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【書籍化】異世界で妹天使となにかする。  作者: 深見おしお@『伊勢崎さん』コミックス1巻9/27発売!


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232 ヤヨケドリ

 川を渡った後はいつの間にか先頭に復帰したディールの後ろに続いてけもの道を歩く。そんな折り、さすがに森の中ではセリーヌへのイチャつきを自重しているニコラから念話が届いた。


『お兄ちゃん、さっきセリーヌと何の話をしてたんです?』


『うん? エーテルを得たことで身体能力が上がってることをセリーヌに教えて貰ったんだよ』


『えっ、もしかして今まで全く気づかなかったんですか? ……ああ、それであんなに必死な顔つきでセリーヌを抱きかかえようとしていたんですね……。私はてっきり突然のエロイベントに顔がニヤケるのを変顔で隠してるのかと思いました』


 別にセリーヌを抱きかかえても顔がニヤけることなんてないし、ましてや俺は変顔なんてしていない。俺はニコラの軽口をスルーして答える。


『魔力は体感できていたから、他に関してはすっぽり抜けちゃってたというか……。それに普通に村で生活していただけだから気づくこともなかったし』


『まぁお兄ちゃんの体質か狩った魔物の特性なのかは分かりませんけど、魔力アップに偏ってるのはほぼ間違いなさそうですけどね。気になるのなら一度エステルと一緒に体力テストでもしてみたらどうですか? 夜の運動会でもいいですけど』


『そうだね。一度付き合ってもらって確認くらいはしてみるよ、昼にね』


 さっきのセリーヌを持ち上げた感じでは、成人並くらいの筋力はありそうな気がする。一度確かめてみるのもいいかもしれない。そんな風に話のキリがついた時、ディールの足が止まった。


「見よ、アレがヤヨケドリだ」


 ディールの指差した先には、桃色の派手な羽色をした鳥が大きな木の中程で羽を休めていた。そしてその何を考えているか分からない無機質な瞳と鋭い嘴は既にこちらを向けたままピクリとも動かない。どうやら向こうにも既に捕捉されているようだ。


「アレは目が非常に良いらしくてな。名前の通り矢を避けるのが上手いのだ。村の手練の狩人でも撃ち落とすのが難しい鳥なのだが、この『鳥落としのディール』にかかれば他愛もない。それではさっそく見せてやろう」


 ディールはチラッとセリーヌを見てキメ顔を作った後、ヤヨケドリがとまっている木の根本までずんずんと歩いて行った。


「やれやれ、本当は『鳥は落とせても女は落とせないディール』って呼ばれてたんだけどね~」


 キメ顔のディールに見向きもしないままそう呟いたセリーヌに、ヤヨケドリについて聞いてみた。


「ヤヨケドリって、今ディールさんの方をすごく警戒してるように見えるけど、逃げたりしないんだね」


「間抜けな色の鳥に見えるけど、あれでも一応魔物だからね。アイツのやっかいなところはね、相手に先に撃たせてそれを避けると同時に、その攻撃の一瞬の隙を狙って襲ってくるところなの。続けて二射出来るような熟練の狩人でないと、いつ大怪我してもおかしくない魔物よ」


 うへ、カウンターを仕掛けてくるのか。避けられると怖いな。


「それってディールさん大丈夫なの?」


「まあ見てなさい。腕だけはいいから……。腕だけはね」


 セリーヌの声に視線をディールに戻すと、ちょうど彼ははるか頭上のヤヨケドリに両手を向けたところだった。


「神より四元の加護を賜りし、この俺の美技を喰らうがいい! 『風刃(ウィンドエッジ)!』」


 高らかに口上を述べながらディールがウィンドエッジとやらを放った――と思うと同時にヤヨケドリの腹の辺りが切り裂かれ、一言も発すること無く真っ逆さまに落ちてきた。


「あれ? もう終わり?」


「あの魔物には魔力を見る目は備わってないからね。あの魔法なら何を撃ったのかも分からず倒されるってわけよ」


 セリーヌがつまんなさそうに答えると、ディールはレビテーションで浮かびながら途中の木の枝に引っかかったまま息絶えているヤヨケドリの足をむんずと掴み、満足げな表情を浮かべてこちらに戻ってきた。


「どうだセリーヌ! 鮮やかな技であったろう」


「はいはい、そうね。私のファイアアローならヤヨケドリが見えていようがいまいが当てられるけどね」


「フハハハハ! その代わりにこの辺一帯が焼け野原になってはたまらんし、そもそもお前が狩ると食うところも残さず獲物を焼き尽くすではないか! フハッ! ハハハハハ!」


 ディールがまるで会心のアメリカンジョークを放ったコメディアンのように愉快に笑い続ける。


 たしかにセリーヌのファイアアローは素材収集には向いていないだろうけど、少しは言い方を考えたほうがいいよね。今現在、セリーヌの眉間の皺は過去最高の深さを見せている。


「……少しは手加減出来るようになったのよ。なんならあんたで試してみましょうか?」


「フハッ! 狩り下手のお前は働かずともよい! 俺に輿入れをした後は悠々自適の生活を約束しよう! フハハハハ!」


 もちろんディールはそれに気づくことなく高笑い。これはヤバい。


「ねっ、ねえ。ディールさん。ウィンドエッジってどうやるんですか? よかったら教えて欲しいな」


 俺は二人の間に体を入れると、話を変えてみることにした。さっきのレビテーションではディールのプライドを傷つけたのではと思ったし、話題を変えたかっただけで、教えてくれるわけが無いと思っていたのだけれど……。


「ふむ、ウィンドエッジか。アレは風のマナで芯をギュッギュと作った後にスウーッと刃先を作って、生み出したのをピャッとするだけだ」


 なんとあっさりと教えてくれた。やっぱり憎めない人だなあ、この人。


 せっかく教えてもらったのでさっそく試してみることにする。ええと、先に芯を作るのか。風属性のマナはバラけやすいから芯を作って固定しやすくするのだろう。そしてスゥーっと刃先を整えるわけだ。なるほど、わかりやすい。後はこれをピャッと投げるのか。


 俺はさっそくその辺の木に向かって、出来たてのウィンドエッジを投げつけてみた。しかしその魔法はまるで変化球を投げたかのようにグググッと曲がると目標の隣の木に突き刺さり、半分ほど切り裂いたところでスウッと消えた。それを見届けたディールは腕を組むと俺に話しかける。


「子供よ、お前は子供のくせに魔力の出力が大きい、それではピャッだと駄目なのだろう。なら……分かるな?」


「ああ、ピャーッですか!」


「うむ」


 俺はすぐさまウィンドエッジを作り直すと、再び目標の大木の幹へと投げ飛ばす。すると今度は狙い通りに命中し、幹を半ばまで切断しながら貫通すると二つ目の大木に突き刺さり、魔力を失い霞のように消えた。


「できました!」


「うむ、それでこそ我が弟子よ!」


 いつの間にか弟子にされちゃってるよオイ。でもディールとの魔法談義は楽しいし、勝手に言われる分なら放置してもいいような気もする。色々教えて貰ってるのは確かだもんね。……隣でどんどん不機嫌になっていくセリーヌはすごく気になるけど。

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