217 水壁
さてどうしようかな。俺は魔法を使ったり、魔法で作った物を見せてドヤ顔をするのは嫌いじゃない。けれどまだ若い将来有望なイケメンたちのプライドを傷つけたりすることも出来ればしたくないと思っている。
確かにさっきから男連中が水魔法を披露するたびに次から次へとニコラに手を振ったりウインクしたりとアピールしているのは、隣でそれを見ざるを得ない俺からすると若干ウザく感じるようになってきた。
しかしそこにはニコラに気に入られたい、仲良くなりたいという恋愛に対する純粋な気持ちがあるだけなのだから、俺も彼らの求愛行動の妨げになるような行為は謹んだほうが角が立たないし禍根も残さないだろう。
……でもなぁ、だからと言って、手加減しすぎて侮られるのもやっぱり嫌なんだよなあ。……うーむ、ここは間を取って、コザカールより少し下くらいで実演してみようかな? それならいい感じに場が収まる気がする。よし、そうしよう。
「それじゃあ行きまーす」
俺は川岸まで近づき、手を前に突き出すと――
『――お兄ちゃん、手加減しようとか思ってません?』
ニコラから少しぶすっとした様子の念話が届いた。
『うん、まぁ当たり障りない程度にね』
『手加減抜きの全力でお願いします』
『全力? そこまでする必要は……。俺みたいな年下に負けちゃうとプライドを傷つけちゃうだろ? みんな悪い子じゃないんだしさ』
『余計なプライドなんて若い頃に捨て去ったほうが、今後も更に成長しますよ。そうです、これは彼らの為なのです』
『うーん、そうかなあ……』
いまいち納得しかねる。するとニコラがすぐさま切り札を出してきた。
『あれあれ? いいんですか? そういうことなら今度セリーヌに襲われそうになったら、私は茂みにでも隠れてじっくり見学させて貰いますね?』
『アッ、ハイ。やります』
そうだ、これは今後の彼らの成長の為の糧となる。立ちふさがる壁がより高くより厚いほど、人は大きく強く成長出来るものなのだ。俺は彼らの成長のために一肌脱ごうと思う。そしてそれを伝えるためにも壁を水魔法で表現しよう。
「おーい、マルクどうした? やはりお前でも不得意なものがあったのか? そうか、それならそれで普通のことだからな。別に気にすることはない――」
「すいません、やります」
トーリの声を聞き、ニコラとの念話に気を取られて下げていた手を再び突き出す。
俺は水属性のマナで全身に纏うと、川を横断するように溜め込んだマナを横一線に流し込んだ。
「水壁!」
ドッオオオオオオオォォォン!
突然滝が上下逆になったかの様に下から勢いよく水が噴き上がり、水中でぶつかりあった衝撃で激しい音を立てると、川を遮るような形で水の壁が出来上がった。
水の壁は高さ三メートルほど。真っ直ぐ上に伸びる水の壁はその頂上で力を無くして周囲にシャワーのように水しぶきを撒き散らし、その力強い水の奔流は上流からの川の流れを断固として阻むと、水は壁を避けるように河原へと流れ込んでいる。
「えっ、なにコレ!?」「壁だ! 水の壁が!」「あの壁全部水ってことだよな?」「ウソだろ、こんなの見たことねえよ……」
周囲から生徒の声が聞こえる。俺以外は川岸から離れていたので、水しぶきがかかっていないようで良かった。俺には思う存分かかっているけど。
「……ところで、あの子誰?」「あんな子いたっけ」「今日来たニコラちゃんの兄貴だよ」「えっ……、ああ、そういえばいたわね」
俺はそろそろ泣いてもいいかもしれない。
その後もしばらく川をせき止めるようにウォーターウォールを発動させていると、背後から疲れたようなトーリの声が聞こえた。
「あー……、分かった。もういいぞ、マルク……」
その声にウォーターウォールの発動を止める。川の流れはすぐに元通りになり、多少の勢いをつけながら下流へと流れていく。
うーむ、かなり派手に魔力を使ったけれど、それほど消耗を感じないな。最近は共鳴石で目一杯魔力を使っているし、それで鍛えられたのかな。
俺はアイテムボックスからタオルを取り出して顔を拭う。すると突然ニコラが俺に抱きついた。
「お兄ちゃんすごーい! ニコラお兄ちゃん大好き! ニコラも将来お兄ちゃんくらいすごい人のお嫁さんになりたいな!」
『うぐっ、服に水が……。これでお兄ちゃんがびしょ濡れになってなければ完璧だったのに……。あとで私にもタオルください』
ニコラが念話で文句を言いながら俺を褒め称える。そしてそんなニコラの騒がしい様子を呆然と眺めていたコザカールや他の男の子たちは、全員が揃ったようにガックリと肩を落とした。
……あー、ニコラはこれがやりたかったのか。確かにこれでもうニコラに近づく男の子はいないだろうな。それが良いことなのかはよく分からないけれど、少なくともニコラは満足そうだ。
――――――
その後、風魔法と土魔法の実技も行った。そこで俺は二度とセリーヌの魔力供給の件で脅すことはしないとのニコラの言質と引き換えに、ニコラの命じるがまま風魔法トップのハヤルト君、土魔法トップのコスナー君のプライドをへし折り、見事ニコラに言い寄る男の子はいなくなった。
そしてこの青空教室で新たに友達が出来るかなと密かに期待していた俺だったが、みんな俺と目が合うと明らかに強張ったような表情を見せるようになり、のほほんとしているシーニャ以外とは友達になれそうにないことが判明した。




