囲んだ子供たちが口々に話しかけてきた。思った通り、彼ら彼女らの目当てはエステルのようだ。
「えっと、その……」
しかし急に話しかけられたエステルの方はといえば、あわあわと口ごもりながら固まっていた。極端な人見知りではないけれど親しい人以外には壁を作るタイプなので、ぐいぐいと迫ってくる子供の対処をどうすればいいのか分からないのだろう。
「こら、あんたたち! ぶしつけにそんなこと聞いちゃダメだよ!」
おばさんがカウンター越しに叱りつけるが、子供たちは気にする素振りもないようだ。
「わかってるよ、おばちゃん! それでーどっから来たの!?」
俺より少し背が高い短髪の少年が再度問いかけると、エステルが困ったような顔を浮かべながら、ちらりと俺の方を見た。どうやら助け舟が必要のようだ。
「僕らはここからずっと離れた所から来たんだ」
俺が声を上げると、今まで俺の方を見向きもしなかった子供たちの目が一斉にこちらを向いた。短髪少年の興味の矛先も俺に向いたようだ。
「へえー! どのくらい遠いんだ?」
「えーとね、馬車で何日もかかったよ」
シュルトリアは別に隠れ里というわけでもないのだが、穏やかに暮らすのが性分のようだし、詳しく答える必要はないだろう。とりあえず答えを出せば子供たちは満足するしね。
「ねえねえ、エルフって魔法が得意なんだよね!? あたしにも見せて~」
しかし俺が注目を浴びたと思ったのもつかの間、次はエステルをエルフだと言った女の子が目をキラキラさせながらエステルを見上げた。俺よりも小さい女の子からの質問に、エステルが声を絞り出すように答える。
「あ、あの、ボクはハーフエルフだし、そんなに魔法も上手くは……」
まるで圧迫面接を受けている最中のような緊張した面持ちだ。やはりここは俺が話したほうがよさそうだ。でもその前にこっちの都合も了承してもらおうかな。
「ねえ、よかったら僕が魔法を見せてあげようか? でも先にコレ食べさせてくれるとうれしいな」
「ほんと? 待つ待つ!」
俺は買ったばかりの棒状の駄菓子を見せながら子供たちにお伺いを立てると、女の子はくるんと俺の方に振り返って何度も頷いてみせた。随分と魔法が珍しいみたいだし、この村もセカード村みたいに魔法が使える人材は町に流れているのかもしれないな。
「魔法が使えるような広い場所に行きたいな。どこか案内してよ」
「じゃあ広場だな!」
短髪少年の提案に、子供たちがそうだそうだと声を上げる。どうやら彼がこのグループのリーダー的存在のようだ。ナントカ団みたいなチーム名付けてないだろうな……。
「あんたたち! 悪さはするんじゃないよ!」
「平原の天馬団はそんなことしねえよ! それじゃあ行くぞ!」
付けてたわ。おばさんの小言に短髪少年が言葉を返すと、大通りに向かって歩き始める。そして俺とエステルはそれに従うように駄菓子屋から離れることにした。
質問攻めも終わったようで、前を歩く子供グループは各々がエルフだ魔法だとわいわいと話し合っている。それを見ながらエステルが肩を落として呟く。
「あ、あのマルク、ごめんね。ボクもっとしっかりしないと……」
そうは言っても友達が少ない上に田舎から出てきたばかりのエステルに、あの勢いは捌けないだろう。これから少しづつ慣れていけばいいのだ。
「ううん、あんなに一気に来られたら誰だって困っちゃうよ。それよりもコレ食べよ?」
「う、うん。マルクいつもありがとね。それじゃあ食べようか」
俺とエステルは頷きあって、駄菓子を一緒に口にくわえた。いかにも硬そうなので顎に力を込めてぐっと噛み砕くと、ボリッという音と共に、ほのかな塩気の風味が口の中に広がった。
歯を噛みしめるたびにボリッボリッと飴を噛み砕いてるような音がする。あっさりとした味付けだけど、これだけ硬いと食べるのにも時間がかかるし、このくらいの味付けが丁度いいのかもしれない。
隣を見るとエステルもボリボリと音を立てながら駄菓子を食べていた。ふいに俺と目が合うと、ゴクンと飲み込んだ後に、
「こんな硬いお菓子、初めて食べたよ」
そう言って楽しそうに笑った。美味しいとは言えないお菓子かもしれないけれど、駄菓子には遊びもあってこそだし、これはこれでアリだと思う。エステルの気分も上がってきたようでなによりだね。
二人で笑い合ってボリボリと音を立てながら歩いていると、短髪少年がこちらに振り返り、後ろ歩きをしながら話しかけてきた。
「なあなあ、二人はどこに泊まってるんだ?」
「銀の球根亭だったかな」
「それ俺んちじゃん!」
なんと短髪少年は宿屋の息子だったのか。俺と同じじゃん! 仲間じゃん! でもそれならひとつ気になることがあるじゃん?
