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【書籍化】異世界で妹天使となにかする。  作者: 深見おしお@『伊勢崎さん』コミックス1巻9/27発売!


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169 水浴び

「僕も行くよ」


「はいはーい。それじゃさっそく出ましょうか。母さんはどうする~?」


「美味しい料理と美味しいお酒。この余韻に包まれて寝るのが最高なのよ~。奥の部屋で寝てるから起こさないでねえ」


 エクレインは立ち上がると、最初に出会ったときのような酔っ払った顔でふらふら歩いて部屋から出て行った。まぁ気持ちは分からんでもない。それをやると翌日しんどいけどね。わりとエクレインに前世の酒好きとして共感してるのが微妙な気分だ。



 玄関から外に出ると、照明魔法を出してくれたセリーヌの先導で家の裏手に回り、そこから森の中のけもの道をまっすぐに歩く。どうやらこの辺には家はないらしく、ただひたすら木々が生い茂っているだけだ。


「ほら、これがさっき母さんが取ってきたグプルの実よ」


 セリーヌが指し示した辺りを光球が照らす。そこには前世のリンゴやみかんのように、グプルの実が鈴なりになっていた。よく見ればこの辺一帯全てがグプルの木のようだ。


「母さんはここの実をもいでお酒に加工して、村のみんなと交換してるのよん」


「交換?」


「ここでは基本は物々交換なの。パンを作ってる人とか狩りをやってる人もいるし、それにたまにハーフエルフの行商人もこの村にやってくるから、お金が無くても特に問題ないのよね~。もちろん行商人も物々交換に応じてくれるわよ」


「行商人もハーフエルフなんだ。やっぱりよそ者は歓迎されないものなの?」


「あー、ポータルクリスタルでディールに言われたことを気にしてるのかしら? 別に普通に村の入り口から入って行く分には何も言われないわよ~。ポータルクリスタルを使ってホイホイと村の中に連れてこられちゃ、村の門番も見回りもなんの意味もなさなくなるから、むやみに使うのは止めときなさいって言われてるけどね」


「そうなんだ。僕らのために無理させちゃったみたいでごめんね」


「なに言ってるのよ~! 私は保護者になってるんだから、これくらいは当然よ。それに元々好き勝手にエルフの里を出ていった連中の作った村だから、みんなのんびりと生活してるわ。あんたが会ったディールが特別頭が堅いだけでね」


 セリーヌがしかめっ面で森の中を歩く。ディールのことを話す時はだいたいこんな顔だな。


 ……そういえばこの旅に出る前、『生まれた村にはギフトを持ってる鼻持ちならない奴がいて、そいつにバカにされないように頑張った』とか言ってたな。それがディールなんだろうか。


「ねえねえ、セリーヌお姉ちゃん。ポータルストーンって誰でも使えるの?」


 珍しくニコラが口を挟んだ。そう言えばポータルクリスタルに興味を持っていたな。


「使えないわよ~。ポータルストーンはね、ポータルクリスタルにマナを込めると水晶の枝から生えてくるものなの。そうしないと作れないからか、マナを込めた本人しか使えないのよね」


「それじゃあ今日使っちゃったし、また作っておかないと駄目だね!」


「えっ、そ、そうね~。またヒマな時にでもやっておかないとね~」


 目を泳がせながらセリーヌがニコラに答える。……なんだか怪しいな。俺が訝しんでいると、セリーヌが前を指差してごまかすように声を上げた。


「あっ! ほら、着いたわよ~!」


 セリーヌの指差す先には森の中を横断するように川が流れていた。月の明かりが川の表面を照らし、きらきらと輝いているように見える。照明魔法が無くても十分なくらいの明るさだ。


「それじゃさっそく水浴びしましょっか」


 俺に背を向けていたセリーヌはそう言うや否や、黒いドレスをするすると脱ぎ始める。セリーヌの真っ白な背中がまるで月夜に浮かび上がっているように見えた。


「そ、それじゃあ僕は向こうに行くね! ここにタオルを置いとくからね!」


 こうなるともうセリーヌの追求どころじゃない。俺は近くの木にタオルをかけると後ろを見ずに下流へと歩いた。


「もう、照れなくてもいいのにね~」

「ねー!」


 セリーヌとニコラが笑い合う声が聞こえる。「アイリス」で女性の裸には随分慣れたと思ったけど、さすがに不意打ちは厳しいみたいだ。


 自前の照明魔法を頼りに川岸沿いに歩き、しばらく距離を稼いだ後に振り返る。既に二人の姿は見えなくなっているが、光球が宙に浮いているのは確認出来た。このくらいの距離で十分だろう。


 俺はさっそく服を脱いでアイテムボックスに入れ、丸裸になってみた。……川で体を洗うって初めてだな。どうやるのがいいんだろう? とりあえず風呂みたいに浸かってみるかな。


 俺は少しづつ川の中程へと歩いていき、自分の腰辺りまで水に浸かったところで足を止めると、そこでしゃがみ込む。尻に直接触れる丸い石の感触がなんとも言えない。


 ふと崩壊しかけた巣の中で頭に砂がかかったのを思い出した。俺は息を止めると頭をすっぽりと川の中へ沈め、頭をわしゃわしゃとかき回す。


「ぷはっ」


 思う存分かき回したところで川から頭を出した。ふうー、スッキリした。これで汚れの方は大丈夫かな。石鹸もあるけれど、川に流していいか分からないので止めておこう。


 ということで、これで体を洗うという目標は一応達成した。もうセリーヌたちの所に戻っていいのかな? ……いや、まだなんだかんだで水浴びしてそうだ。ニコラがこんな機会をあっさり終わらすはずがない。あの手この手で水浴びタイムを引き伸ばしてるはずだ。


 そこで時間を潰すために、しばらくじっと川に浸かってみることにした。


 しかし川の水はひんやりと冷たく、一分も浸かっていると寒くなってきたので、結局すぐに立ち上がることになった。こんなところで水に浸かってるもんじゃないよマジで。


「うー、さぶっ」


 思わず口に出しながら肩の辺りを両手で擦っていると、「クスクス」と笑い声がした。


「えっ、誰!?」


 俺はとっさに股間を手で隠して声のした方に顔を向けると、川岸の大きな岩の上には、俺を見ながら口に手をあて笑い続けている少女が座っていた。

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