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咲也・此花STEPS!! 2~訳ありフリーターだった俺が伝説の砂漠で一国一城の『にゃるじ』になるまで!~  作者: 日向 るきあ
<後半>STEP7.開城・唯聖殿~久遠の封印を解き放て~

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STEP7-4 ユキシロ製薬のお引越し!

「王としてデビューする以上、人前に出ることは避けられない。むしろ、キャンペーンキャラクターとしてのモデルをすこしやる位なら、知名度も印象度も上がって悪くない。

 そう考えて俺は、“ソル”にならないかと提案した。

 果たして、お前の人気は爆発した。ユキマイの名もずっと広く知れ渡った。

 そのことを知ればお前は喜ぶだろう。みんなのために役に立てたと。

 アイドルとして活動すれば、お金も入るしもっと役に立てる。そんなふうに言われれば、デビューの話だって受けてしまうかもしれない。

 だがそうなれば最後、ちょっとしたことでも騒がれ、もてはやされ、最後には足を引っ張られる。

 お前の純粋な気持ちも、ひいてはお前自身も、汚され、貶められてしまうことだろう」

「そんな……」

「わかってる。サキはずいぶんしっかりしてきた。

 それはわかっているが、世の中いくらも誘惑がある。悪いやつがいる。

 かつてアズールにたばかられたときのように、その優しさに付け入られることもきっとある。

『プロジェクト・ユキマイ』を頓挫に追い込みたいやつらなど、腐るほどいるのだからな」

「……!」


『プロジェクト・ユキマイ』。そのさきにある、ユキマイ国の独立。

 たとえば朱鳥国にとっては、阻止したい案件に決まっているだろう。

 まあ最悪されるにしても、せめて一回くらい固定資産税を払ってからにしてほしい、そう考えるだろう。

 けれど……


「でも、ならなんで、誠人さんみたいな人が派遣されてきたんだろう。

 スパイ活動とか裏工作とか、そんなの逆立ちしたってできない人じゃないか」

「そこだけが謎なんだ。

 あの人は、真っ白だ。ほとんどの人間はそのせいで、あの人を最終的には信頼し、愛するしかできない。

 本人はわかってないようだが、誠人さんはお前と同じ人種、言うなれば“生けるチート”だ。

 めったなことで、外に出すような人材じゃない。まして、敵地に等しい場所に。

 この事態で楽観は禁物だが、政府内にも我々との未来を望んでくれるものたちが、本当にいるのかもしれないな」

「そうだといいね。

 ……俺たち七瀬は、うまくやれなかった。

 それでも、仲良くできるにこしたことはないんだ。たとえ、確執はあるにしてもさ」


 いまだ記憶の戻らぬ建国王、のちの七瀬の凋落を招いてしまったともいわれる男は、悲しげにしかし優しく、そう言った。


 * * * * *


 それから俺たちはそれぞれの持ち場に散った。

 スノーとナナっちは唯聖殿に。俺とサクは、本社へ。

 ルナさんの言っていた『おひっこし』の準備のためだ。


 ユキシロ本社ビル内には、実は使われていない空間がたくさんある。

 そこを削っていくと、そのカタチ、間取りは唯聖殿の各フロアと一致する。

 ちょうど、本館西館東館を一山にそろえ、外側のカタチを整えると、ユキシロ本社ビルになる、そんなあんばいである。

 それは、この日のためだったのだ。

 夜のとばりが敷地を包むと、幾人もの黒ローブが配置についた。

 そして、七瀬の黒スーツたちも。


 これからやろうとしているのは、とんでもない大技だ。

 ユキシロ本社敷地の『なかみ』を、唯聖殿に移送する。

 もっとも、一時にではなく、いちフロアぶんずつ順番に、ではあるのだが。


 まず、憂城の人たちが移送作業をしたいフロアに行く。

『闇のオーブ』をいくつか使い、フロア全体を闇に包む。

 そして、全員で協力して『ナイトフロート』――『ナイトウォーク』の大型版だ――発動。

 地下水脈の闇を伝って、フロアまるごとのなかみを唯聖殿に移動させる。


 もちろん、けして楽な仕事ではありえない。

 本来ならば、できる限りのものを運び出し、三桁の実力者をそろえたとしても、一晩に一フロアがやっと、ぐらいに消耗する大技だ。

 雪舞砂漠につながる水脈網のクリアリングをし、移送のしやすい状態を作ってくれている七瀬の協力があるからこそ、こんな突貫スケジュールが組めたのである。


 まずはファームと関連施設のある、製薬部フロアとフードフロアを。

 そして、さまざまな医療用機器のある病棟フロアをまるごと移設。

 その後大丈夫なら、社員寮。オフィスフロアの各種資料。最後に、役員居住フロアと続ける。


 ちなみに、建物そのものと庭、インフラや当面使わない設備類はここに残す。

 独立後、朱鳥国との国交が樹立したら、ここは大使館兼ビジネスサイトとして使うのだ。

 もっとビジネスが広がり、支社をおくことになったなら、居抜きで使うこともできる。

 もし本当に、朱鳥国内に支援派がいてくれるなら、それも夢ではないかもしれない。


 でも今は、この状況で引越しトラックなんか何台も走らせたら、たちまち狙われる。