「そうなんだ。君は家の手伝いとかしなくても大丈夫なの?」
「あー……。この季節はヒマが多くてさ。少しくらいサボってても怒られねーんだ。……でも、明日から少しは忙しくなるかな……」
少し気落ちした様子で短髪少年が答える。遊ぶ時間が減るのが憂鬱なのだろう。明日からは大型の予約でも入ってるんだろうか。
しかし人のサボりを追及してしまった後でよくよく考えてみると、俺も実家の手伝いをここ三ヶ月ほどサボりっぱなしなことに気が付いてしまった。もうこれ以上突っ込むのは止めよう。
◇◇◇
俺たちが駄菓子を食べ終わった頃、目的地の広場に到着した。広場の奥には村の寄り合い所だろうか、生活感のない大きな家がポツンと一軒建っているだけだ。子供たちが一斉にこちらを振り返った。
「ここが村の集会所になってる広場だよ。ここなら広いだろ?」
「うん、ここなら十分だよ。それじゃあさっそくやるね。……空中浮遊!」
ここはめったに見れない魔法を見せてあげよう。俺は風魔法、空中浮遊で自分の体を三メートルほど宙に浮かしてみせた。
「うわー! 浮いてる!」「すっげーーー!」「魔法! 魔法だ!」「かっけえ!」
少年たちが俺を見上げながら大声を上げた。これはディールに会うまで俺も知らなかった魔法だ。レア中のレアである、フッフッフ。そしてその興奮覚めやらぬところで更に追撃を加えてみよう。
俺は空中に浮かんだまま光魔法の光球をいくつも作り出し、シャボン玉のようにふわふわと飛ばして見せた。赤青緑の色付きである。まだ夕暮れには早い時間だけれど、十個の光球は日の光に負けない強さで輝き、幻想的な光景を作り出した。
「すごーい!」「ふわぁ~」「うわーきれいー!」「王子様……」
こちらは女の子ウケが良いみたいだ。思い返せばパメラと初めて会った時も、これを見せたら光球にうっとりと魅入っていたな。
ちなみにそのパメラだが、最近は教会学校の勉強、実家の店の勉強、更には魔法の練習まで、これまで以上に頑張っているそうだ。本人からもデリカ経由からもそう聞いている。ただ、教会学校の友達もどんどん増えているにもかかわらず、未だに女の子の友達しかいないらしい。
将来「アイリス」で働くことを考えたら、男の子の友達も作って慣れたほうがいいんじゃないかと言ってみたところ「マルク君で慣れるからいい」と、俺の助言はあっさりと受け流された。
自分でいうのもなんだけど、俺みたいなタイプはあんまり練習には向かないと思うんだけどな。
その後は若干自信を喪失していたエステルのいいところを子供たちに見せてあげようと、簡単なボルダリング壁を作ってみた。当然エステルは面目躍如の大活躍、子供たちのヒーローとなったのだった。エステルは名誉挽回よりも体が動かせたことが嬉しそうだったけどね。
もちろんそれを見た子供たちがマネをしようとボルダリング壁を登り始めることになったのだけれど、すごく危なっかしかったので土魔法でジャングルジムを作ってそっちで遊んでもらった。これもまた好評だった。
そして夕暮れが近づいてきた頃、一人のお姉さんが肩を怒らせながらこちらに向かってやって来た。
「ルキ! あんたそろそろ帰ってきな! 今日はお客さん入ってるんだよ!」
「あっ、姉ちゃん!」
二十歳手前くらいの気が強そうな女性だ。女性は俺たちの姿に気づきジロリと一瞥した後、ポンと手を叩いた。
「ああ、あんたたちはウチのお客さんだよね? そろそろ夕食の準備も始まる頃なんだけど、一緒に帰る?」
どうしようかな。俺とエステルが顔を見合わせていると、ルキ少年がボソっと呟く。
「俺はもっとここで遊んでたいんだけど」
「あんたはもう帰るのっ、ほらっ!」
「痛たたた! 耳引っ張るのやめてくれよ!」
姉ちゃんとやらは聞く耳持たず、少年の耳を掴んだまま来た道をズンズンと戻っていった。一番元気だったルキ少年が帰ったことにより、火が消えたように子供たちのグループも静まりかえる。俺とエステルは再び顔を見合わせた。
「……えーと、それじゃあ、僕らも帰るかな」
「う、うん」
その後、俺たちは子供たちに文句を言われつつも無認可ボルダリング壁とジャングルジムを潰して子供たちに別れを告げると、ゆっくり村の景色を楽しみながら「銀色の球根亭」へと歩いていった。




