STEP9-4 ~完全勝利! 暁に帝王、君臨す~
「……チッ! 情けをかけたことを後悔しろよ、アズールッ!」
女暗殺者は装甲車両を追い抜かんばかりの速度で、砂の中を撤退していく。
俺は彼女と、装甲車両がつづいてユキマイを出たことを確かめ、大きく息を吐いた。
『敵影、砲撃可能圏内から消えました。
状況終了と判断します。皆さん、お疲れ様でした!』
「わああああ!!」
「やったぁぁぁ!!」
「かっこよかったぜ咲也さァァァん!!」
「漢だぜこのやろう!」
「一生ついていきますー!!」
「結婚してくれー!」
YUIのアナウンスを受け、ユキマイの地を勝どきが包む。
なんか、若干変な歓声も混じってた気もするが、深くは考えずにおくことにした。
目下の問題はそう、ここに立っている『ダークヒーロー』だ。
ナナっちは奴の胸板にこぶしをぶつけながら号泣している。
奴のほうも抵抗するでもなく、むしろ驚くほど優しい顔で頭を撫でてやっている。
無理に引っぱがす気になんかもちろん、なれなかった。
もともと、可能ならばここに受け入れるつもりでいたのだし。
しかし奴は、どういうつもりなのだろう。
とりあえず、俺は奴に歩み寄った。
「なあアズール。取り込み中悪いけど……」
そのときぐいっと後ろに引っ張られた。ふりかえらなくったってわかる、サクだ。
「お前は近づくな!
アズール、奈々緒から離れろ。武器を捨て、地面に両手をつけ」
俺をかばって立ち、アズールを睨みつけ、逆らえば殺すといわんばかりの対応だ。
「抵抗するな。俺がいいというまで、聞いたことにだけ答えろ。
貴様、どういうつもりだ」
「おいサク」
「メイちゃん、アズールは……」
「どう見たってすでに怪我人じゃないだろう。
誰に治させた。仲間はいるのか」
当のアズールはというと、気分を害した様子もない。
「かまわねえよ、仔猫ちゃんたち。
俺は消されねえだけ御の字の大悪人だ。ここは素直に従うさ」
ナナっちから離れ、砂の上にひざと手のひらをついた。
そして、静かな口調で答えを返しはじめた。
「つもりもへったくれも、流れってやつよ。
俺は切り捨てられた。負傷して、死ぬつもりで海に落ちた。
だが命救ってもらっちまったから、恩返しに舞い戻ってきた。そんだけだ」
「誰が救った」
「奈々緒だよ」
「え……??」
俺たちの疑問の声がハモった。
「ナナっち、いつ見つけてたんだ?」
「いや、今会ったばっかだよ?」
「おいおい、無自覚かよ。
わかってかけてきたかと思ってたのに」
「……どういうことだ」
「んー。とりあえず俺の身に起きたことを順番に言うぜ?
俺は傷だらけの死に掛けで海に落ちた。だがいっこも苦しくねえ。それどころか痛みもどんどん引いてきて、ひたすら気持ちよくって、そのまんま眠っちまった。
目が覚めたら怪我もさっぱり治ってたしアタマもスッキリだ。さすがにわかったね、俺は『アクアヴィータ』に包まれて海の中ふよふよしてるんだって。
俺みたいなクズにそんなことしてくれる聖人様なんざ、ひとりしかいねえ。
ってなわけで海から上がってここまで戻ってきた……って訳だ」
それを聞くと、ナナっちの瞳にまた、涙が浮かんだ。
「そんな、ことって……
俺、ずっと海に祈ってた。
アズのこと、守ってください、助けてくださいって……
奇跡だ。ユキマイの海が、願いをかなえてくれたんだ。
ありがとう。ありがとうサクやん。おまえのおかげだよ!
お前たちにとってこいつは、敵でしかなかったのに。それなのに……!」
けれど、それはうれし涙だった。
ナナっちはあふれるそれらを拭きもせず、ありがとう、ありがとうと俺に頭をさげた。
「ちょ、ナナっち! 俺のおかげじゃないって、お前のチカラだって!
