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咲也・此花STEPS!! 2~訳ありフリーターだった俺が伝説の砂漠で一国一城の『にゃるじ』になるまで!~  作者: 日向 るきあ
<後半>STEP9.~暁に帝王、君臨す~

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STEP9-2 ~王の戦い~

 ナナっちには、ダイビング経験はない。

 しかし『七瀬の七番目』であるやつには、経験も装備も要らなかった。

 七瀬のチカラで身を包み、そのまま海に飛び込むだけだ。

 もちろんダイビングのできる人がバディについたが、もちろん人間の泳力で追いつけるわけもない。少し離れて水中スクーターで伴走、必要なときにサポートする形となった。

 YUIユイとロク兄さんが協力しあい、流されただろう距離、方向を計算してくれたが、それでもアズールは見つからない。


 一方俺はというと、アズール受け入れの準備で駆け回っていた。

 とんでもない方法で移転したとはいえ、ユキシロ製薬はふつうに操業を続けている。

 つまりは、通常業務と城周辺の緑化作業のほかに、引越しにともなういろいろなこと、“救出”した傭兵と物資のこと、さらには独立&即位の最終準備がある状態となっているのだ。

 遺跡探査は報告含め終わったが、忙しさをプラスマイナスで言えばそれでもプラス。

 そこに俺の判断で、あの男の件まで投げ込んだ。

 スジとしても物理的にも、俺が自ら動かないなんて選択肢はありえなかった。


 ――ただ、亜貴に連絡する必要はなかった。

 なんとあいつのほうから、俺のスマホにかかってきたのだ。

『あの馬鹿、来てる?』と。



『不吉な兆候はあったんだ』

 迎えのバギーにゆられつつ、亜貴は伝えてきた。

『昨日の夜、お上から突然通達された。

 アズールのメンテナンス等に充てられる特別予算が打ち切りになった、て。

『シノケン事件の対応に予算をまわす必要が“一時的に”できたためで、費目自体は削除していないし、けして廃棄を指示しているわけではない』って言ってたけど、ハッキングして確かめてみたらウソだった』

 声音も変えずさらっと言ってるが、一国の首相府にハッキングとか、国際情報機関並みの技術である。

『あいつ本人も今朝、気持ち悪い出て行きかたしてた。

 依頼で出るってだけなのに、いきなり部屋を掃除しだして……

 しまいには「タバコ買ってくる」なんて言ってうちを出てった。

 親父も俺もあいつも、タバコなんか吸わないし、買ったこともないのにだ』

 それは確かに気持ちが悪い。というか、そこまでバレバレのウソは始めてだ。

『おかしいと思って部屋の鍵あけてみたら、きれいになった部屋のまんなかに、おやじがやったケータイと、俺がやったストラップがぽつっと残されてた。

 あいつにとってあれは、たった二つの宝物なのに。

 不審に思ってケータイのロック解除してみたら、『今まで世話になった。ありがとう。』なんて、ガラにもないようなメッセージが送信予約されてた。

 だから、咲也と奈々緒君のとこかなって。』

「いや、いろいろと突っ込みたいけどさ。……

 なんで奴がミエミエの嘘ついて失踪する先が俺たちんとこだって断言できんだよ?!

