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11 魔法トマト

 そして一週間後、本当にトマトが完成した。魔法ってすごいな。ちなみにトマトを育てている間は、隣に同じような畑をもうひとつ作って魔法の練習をしていた。


「さあ坊主、食ってみな」


 ギルが真っ赤でつややかなトマトをもぎ取り、俺に手渡す。


 ――フン、どうやら見た目は合格のようだな。だが俺をもぎたてなら何でも「ウマーイ!」と叫ぶお笑い芸人と同じだと思うなよ! それじゃあバクリと頂くぜ!


「ウマーーーーーイ!」


「お、おう、そうか坊主」


 ギルは若干引き気味だが、俺はそれどころじゃない。これはうまい! 今まで食っていたトマトとは一線を画してますわ!


 これが本物のトマトというのなら、俺が今まで食べていたのは赤い水風船かゴム鞠だったんじゃないだろうか? さすがに言い過ぎな気もせんではないがとにかくウマーイ!


 横を見ればニコラも目を見開いてトマトにかじりついている。食べ物に貪欲な食いしんぼキャラだとは薄々勘付いてはいたが、それでもこんな顔をして食べるのは初めて見たな。


『……お兄ちゃん』


『なんだ妹よ』


『魔法野菜作りに生涯を捧げてみませんか?』


 可能性が無限に広がる五歳児に言うには、生涯を捧げると言う言葉は重すぎやしませんかね。まぁでも高く売れて楽に生活出来るならアリなのか……?


「ギルおじさん、このくらいの味のトマトって、普通のトマトの何倍くらいの値段で売られているの?」


「ん、そうだな……、三倍前後ってところか? 貴族向けに卸してる手間暇のかかったブランド野菜なら十倍を軽く超える値段が付いてるぞ」


 さすがに本職農家は格が違った。とはいえ三倍程度じゃ小遣い稼ぎはともかく、楽して生活するのは無理だな。


 今以上の値段にするには更に手間暇がかかるらしいし、お気軽に作れるのはこの辺が限界なんだろう。いや、量を増やせばなんとか……。ええい、止め止め! とりあえず将来の可能性のひとつに留めておこう。


「なんだ、坊主は農家になりたくなったのか? アレはアレで色々苦労もあるんだがな……。まあ若いうちは色々考えてみるといいさ。それよりほら、美人の母ちゃんに持っていってやりな」


 俺が色々考えてる間にもいでくれたらしい。樹皮で出来たざる一杯に入った魔法トマトを俺に差し出した。


「ありがとう、ギルおじさん!」


 全部を一人で作ったわけじゃないが、俺がこの世界にきて初めて作ったものだ。それを両親に食べてもらえるのは嬉しかった。俺からまるで普通の五歳児相当の打算のない笑みがこぼれた。



 ――――――



 ざるに入った魔法トマトを抱えて家に帰る。夕食にはまだ早い時間帯だったので、宿屋は閑散としていた。


「ただいまー」


 食堂でテーブルを拭いていた手を止め、母さんが出迎えてくれる。


「マルク、ニコラおかえりなさい~。あら? それは……?」


「前に言っていたトマト、今日収穫出来たんだ。母さんにあげるね!」


「あら、まあまあまあ! すごく美味しそうだわ! マルクもニコラもがんばったのね、二人ともえらいわね~」


 母さんが俺とニコラを順番にギュッと抱きしめる。ちょっと照れくさいが、母さんが褒めてくれるのが嬉しかった。



 俺とニコラ(一応ニコラも暇つぶし程度には手伝っていた)が作った魔法トマトは両親に好評だった。キッチンで食事の仕込みをしていた父さんも一口食べて目を丸くして驚き、そして頭を撫でてくれた。


 味もそうだが、何よりも初めて作った野菜を両親に持ってきたことに感激しているようだ。きっとこれが不味いトマトであっても同じように喜んでくれただろうと思う。


 その日の夕食は急遽献立を変更し、魔法トマトを贅沢に使ったものとなった。とても美味しく、とても楽しかった。


 そして翌日は、私も負けてられないと創作料理を振る舞おうとする母さんを止めるのに全力を尽くした。

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