表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
咲也・此花STEPS!! 2~訳ありフリーターだった俺が伝説の砂漠で一国一城の『にゃるじ』になるまで!~  作者: 日向 るきあ
<後半>STEP9.~暁に帝王、君臨す~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/85

STEP9-1 どうか、いのちを

「奈々緒にいさまっ!」


 ナナっちは救護テントの床の上に座り込んでいた。

 肩からかけた毛布に包まり、真っ青な顔で震えていた。

 そんな状態ですら、俺たちに向けて笑おうとしてくれたけど、一センチ顎を上げたところで限界だった。

 ロク兄さんに背中をさすってもらいつつ、ひとつ、ふたつと震える深呼吸をくりかえす。


 とても見てなどいられなかった。

 スノーはむぎゅっと抱きついて、俺は手を握って、癒しの力を注いでいた。

 しかしナナっちは、三秒も経たないうちに、もうだいじょうぶ、と小さく首を振った。

 そうして、ぽつり、ぽつりと語ってくれた。


 * * * * *


 戦いが始まるまでは、予想通りだった。

 けれど、始まってみればそれは異常だった。

 20名の傭兵たちは全ての攻撃を、ナナっちひとりに向けてきたのだ。


 ナナっちは『七瀬の七番目』。神に近しい存在だ。

 けれど、そのココロは普通の成人男子。

 いかに、周りの七瀬メンも守ってくれたとしても……


 そこに舞い降りたのがあいつ、アズールだった。

 ナナっちを背にかばい、殺意さえみなぎらせ、味方であるはずの傭兵たちに物申したのだ。

 てめえら、ハナシが違うだろう。七瀬奈々緒は殺さねえと、そういう契約だっただろうが。

 けれど、彼らは言った。

 知ったことかと。


 そんな契約結んでるのはアンタだけだよ。

 アタシたちゃーね、邪魔だてすんならアンタも殺せ。つーかむしろ殺して来い。そういう契約結んでるんだよ!


 そして傭兵たちは、アズールに攻撃を向けてきた。

 ナナっちは思わず、奴の前に飛び出していた。


 馬鹿野郎! ナナっちを突き飛ばすアズール。

 すかさず後ろに転げれば、銃弾と砲撃、そして『チカラ』の怒涛が二人の間を駆け抜けた。


 ここで、操砂システムが起動した。

 サクの意志で引き起こされた砂嵐と流砂が、唯聖殿外陣の外側に立つ傭兵たちを一気に飲み込んだ。

 しかし、直前に彼らが放った最後の攻撃。

 その一部が、アズールを吹っ飛ばしていた。


 そのまま海に落ちなかったのは、ひとえに運がよかったためだ。

 革ジャンの肩付近が岩角にギリギリ引っかかり、宙ぶらりんになっていた。

 ナナっちはすかさず駆け寄り、癒しのチカラと手を伸ばした。

 満身創痍のアズールはしかし、かるく笑ってそれを拒否した。


『俺、もう死ぬっぽいわ。年貢の納め時、てやつだ。

 俺の死体は、シャサってったな、あのイカしたねーちゃんにでも焼き払ってもらえ。

 そら、とっとと帰れ帰れ。この先はお子ちゃま禁止だぞ』


 なに言ってんだ、ぜんぜん助かる! ほら、手を伸ばせよ!

 お前は怪我人だ。助けなくっちゃいけないやつだ!

 ナナっちが必死に叫んでも、奴はその意志を曲げなかった。


『こんなクズ野郎に助ける価値なんざねえよ。

 助けなきゃなんて思ってんのは、世界でお前一人だけだ。

 ああ、サクちんとソーマちゃん親子ぐらいは思ってくれっかもな。

 だがよ、俺なんか拾ってどうすんだ? お前のお部屋で飼ってでもくれんのか、拾ってきた子猫ちゃんみたいに?』


 怪我を治して。それから身の振り考えればいい。

 助ける価値のない奴なんて――


『こんな危険物どーすんだ。

 俺がちょちょっと意識をむければ、城の連中は操り人形だ。

 お前も、お前の兄貴もトモダチも、ぜーんぶ俺のオモチャだぞ。

 おまえ自身の手でかわいいサクちんを、ひどい目にあわせたかねーだろ?

 わかったらとっとと』


 それができるなら俺たちこうしてしゃべってないだろ!!