 たしかに結果としてまちがってなさそうだけどさ!!」

『あいつ、咲也たち大好きだもん。

 瑠名とのエージェント契約のとき、報酬として要求したのはふたりのことだけ。

 金もなにも、条件にしなかったんだ』

「まじに……?」

『うん』


 俺は正直、驚いた。

 前世の親友である、ナナっちの無事を確保したいというのはわかる。

 だがサクレアへの“友情”は、利用するべき対象をコントロールするために便利な道具……じゃなかったか。

 っていうか、もっとガツガツ金とか女性とか要求してそうな気もしていたので、そういう点でも意外な感じはぬぐえない。


『話戻すけどさ、あいつシノケンが入れた発信機もわざわざ潰してるんだ。

 それでああ、って思って。……

 ただ、俺がこっそり入れといた奴が、かろうじて反応あるんだ。

 ……きっと探し出せるよ。きっと』



 それでもその反応は、なぜか飛び飛び。

 現れたと思えば消え、予測もつかないところにまた出てくる。

 亜貴によれば、ナイトウォークが制御不全で発動しているのだろうということだったが……

 彼も加えた最強チームですら捕捉しきれずにいるうち、無情にも日は暮れてしまった。


 それと前後して、ナナっちも戻ってきた。

 正確にはロク兄さんの腕を振りほどくことができなくなって、ぐったりと抱えてこられたのだけれど。


 医務室のベッドで点滴を受けながら、ナナっちは窓からの海を見ていた。

 月に照らされた銀色にむけ、静かに静かに祈っていた。


 * * * * *


「ここまで動いてたみんなは一旦やすんで。

 夜の間は“わたし”と、夜族のみんなでフォローするから。

 よーへーさんたちも言ってたとおり、すぐまた襲撃があるはずだわ。それまでに元気とりもどしといてよ。とくにサキとユイ。いーわね?」


 我らが守護神であるスノーにそう言ってもらったものの、俺は休む気持ちになれなかった。

 YUIもきっと同じだろう。あのとき話も途切れてしまっていたし、もう一度彼女と会話して、お互い気持ちを落ち着かせたほうが、きっといい。

 そう考えた俺はセントラルシステムルームに向かい、白い繭のようなぷにふわシートに体を沈めたのだが……

 意識接続エンゲージしたYUIと俺は、逆にドツボにはまってしまった。


『YUIによる戦況管理へのリソース割り当てが、あと14ポイント加算されていたならば、アズール氏の海面落下は防止できたと計算されています。

 やはりYUIが、人の子の真似をするのは過ぎたことだったのです。

 私があるべき道を外れたから、犠牲が生まれてしまった。

 アズールに重傷を負わせ行方不明にし、ナナオの精神を深く傷つけてしまったのです……』

「そんなじゃないよ、YUI。

 リソースがどうこうってなら、あんなときに話しかけて邪魔をした、俺のせいだよ。

 お前は悪くなんかない。お前は、悪くないから……」

『サキの主張を論理的に検証した結果、これを否定する要素はありません。

 ですが、YUIの対人コミュニケートAIによる演算結果が、なおもそれを否定しています。

 それらを統合するための演算により、YUI全体のパフォーマンスが低下しています。

 このままでは、YUIによる十全の戦況管理は不可能です。

 現在唯聖殿が置かれている危機的状況を勘案し、唯聖殿管理システムとして何らかの修正作業を要請します。

 YUIは、その具体的方法を二通り提案します。

 一、適切な権限の元、当該の統合演算の凍結を命じてください。

 二、もしくはそれを可能とする、情報の入力をお願い致します』

「YUI……」


 彼女が不器用に言っていることをまとめると、こうなる。


 あなたの言ってることは正しい、それは“理解”してる。

 でも、どうしてもそう“思え”ない。

 どうやっても頭がぐるぐる。これじゃあなたたちを守れない。

 だから、たすけて。


 YUIに、落ち度はない。

 判断ミスをおかしたのは――戦闘中にYUIに長々と話しかけ、無駄な負荷をかけて戦況管理の邪魔をし、あの結果を引き起こしたのは――俺だ。

 そのことを、YUIはきちんと“理解”している。

 けれど、“納得”はできずにいる。


 つまり、俺が原因でミスをさせてしまい、それなのに自分を責めている女の子を、俺は落ち着かせてやれないでいる。

 それでも健気に、職務を果たしたい、俺たちを守りたいからなんとか助けてほしい、といっている女の子を、俺は助けてやれないでいるのだ。


 必死で頭を絞るが、いいアイデアは出てこない。

 俺にできていることはただただ、癒しのチカラを伝え、寄り添っていてやることだけ。

 情けなかった。

 城主だ、王さまだなんてどころじゃない。

 もはや、ひとりの男としてダメなレベルだ。


 そのとき、聞き覚えのあるアラームが響き渡った。

 そんな、まさか。

 祈る気持ちで『モノミドリ』からの映像を確認したが、見えたのは最悪のモノだった。


 かたや、隊列を組んで迫る装甲車両。

 かたや、ひとり海へと走るナナっち。

 うっすら明るくなりはじめた空をバックに、それらはやけに不吉に見えた。

 危険を察知したのだろう、はっとナナっちが立ちすくむ。

 ――もはや一刻の猶予もなかった。


「YUI!!」

 そのとき、俺は叫んでいた。

「戦わなくていい!

 俺がやる。俺が全員、守ってやるから!!」


 そうだ。俺は、戦えるのだ。

 なぜって、俺はこの地の化身。ここで戦えば、俺は誰より強いのだ。

 最初から、それが正解だった。

 システムを介さず、俺が直接出て戦う。俺がこの手で、皆を守る。

 そうすれば犠牲など出ようもない。もう誰も、悩ませずに済む!


 立ち上がった俺のもとに、仲間たちが次々姿を現しはじめる。

「さっくん!」

「サキ殿!」

 ナイトウォーカー発着用ブースから、しあなとカイルさんが飛び出す。

「サキ!」

 廊下に通じるドアからはサクがかけこんできた。


 やつを見た瞬間、俺は視界が明るくなった気がした。

 そうだ、こいつならYUIを助けてやれる!

 俺より頭もよく、器も大きい奴ならば、説得力のある言葉をかけてやることもできる。

 最悪、昼間のように城代権限を行使し、演算凍結を強制もしてやれるし、操砂システムとかも使ってもらえる。

 そうだ、それがいい。俺ができないことに無理をしなくても、それでいいんだ!


 サクはまっすぐこちらへ走ってくる。頼もしく思いつつ声をかけた。

「サク。

 俺が出る。YUIをたの……」

 だが奴は、一切スピードを落とさない。コースも変えない。

 え、と思ったときには背中に衝撃。


「お前が戦うのは『ここ』だ!

 逃げるな。立ち向かえ、サキ!」


 俺はサクに肩をつかまれ、シートに押さえつけられていた。

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