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【書籍化】異世界で妹天使となにかする。  作者: 深見おしお@『伊勢崎さん』コミックス1巻9/27発売!


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138 非合法

「へぇ、ドワーフかあ」


 俺がなんとなく口に出した呟きが聞こえたのだろう。ネイがテーブルに近づいてきた。


「ドワーフが珍しいのかい?」


「あっ、えっと……、気分を悪くしたならごめんなさい」


 もしかしたら種族差別的な発言に聞こえたのかもしれない。頭を下げるとネイはニカッと笑う。


「そんなこといちいち気にしないよ! 実際この辺りじゃドワーフは珍しいんだ、子供のうちは好奇心旺盛でないとな! ちなみにあたしは見た目はあんたと同じくらいだけど、もう十歳なんだからな!」


 そういって俺の背中をバンバンと叩く。気分を害していないなら良かった。……って、え? 十歳?


『合法ロリかと思いきや、非合法だと……』


 ニコラの毒電波が漏れ聞こえた。そもそも合法ロリとは言うけれど、俺たちの住んでるところでは十二歳から結婚できるし、わりと合法のラインが低いんだけどな。しかしそのラインにすら至ってないのは意外といえば意外だった。


「そ、そうなんですか。もっと年上なんだと思いました。その、口調とか」


 年季の入った話し方と見た目に違和感があったのはドワーフだからと納得しかけていたものが、再びしっくりこないものになっている。


「口調? ああ、あたしの親父がな、見た目が幼いとナメられるから口調は俺のマネをしろって言ってな。それからずっとこんな感じだよ。それと歳も近いんだ、タメ口でいいよ! タメ口で!」


「え、あ、うん」


 どうやら親の教育の賜物らしかった。そしてまた俺の背中をバンバン叩いた。力が強いなオイ。


「おっと、それとついでに言っとくけどさ、そっちの姉ちゃんが客に尋ねてるのを聞いたんだけど、ファティアの町に行っていた行商人を探してるんだろ? あたし知ってるよ。仕事が終わってからでいいなら、詳しい話をしてやろうか?」


「あら、本当?」


 セリーヌは俺たちが席に着く前に、飲みながらも情報収集をしていたらしい。どうやらこれで俺たちの目的が達成されそうだ。


「ああ、行商人のビヤンだろ? あたしん家の隣に住んでんだ。それじゃ客に呼ばれたからまた後でな!」


「ええ、分かったわん」


 セリーヌの返事に頷くと、ネイは注文を取りに別テーブルへと向かった。



 ――――――



 しばらくして食事を終えた俺たちは二階の部屋へと戻った。セリーヌはもうしばらく酒を飲んでいるそうだ。


 ちなみに岩虫のスープのおかわりはしなかった。もともと大人用のメニューだったこともあり、スープを飲み干すだけでお腹一杯になってしまったのだ。


 ニコラとデリカも同様だ。デリカは少し苦しそうにしながら口いっぱいに特大ソーセージを頬張り、ニコラは食べ切れなくなった幾つかの岩虫肉を俺の皿にそっと戻していた。出来ればお腹が一杯になる前に食べたかったよ。


 俺は部屋に戻ると椅子代わりのベッドに腰掛けて一息ついた。後は寝るだけなんだが、ネイが仕事終わりに部屋を訪ねてくるらしい。セリーヌに任せておけばいいのだろうけど、何事も勉強なので一緒に聞いておきたい。


 そうなると今のうちに旅の汚れを落とすべきだな。風呂にも入れないので今日は濡れタオルで体を拭くだけにしておこう。


 とはいえ今この部屋で体を拭くのは、ニコラだけならともかくデリカが一緒にいる間は止めといたほうが無難だろう。たしか宿のおばさんが、外に井戸があるから体を拭くならそこを使ってくれて構わないと言っていた。


「それじゃ僕は井戸で体を拭いてくるから、よかったらその間にデリカたちも部屋で体を拭いておくといいよ」


 アイテムボックスから桶とタオルを取り出し、魔法で桶にお湯を注ぐ。


「ありがとマルク。実は移動中に何度か砂埃をかぶっちゃって、早く体を拭きたかったの」


 デリカが桶とタオルを受け取り、俺に感謝を伝える。そういうことなら食事前に渡しておけばよかった。きっとデリカなりに気を使ったんだろうな。


 俺が自分の失敗を反省していると、ニコラから念話が届いた。


『少し早めに戻ってきたら半裸のデリカが拝めると思いますよ。私が時間を稼ぎますから、早く戻ってきてくださいね』


『そんな仕組まれたラッキースケベはいらないから』


 俺はニコラに出来レースの却下を伝えると部屋から出た。



 部屋を出てすぐ近くにある階段から階下の酒場を覗くと、テーブルからカウンターに席を移したらしいセリーヌが酒を飲んでいるのが見えた。


 丁度ナンパ客をあしらっているところのようだ。すぐにナンパ客が肩をすくめながら引き下がっている様子が見てとれた。あれ以上しつこく食い下がると男は床をペロリと舐めることになるので、その判断はとても正しい。


 それにしても俺たちが食事を始めた時よりも、客は更に増えているようだ。最初に宿に来た時はガラガラだったのは、単に酒場の営業時間前だったのかもしれない。


 しかし給仕はネイしかいないようで、一人で酒場中をエネルギッシュに動き回っている。見た目は小さくてかわいい女の子なのに、よくあんなに休みなく動けるなあ。やっぱりドワーフは普通の人と筋力が違うんだろうか。


 仕込みラッキースケベを回避するには時間を潰すのが一番だ。俺がゆっくりと酒場の様子を眺めていると――俺の真下辺りにネイが移動した時だった。


 突然椅子から立ち上がった客とネイがぶつかり、勢いよく転倒してトレイに乗せていた空のジョッキを床に落としてしまった。ガラスのジョッキが床で派手に割れる。


「……っと、すまねえ。大丈夫か? ネイ」


 赤ら顔の客が心配そうにネイに尋ねる。


「ああ、平気……痛っ」


 どうやらガラスの破片で怪我をしたようだ。俺は急いで階段を駆け下りた。

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