 いいから、はやく……


『……そんな風にのたまう馬鹿野郎を、もう泣かせたかねえんだよ』


 そう笑って奴は自ら、はるかな海面に落ちてった。


 * * * * *


 追って飛び込もうとしたナナっちを、ロク兄さんたちは必死で止めた。

 ここまで動揺した状態での潜水など、たとえ『七番目』でも自殺行為だ。

 それでもナナっちは、もがき、行かせてくれと叫び続ける。

 とっさに『わかった、ならば自らダイバー出動要請を入れなさい。彼を確実に見つけたいならば』と告げると、ようやくナナっちは我に返ったのだ……とロク兄さんは語った。


 ナナっちは、毛布に顔を埋めて声を震わせる。

「あいつの、いうとおりだよ……わかってる。

 あいつは皆に迷惑かけた。百回殺されたって足りないぐらい、皆にひどいことしてきた。

 でも……あいつは俺を守ってくれた……

 最初は、貴族学校の子たちにいじめられそうになったとき。

 ……ひとさらいや、盗賊に狙われたり、他の貴族に、暗殺されそうになったり……

 どんなときも、何度も、何度だって守ってくれた。

 そりゃ、あいつ裏切ってサクやん逃がそうとしたときは殴られたりしたよ。

 でも、それだけだ。

 さっきだって、俺を守ろうとして吹っ飛ばされて……

 さいごにはっ、俺がみんなとの板ばさみでつらくなるだろってっ、自分を殺して俺を守ろうとしてくれたっ!

 ……人を、守れる男なんだよあいつは。

 どれだけ、ひどいことに手を染めて、すさんでいても。

 そんなやつ、俺には、見捨てられない……」

「奴が大切にしているのはお前だけだ」

 誰もが言葉につまる中、サクがばっさり言い切った。


「お前と、後はせいぜい、世話役としての蒼馬親子くらいだな。

 それにしたって、奴の利害と感情に基づく一方的で利己的なもの。

 いつ、切り捨てられるかわからないぞ。

 俺は奴の振る舞いを、全てではないにしても把握している。

 その上で、俺は奴を信用できない。

 それこそ、管理システムに組み込み、城主権限で心身を完全に制御でもできん限り、この城に近づけたくすらない」

 サクの言葉は冷徹そのものだった。

 ナナっちを最大限気遣った上でも、冷徹の域を出ないほどに。

 けれど、誰もそれに反論できない。

 みなそれぞれに、奴の脅威を知っていたからだ。


「……とにかく、いのちを……

 いのちだけでも、助けさせて、ください!

 メイちゃんだって、サクやんを見捨てろなんていわれたらできないだろ?!

 おれに……ナナキにとってあいつは、そういう存在、なんです……」


 伏して頼み込むナナっちに、サクもそれ以上をいえないようだった。

 重い沈黙が立ち込めた。

 目を閉じて、情報を総合する。自分の心に二度聞いてみる。

 OK、OKだ。俺はそれをゆっくりとみんなに告げた。


「わかった、探そう。

 あいつももう、帰る場所がないだろ。……ほかの傭兵たちとおなじに。

 それに、この城がなってやろう。そうすれば、俺たちに無茶はできなくなる。

 どんな凶暴な獣でも、自分の巣穴じゃ暴れないんだ。

 亜貴に、連絡とって……あと、お前が側にいてやって。

 あいつの巣を、ここに作ってやる。

 そして、いずれ国の危機が迫ったら、今までの分あいつに働いてもらおう。

 あいつは頭も切れるし、強いからな。ユキマイの安全のためには、それが最善だ。

 皆にできるだけ、迷惑はかけない。そのために俺も、あいつの世話をするよ。

 大丈夫、今度は盲信なんかしない。ちゃんと目を見開いて、あいつと付き合ってみせるよ」

 サクがすっと目を細めた。

「お前、何回あいつにだまされた?」

「四回だ。

 ただのいたいけな留学生だってウソで一回。

 お前たちを拉致られたってので一回。

 で、眠り薬入りの菓子食わされたんで一回。

 ここまでで計三回だ。

 のこるは現世で、スノーの会話アプリ使っておびき出されたとき。

 それにしたって、スノーの言葉自体はホントだからあいつはそれに便乗しただけ。ぶっちゃけノーカンでもいいと俺は思う」

「……は?」

 サクがいっそ凶悪な顔でうなった。だが俺は動じない。

「拉致と菓子についちゃ何回かやられてるようだが、カウントは各一回ぶんだけだ。

『サクレア』はそのたび記憶とばされてんだ。学習なんかしようがないだろ」

「おまえな、……」

「だが『此花咲也』はもう学習した。

 大丈夫だ、俺を信じろ。

 俺も俺なりに、奴の行動を把握したから」

「っ……!」

 サクがぐ、と奥歯を食いしばり、俺を睨んだ。

 俺はまっすぐそれを見返し、自分の意志を視線に乗せた。

 果たして折れたのは、サクのほうだった。

「今度だまされたら、タダじゃおかないぞ。

 奴も、お前も。

 それでいいなら一度だけ付き合う。一度だけだ。

 奈々緒も、それでいいな。それが俺の最大の譲歩だ。これ以上は譲れない」

「はい!!」

 食い気味にナナっちは叫び、ありがとう、ありがとう、と何度も頭をさげた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] アズール!キタ━(゜∀゜)━! まってました(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