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【書籍化】異世界で妹天使となにかする。  作者: 深見おしお@『伊勢崎さん』コミックス1巻9/27発売!


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108 じじころがし

「……お、俺はまだ……、許されていないのだろうなぁ……」


 しばらくして意識を取り戻した爺ちゃんが、はらはらと涙を流しながら独り言のように呟く。一度持ち上げてから落としたみたいな形になったので、爺ちゃんの心のHPはゼロになっているらしい。


「い、いや違うよ。母さんはなぜか不味い実を使った料理を作りたがるんだよ。僕たちもたまに食べさせられて酷い目にあってるんだ。だから大丈夫!」


「そ、そうなのか? 信じていいのか? なあ?」


 爺ちゃんはすがりつくような目をしながら俺を見る。


「うん、もちろんだよ! ……アレはとりあえず置いといてさ、他の物を食べたらいいと思うよ!」


「ニコラはこの白いのがおすすめだよ!」


 ニコラがテンタクルス焼きを指差すと、


「そうか! ニコラたんが言うならそれを食べちゃおうかな!」


 爺ちゃんが一転笑顔になり、テンタクルス焼きをフォークで突いた。


 ナイスだニコラ。アレはテンタクルスの切り身を焼いて塩で味付けしただけの料理だから間違いはないだろう……多分。


 ……もし隠し味にドギュンザーが使われていたりすると、爺ちゃんの心のHPはマイナスへと突入し、親子関係の修復するまで五年は伸びることになりそうだが。


 俺が祈るような気持ちで見つめる中、爺ちゃんはテンタクルス焼きを口に入れた。


「うまい!」


 どうやらまともな料理だったようだ。俺がホッと胸を撫で下ろすと、爺ちゃんが二つ目のテンタクルス焼きをフォークで突きながら、


「これはマルクたんが村で買い付けてきたというテンタクルスって魔物だよな! 前から食べてみたかったんだが、あの店にしか売ってなかったからなあ。名前だけを使っている屋台に何度騙されたことか……」


 セカード村まで買い付けに行く商人が現れてもおかしくないとは思うんだが、今のところウチ以外にテンタクルスを扱っている店は無い。


 そこまでの手間をかけて美味しいものを作るより、名前だけパクってそれなりに売れれば十分らしい。爺ちゃんが俺の買い付けを知ってることに関しては、もはや何も言うまい。


「このモチモチした食感、クセになるな! この歳で商才まであるだなんてマルクたんは本当に天才だ。爺ちゃんは鼻が高いぜ」


 爺ちゃんは笑いながら二つ目のテンタクルス焼きを口に運んだ。


 その後も三人でテーブルを囲み食事を続けた。


 手紙に書かれていたらしい父さん入魂の一品はなかなか食べようとしなかったが、ニコラのお願いに陥落してようやく口にすると、親父さんの味にそっくりだなと呟き、昔を懐かしむように目を細めた。どうやら父方の祖父と面識があるようだ。



「ふう、こんな楽しい食事は久しぶりだったな。ありがとなマルクたん、ニコラたん」


 食事が終わり、爺ちゃんが笑顔で弁当箱を俺の方へと差し出す。


「お爺ちゃん、せめて弁当箱くらいは洗って返さないと駄目だよ」


 俺が真面目ぶった口調で言うと、爺ちゃんは頭を掻きながら、


「おっ、そうか、そうだな。マルクたんはしっかりしてるなあ。ちょっと待っててくれよな」


 そう言って流し台に向かう爺ちゃんを呼び止める。


「待ってよ。先に旅の装備の方を見せてもらいたいな。だから洗うのは後回しにしようよ。……僕らが町を出てる間に母さんが取りに来るからさ」


「……分かった。じゃあ後で洗っておくな。マルクたんありがとうよ」


 爺ちゃんは台所の方を向いたまま少し震えた声で言葉を返すと、弁当箱を流し台に置き、勢いよく振り返った。


「よし! それじゃあ店の中を案内するか。お前たちが着られるような服や装備はたくさんあるぞ! 元々お前たちに着させてあげたい物を仕入れたり作ったりしていたからな!」


 ああ、やっぱりそうだったんだ。薄々そんな気はしていた。しかし今後もその方針なら、俺たちが成長するにつれて普通の店に戻ってしまうな。


「それにどうやら子供向けの旅装なんかを特別に扱う店は町に無かったようで、売上が以前よりも上がっているんだから、商売が繁盛してるのも二人のお陰なんだぜ。なんでも欲しい物は持っていっていいぞ!」


 それを聞いたニコラが見えない角度でガッツポーズをする。


「それじゃあ、お爺ちゃんのおすすめを見せてもらおうかな」


「おう、任せてくれ!」



 こうして俺とニコラは爺ちゃんおすすめの装備をいくつもいただくことになった。細々した物も含めると結構な額になる気がするが……。店の経営が傾かない程度であると信じたい。


 ニコラにたかられている爺ちゃんの顔は幸せそうだったから、俺もあまり遠慮はしなかった。



 ――――――



 必要な物を十分に揃えてもらい、帰る頃合いになった。着心地を試す為に、家までは爺ちゃんに貰ったものを身につけて帰ることにした。


 俺は自分の足元を見る。履いているのは爺ちゃんがバンバンと叩いていた革靴だ。その履き心地はまるで何年も履いていたかのように馴染んでいる。さすがプロの仕上げである。


 そして背中に羽織った薄い青色のマント。大人用だったために裾を引きずらないようにする必要があり、爺ちゃんは余分な部分を切るつもりだったのだが、高価なものだったので切ったりはせずに成長と共に伸ばして使えるように、折りたたむ形で仕立ててもらった。


 素材に使われているのは、寒い地域に棲息するというスノーウルフの皮らしい。寒さに強く、魔物の皮ということで見た目以上に丈夫なんだそうだ。重さもマントを折りたたんで仕立てているわりには感じない。



「それじゃあ旅から戻ってきたら、今度は母さんと三人で来るね」


 まあ父さんとは、もう少し冷却期間を置いてからのほうがいいだろう。


「おう! マルクたんニコラたんならどんなギルド依頼も余裕だろうし、土産話を楽しみにしてるぜ!」


 この俺たちに全幅の信頼を寄せるところは母さんにそっくりだな。さすが父娘である。


 そして俺たちは手を振りながら店から離れる。それを爺ちゃんはずっと手を振って見送ってくれた。


 途中で近所の人がいつもの気難し屋のジーザンとのギャップに驚いてる様子が見えたが、爺ちゃんは気づいてないのか吹っ切れたのか、態度を変えることはなくお互いに見えなくなるまで手を振っていた。

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