そりゃ俺だって、ナナっちのトモダチなら、絶対助かったほうがいいって思ってたけど!」
「……………………。」
あわててナナっちに駆けよったそのとき、俺はアズールがこちらを凝視しているのに気が付いた。
その目と口はぽかんと開き、なんだかちょっと間の抜けた顔になってしまっている。
だが、それは奴だけではなかった。
まわりのみんなまで、同じようにぽかんと俺を見ている。
「えっ、えっ、なに? おれまたなんかやらかしちゃった? ねえ??」
救いを求め見回すと、当然サクと目が合った。
奴はこめかみを押さえ、大きくため息をつきつつも、丁寧に解説してくれた。
「おまえは……
いいかサキ。
お前はユキマイの化身。お前に心底疎まれれば、ここでは生きてゆけないだろう。
だが逆に、お前が心底生かしたいと思えば、そのものは生かされる。
つまり、お前はこの外道を、心のそこから『生かしてやりたい』と思っていたということだ。
たとえそこに、奈々緒のためという理由があったにしてもな。
まったく、お人よしというか、器がでかいというのか……」
「まじかー……」
アズールまでもが深くため息をつく。
そして、こないだと同じ、真面目な顔で俺を見た。
「前言撤回だわ。俺の聖人様はひとりじゃなかった。
俺は奈々緒に命の恩を返したいとだけ思ってここに来たけど、その恩は、お前にも返さなきゃならねえようだな――此花咲也」
そして、俺にむけてひざまずき、深く深く、こうべをたれた。
「頼む。俺を、お前の所有として使ってくれ。
研究材料として扱うもよし。傭兵として戦わせるもよし。
俺は生体兵器だ。メンテナンスなしでは長く生きねえ。
長くて半年。その間だけ、好きに利用してくれればいい。
あとは黙っていても死ぬ、お前らに迷惑は……」
「あのさ。
メンテってさ、特殊な施設とかいるのか?
薬品も施設も俺たちでどうにかできる。あと、技術者も」
「……は? おまえ、なに言ってんだ?
『俺』は、シノケンの機密だぜ。すなわち朱鳥の機密だ。
おに、……ソーマちゃんあたりなら全容把握してるがよ。
もし今連絡取ったりすれば……」
「だれが瑠名にとっつかまるって?」
そのとき、現れた人物にアズールはぽかんと口を開けた。
砂を踏んで現れたのはそう、やつの“おにいちゃん”こと、亜貴だった。
「え、おま……な、なんでここに」
「おまえさぁ。ほんっとウソもダメダメだな!
おかげでおにーちゃん、身辺がやばいって気付いちまった。んでもって身一つで親友のうちまで亡命してきちまった。
あーあ、俺のツイブレグッズどーしよー。せっかく親父が買ってくれたのになー。あーあ」
「あ……や、それはっ……そんなつもりじゃ……ええっ……いや、なにこれどーなって……」
亜貴が意地悪く笑いかければ、アズールは冷や汗ダラダラといった様子で目を泳がせる。こいつでもこんな顔になるのか。はじめてみたぞ。
っていうか亜貴も見たことないほどいい顔してる。これドSだ。完全にドSだ。もはやサクといい勝負だ間違いない。
その新たなドSはこれでもかっていうほど晴れやかな笑顔で言い放った。
「ま、そもそもこのことは、俺のトモダチのうさぎちゃんからリークされてたんだけどな!」
「は、……?!
おいちょっと待て! それって俺を裏切った、あのクソ依頼主のガキ……」
「そーゆーこと。
うさぎちゃんはな、わざとお前をハブったんだよ。
捨てられたお前が他の傭兵たちをサクッと撃退して、うまいことユキマイ側に走れるよーに。
――ユキマイ国にチカラを与え、朱鳥からの独立を確実なものにさせるためにな。
理由は、ま、言わなくたってわかるだろ」
「やはりか……」
「だったなー……」
サクとイザークがうなずきあってる。
そういえばイザークは以前『瑠名の動きがおかしい』といっていた。
サクは『誠人さんのような人材を派遣してくるのが謎だ』とも。
だが、そもそも朱鳥側に支援の動きがあったなら納得だ。
しかしそんな俺たちを尻目に、亜貴はアズールをざくざくとこき下ろす。
「だってのにこんなことになるとか、おまえマジでドジすぎだろ。対処できねえような攻撃はさせてねーはずだって、うさぎちゃん驚愕してたぜ?
はーまったくもう。だからダメだっつったろ、なりだけでっけー二歳児が家出なんか。
お前は俺が世話してやる。おやじもテキトーなとこで呼ぶからな。
ちゃんとお前の部屋ももらってあるぞ。どさくさまぎれに奈々緒君のお部屋に転がり込んでとか、そーゆー不埒なことはおにーちゃんが許しませんからね?」
「なあああ!! ちがう!! そんなこと考えてないから!!
ナナはちがうから!! そういうこと考える対象じゃないから!!」
「へーえ? うちで毎日毎日毎っ日、奈々緒君バトル動画再生しまくってたのは誰だ? “勇者ナナキ”の出演番組片っ端から録画してたのは誰だ? それとか」
「やめて――!!」
「……まあ、そういうわけだ。
こいつがセクハラしそうになったら俺に言って、咲也。
奈々緒君も、甘い顔しなくていいから。
これで問題ないかな、朔夜さん?」
「……あ、ああ……
よ、よろしく……頼む……」
いつの間に戻ったか、清楚な笑みでサラッと確認取る亜貴。
サクもあきらかに気おされていた。
俺は断言できる。このとき、俺たちは全員ひとつのことを思っていたと。
すなわち――亜貴だけは敵に回してはいけない。




