156 セリーヌの隠し子
「僕も?」
「そうよお。あんただってラックやジャックを助けてあげたいとは思うでしょう? それにこの鉱山はあんたを鍛えるのに、おあつらえ向きのようだわ」
セリーヌがまた岩壁をペタンと触った。なんとも気になる。
元々、今回の旅は技術や経験を身につけるためにセリーヌに同行した。そのセリーヌが言うのなら俺が拒否することはない。もちろん怖いけどね。それに確かに俺だってラックやジャックを助けたいと思ってるんだ。
「分かった、それじゃあ行くよ。……でも危なくなったら助けてよね」
「ふふっ、もちろん守ってあげるわよん」
そう言ってセリーヌが俺の頭を撫で回した。ほんとチキンですいません。
『それじゃ私も同行しますので』
そう念話が届いたと思うと、ニコラがセリーヌの腰に巻き付く。
「セリーヌお姉ちゃん、ニコラもついて行っていーい?」
「うん? ……そうね、その方がいいかもしれないわ。いいわよー。ついてらっしゃい」
「セリーヌさん、私も行きたい!」「あたしも!」
ニコラに続けとばかりにデリカとネイが同時に声を上げる。しかしセリーヌは二人の前へと進むと、
「ごめんね、これ以上は私も守りきれないかもしれないの。それにデリカちゃんには役割があるのよ」
セリーヌが胸元から革袋を取り出した。中には何やらどっしりと重そうなものが入ってるみたいだが……。というか胸元どうなってんだ。
「これ預かっておいてくれる? とても大事な物なのよ」
「……うん」
デリカは革袋を手に持つと、何か言いたいことを我慢するように口を噤んだ。ついて行きたい気持ちを抑えているんだろう。デリカは聞き分けのいい良い子なのだ。
「いい子ね。ネイちゃんもデリカちゃんをよろしく頼むわね」
「しゃーねーなー。待っといてやるから、さっさと二人を助けて戻ってこいよな!」
セリーヌは二人の頭を撫でて頷くと、見張りやウェイケルパーティがいる方へと振り返る。
「さてと、道案内が欲しいんだけど」
「よし、またワシが行こう」
がっしりとした体つきの壮年の男が口を開く。彼がネイの鉱山の親方のジムザだろう。
「いや、俺たちにやらせてくれ。青豹団行くぞ!」
ウェイケルがジムザを手で制して声を上げると、パーティメンバー全員が「ウェーイ!」と立ち上がる。よく見れば全員そこかしこに傷を負っており、威勢は良いがかなり無理をしている様子が見て取れた。
「ああー、道案内は一人でいいわよ。それじゃあマルク、コイツに回復魔法をお願いするわね」
「はーい」
俺はコイツと言われたウェイケルに回復魔法をかける。腕に噛み傷、破けたズボンから見える太腿には打撲傷があり鬱血して赤黒く腫れていた。うわー痛そう。
それをすぐさま回復魔法で治した。なんだか集落にきてから回復魔法の出番がやたらと増えた気がする。相手からすれば怪我をするというのは不幸なことかもしれないけれど、練習の機会が増えるのはちょっとありがたいね。
俺が若干不謹慎なことを考えながら治療をしていると、ウェイケルがみるみる治っていく傷を見ながら息を呑む。
「……すげえ、マジで治った。さっきはストーンリザードを一撃で倒していたし、何者なんすかこの子?」
「あんたらが血眼になって探してた、例の賞金首をかっさらった子よ」
かっさらったとか人聞きが悪い。ウェイケルパーティがザワつき、ウェイケルが俺の全身をじろじろと見ながら口を開く。
「えっ? ギルドで噂になってた蛇狼を捕まえた子供ってこの子なんすか? 俺てっきりデマだと思ってたんすけど。……あっ、そういうことか! セリーヌサンの隠し子――」
パカンッ!
鉱山周辺に乾いた音が響き渡った。セリーヌって俺たち子供にはやさしいけど、いい歳した大人には厳しいところがあるよね。
「――さて、バカなこと言ってないでそろそろ行くわよ」
「うん」「はーい」
頭を抑えてしゃがみこんでいるウェイケルを尻目に、俺たちは揃って返事をした。見たところニコラの体調も良くなっているようだ。ロリ車に感謝だな。
「マルク、私の分も頑張ってきてね」
「マルク! 気をつけてな!」
デリカは両手に革袋を握りしめながら、ネイは手を頭の後ろで組みニカっと笑いながら声をかけてくれた。俺はデリカとネイに頷いて答えると、坑口へと足を進めた。
「それじゃ今から入るんでー。ランタンを出すからちょっと待ってくれっす」
ウェイケルが坑口の前で背負っていた鞄をごそごそと探り始める。セリーヌはそれを留めると、俺の肩をポンと叩く。
「必要ないわ。マルク、お願いね」
「はーい」
俺は照明魔法で発動させ、三つの光球を周囲に浮かべた。
「うおっ、照明魔法!?」
ウェイケルは光球をキョロキョロと見回すと、顎に手をあてながら呟く。
「一撃でストーンリザードを倒した魔法、回復魔法に照明魔法。やっぱセリーヌサンの隠し子なんじゃ?」
「バカなこと言ってないで先に進みなさい」
呆れ声のセリーヌがブンブンと魔法の杖を振ると、ウェイケルはうへぇと頭を抑えながら坑道へと入って行った。
少し歩くとすぐに鉱山の入り口からの光は届かなくなり、照明魔法だけが煌々と道を照らす。
鉱山の中は思っていたよりもヒンヤリとしている。通路を見渡すと天井や壁が木の枠で補強されているのが見えた。
通路は大人が五人ほど横になっても十分なほどの広さがあり、高さも三メートルはある。俺の前世のイメージだと鉱山はもっと狭いものだと思っていたので少しホッとした。身動きの取れない場所で魔物と相対するなんてゾッとするもんな。
「あっ、そこの横穴を右に。こっちが魔石坑道になるっす」
真っ直ぐ伸びた坑道の右手側に横穴が見える。この先がラックやジャックが取り残されてると思われる魔石坑道らしい。




