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26 ジャックとラック

そういえばジャックには冒険者の兄がいると言っていた。これってもしかして子供の喧嘩に兄貴が出てきているの? しかも一回り歳上の?


 コレどうしたらいいんだろう。宿屋に逃げ込むのがいいのか、それともジャンピング土下座でもすればいいのか。いきなりの出来事に戸惑っていると、食堂でテーブルを拭いていたニコラも店前に出てきた。


『あらあらお礼参りですか? お兄ちゃんふぁいとー』


 ニコラが念話で伝えて俺の後ろに隠れる。おそらくそこが一番の特等席とみたんだろう。なんか他人事みたいに言ってるけどお前が一番の当事者だからね?


 少年はニコラを見た後、ジャックを見た。ジャックが頷く。


「そうか、お前が例の……。それならここでいいか」


 少年が直立する。そして一拍おいた後――


「すまんかった!」


 少年が突然頭を下げた。同時にジャックの後頭部も抑えて同じように下げさせている。


「えっ!? あー、はい?」


 意味がわからず生返事をすると、少年が頭を上げ、ジャックの髪の毛をグリグリと掻き混ぜながらため息混じりに答える。


「ほんとすまん。こいつはな、かわいい女の子を見ると、すぐにちょっかいを出したがるんだよな」


「ちょっ、兄ちゃん止めてくれよ!」


 ジャックが顔を赤らめて喚く。


「本当のことだろ! そんなんじゃモテねえっていつも言ってるのによお~」


「ううううううう」


 ジャックはもう顔を真っ赤にしながら、言葉にならない唸り声を発しているだけだ。


 ようやく理解した。兄がお礼参りにきたんじゃなくて、弟を連れて謝罪にきたのか。お礼参りに来たなんて思ってすまんかった。


「今日ギルドから帰るとな、コイツが家の庭で木剣をブンブン振り回してたんだよ。練習にしちゃ身が入ってねえみたいだし、それで話を聞いてみると決闘で負けたんだっていうもんでよ。そこからそもそもなんで決闘したのかって話になって、見どころのある女がいたから勧誘したとか言ってたわけだ。それでピンと来たんだよ」


 リベンジでも考えていたのかもしれないな。兄貴の介入でそれも無くなりそうでなりよりだ。


「それでこれはしっかり謝ったほうがいいと思ってな? 負けた分際で虫のいい話だとは思うが、これからは仲良くしてやってくれるとありがてえ。そうすりゃまだ望みがあるかもだろ?」


 兄貴がニコラの方を向いてニカっと笑う。ニコラは無表情でノーリアクションだ


「……こりゃ望み薄どころか、一欠片もねえかもしれねえな……」


 ボソっとつぶやいて続ける。


「自己紹介が遅れたが、俺はラック。コイツの兄貴で冒険者をやってる。まだE級だけどな。コイツが俺を慕ってくれてかわいいもんだから、俺も色々と教えてやったりしてるんだが、女の扱いはこの通りでな。ほんとすまなかった!」


 再びラックが頭を下げてジャックも強制的に下げられる。


 女の扱い云々を六歳児に言われても困る。しかしなんだ。ケンカをふっかけたのを謝るのはともかく、デリカシーの無さそうな兄貴なのは若干可哀想かもしれない。


 気になる女の子の前で散々暴露されたジャックのライフはもう0だろう。さすがにもう止めてあげてほしい。


「大丈夫だよ。ニコラはなにも被害は受けなかったし。ね? ニコラ」


『決闘のアレでもう十分だったんですけど、更に良いものが見れましたね』


 なんて念話が届いたが、それをおくびにも出さずにニコラがコクリと頷く。


「そうか! いやーほんとすまなかったな! ジャックにはもう一度よく言い聞かせておくからよ! ほら、ジャック!」


「うっ……。悪かったな」


 ラックに促されたジャックが渋々ながら謝罪を口にする。まだ顔は赤い。


「はぁ~。本当に反省してるのかねえ~? まっ、何かあったら俺に言ってくれよな! じゃあ帰るわ!」


 そうしてラックとジャックは去っていった。何かあったらって言われても何もどこに住んでるかも知らないんだけどね。


 なんだか嵐のような出来事だったな。ニコラと二人、宿の前で呆然と立ち尽くしていた。


「ふーん。ラックが例のガキ大将の兄貴だったのね」


 ひょっこりとセリーヌが宿の入り口から顔を出していた。いつから見ていたんだろう。


「知っているの?」


「ラックはまだE級の冒険者なんだけど、期待の新人ってやつね。ま、私からしたら全然だけど」


 まだ少年と言ってもいい歳の相手に大人気ない。ちなみにセリーヌはC級だそうだ。


「好きな子を巡って決闘とか、男の子はそういうの好きね~。そしてそんな子を身動き取れなくして、好きな子の前で下着を脱がしちゃうとかマルクって鬼ね!」


 一番怪我をしない方法を模索しただけである。心に傷を負ったかも知れないけど。ついさっきの件で更に倍だ。


「ま、あの弟くんも、これからはおとなしくなるでしょ。歳下にこんな子がいるんじゃね」


 セリーヌがこっちを見て笑った。


「そういえばマルクって、いっつも魔法の練習してるけど、将来は冒険者になるのかしら?」


「うーん、安全に稼げるならアリだけど、すごく危険そうだよね?」


「そうねえ、自分の力量をしっかり把握すれば、ワリのいい仕事ではあると思うわよ。とはいえトラブルなんかも付き物だから、完全に安全なわけではないけどね。まあそのトラブルを自らの力で切り抜けるのが何とも言えない快感となるのよねえ」


 セリーヌが両手を肩に抱いて身悶えていた。Mなのかなこの人。


 俺が冷ややかな目で眺めていると、まだお子さんには分からないわよねと言いながらポンと手を打ち


「そうだ! 良かったら明日、町の外でやるような依頼に連れて行ってあげよっか?」


唐突に職場見学のお誘いがきた。


 おお、これは何気にいい話かもしれない。最近は外にも興味が湧いてはいたものの、もちろん無謀なことをするつもりはなかった。しかしセリーヌと一緒なら安全だろうと思う。この機会は逃さないほうがいい。


「行ってみたい! ……でもちゃんと守ってよね?」


 怖いものは怖い。だってぼく六歳だもの。


「だいじょうぶ。まっかせなさい!」


 セリーヌが胸を張る。大きいお胸がぷるんと揺れた。


 前世では子供向けの職業体験のできるテーマパークなんかもあったみたいだし、今回のもそういうもんだと思っておこう。安全面もこの世界にしては最低限は考慮されている……はず。


 とりあえず両親に承諾を取らないといけないな。セリーヌのことは両親もよく知っているし断られるようなことはないと思うけど。

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