 だから、それを見越してダミーの車列をすでに走らせ、そちらが足止めを食っている裏をかいて、本当のお引越しを終える。そういう作戦になっていた。


 ちなみに俺とサクは、総司令として社長室で待機――

 というと聞こえはいいが、実質はお邪魔にならないよう、おとなしくおるすばんだ。

『お前はとりあえず祈っとけ』とか誰かさんにはすっごく雑に言われたが、確かに俺にできることはそれしかない感じである。

 なのでおとなしく、お目付けのサクとともに時を待っていた。



『コンディションブルー。いけます!』


 二人で黙って立ったまま、どれほど待った頃だろう。

 中庭からロク兄さんが、静かに思念を送ってきた。

 製薬部地下ファームから、カイルさんの力強い思念が伝わってきた。


『聞こえるか、皆。

 我らは、この日のために力を養ってきた。

 いまこそ、盛大に火蓋を切ろうぞ。

 我らの本当の王とともに築く、永劫の幸せのために。

 夜闇の加護のある限り、我らの忠節をユキマイ国に。

 その王、サクレア様の――咲也様の御ために!』


『咲也様の御ために!』


 全国からここに集ってくれた夜族の人たちの、いくつもの思念が熱く応える。

 胸が激しく高鳴った。

 千人には届かないが、百人はけして下らない。

 そんな数の人たちが、俺の帰還を待っててくれた。

 そのことが、いまさらながらに胸に迫る。

 ありがとう。俺は手をあわせずにはいられなかった。


『はじめましょう、カイル殿。

“途”の準備は整っております』


 続いて“聞こえ”てくるのは吾朗おじさんの声。

 もちろんおじさんの背後にも、たくさんの七瀬のひとたちがいるのを俺は知ってる。

 一度は敵対するような間柄になった、でも今は、俺たちを支えてくれる心強い仲間たち。

 ありがとう。俺の目から、暖かいものがこぼれてきた。


『かたじけない、七瀬の。

 ではゆくぞ!』


 それは、目には見えない奇跡だった。

 けれどその波動は肌で、心で感じることができた。


 ――地下二階、製薬部メディシンファーム。

 ――地下一階、製薬部。


 次々と空間を越え、移送されていくのが伝わってくる。


 ――三階、病棟フロア。

 ――四階、フードフロア。


 ついで、社員寮。五階オフィスフロア。七階役員居住フロア。そして……


「え?」


 一瞬の暗闇とともに襲ってきた、覚えのある感覚に俺は周囲を見回した。

 ちょっと前、しあなにむりやり『イブニングウォーク』で製薬部に拉致られた時のような……いやまさに、それとおんなじ感覚。

 果たして目に入ってきたのは、なぜか木造風にかわった部屋の壁と、唯聖殿で待っているはずの、ナナっちとスノーの姿だった。


「あれ? なんで二人がここに来てんの?」

「逆よ、逆!

 サキたちのほうがこっちに送られてきたのよ、最後の仕上げのサービスに、てね!」

 スノーの言葉に改めてみれば、たしかにそこは唯聖殿の一室。

 壁や床の表面は透明な、謎の材質でコーティングされていたが、懐かしい木組みの趣は充分残っている。

 この間取り、この広さ。壁や、天井の模様。

 忘れもしない、本館一階の執務室だ。


 ひとつ息をすれば、とたんによみがえる光景。

 おしごとの書類を持ってくるひと、差し入れをくれるひと。

 疲れたさっくんモフらせてーととっこんでくるひと。

 雨宿りで駆け込んできた子供たちと遊んでいたら、うっかり騒ぎすぎてまとめてサクに叱られて。

 ときには近所のねこたちが遊びにきて、ついつい一緒に昼寝して。

 窓を開ければ、ちょうちょや小鳥が舞い込んでもきた。

 つねにだれかのぬくもりのあった、あったかい、たいせつな、この場所。


 なつかしい栗色の机は、さすがに時の流れで失われていた。

 けれどその場所には今、それとよくにたデスクが鎮座している。

 サクが座っていた、社長室のデスク。

 入社してから何度も始末書を提出しに行ったりしたから、よく覚えている。

 サクは静かにその椅子を引くと、俺をそこへと導いた。


「戻ってきたな、この部屋に。

 さ、かけてくれ、サキ。

 今日からこれは、お前の席だ」

「え、……

 きょうまでユキシロを支えてくれたのは、サクだろ?

 こいつにはやっぱ、お前が……」

「俺はお前の代理にすぎん。

 心配するな、これからもちゃんと支えてやるから」

「……ありがとう」

 サクに優しく促され、俺はつややかな黒革の王座に、そっと腰を沈めた。



「あ、…………」

「あ、…………」

「サイズ合わない……」

「………………。」



 そう、俺たちは失念していた。

 俺より明らかに背が高いサクのイスと机は、平均的朱鳥人男子の俺にはでかすぎたのだ。

 机の天板はみぞおちまで来てるし、かかとは床まで届かない。


 サクが気まずい顔になった。

 ナナっちがあわててフォローを考えだした。


「ふふっ」

 そのとき、スノーが噴き出した。

 無邪気な笑い声は執務室の外まで響き渡り、なんだなんだとひとが集まってくる。

 その様子を見ていたら、なんだか俺も笑えてきて。

 ついでみんな、ナナっち、サク。

 つぎつぎ、つぎつぎ笑い出し、いつしか唯聖殿は笑いに包まれていた。

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