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咲也・此花STEPS!! 2~訳ありフリーターだった俺が伝説の砂漠で一国一城の『にゃるじ』になるまで!~  作者: 日向 るきあ
<後半>STEP7.開城・唯聖殿~久遠の封印を解き放て~

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STEP7-3 ~秘密がばれた神王の騎士長はそっと真情を語るようです~

「まあ、やるべきことのふたつはこれで片付いたわけだ。

 それに今日の調子なら、独立宣言も即位宣言も不安はない」

「はぁ」

 サクはそう言い切ってくれたが、若干素直になれない俺である。

 そんな俺の隣でナナっちは、微苦笑しながら話を続ける。

「そうだね。あととりあえずの問題は……

 緑化への妨害対策と、イザークとティアさんのこと、だね」

「妨害対策についてはお任せくだされ。

 今後は、われら憂城も全力を発揮できますからな!」

 優しい笑顔はそのままに、突如存在感を放つカイルさん。

 これで説得力はしっかりなんだから、おじいちゃんってものは生きるチートである。

「そうだな。

 あの外道でも来ない限りは、最悪憂城だけでもなんとかできるだろう」

 アズールのことを口にした瞬間、サクは嫌ーな顔に。

 それを聞いたナナっちは、微妙な表情になる。

「そっ、か……それならちょっと、安心、かな……。

 あ、いや! そうなるとあとはイザークとティアさんだよね!

 へたしたら、サリュート国を怒らせちゃうかもしれないし……

 それに、側女でいい、なんて……」

「あ……。」


 あの晩からはバタバタつづきで、この問題はすっかり棚上げになっていた。

 二人の様子も、今までどおり変わらないように見える。

 でも、そんなわけはないのだ。


 いまユキマイは独立宣言をしていないから、まだいい。

 けれどこれが、独立して、正式に一個の国家となった暁には、なんらかのけじめをつけないといけない。

 それは、パンドラの箱を開けてしまった俺たちの責任だ。

 しかし具体的に、一体どうすればいいのだろう。


 うなっていると、サクがよし、とうなずいた。

「父上に、話してみることにする。

 父上ならばサリュートにも伝手がある。何らかの手は、打てるだろう」

 サクのおやじさん。つまり、メイ博士。

 入社してからまだ一度も会えていないが、ユキシロ製薬の会長である。

 今も頼れる人だと聞いてはいたが、まさかサリュートにまでつてがあるなんて!

 ナナっちの声も感嘆に染まる。

「やっぱすごいね、メイ博士。

 生まれ変わった今でも“さすらいの賢者”なんだね!」


 ――そう、メイ博士は前世から、世界中を飛び回っていた。

 新旧アユーラの紛争を和解に導いたのはこの人の功績だし、かつてユキマイが旧アユーラの轍を踏まずに済んだのも、この人のおかげなのである。

 何よりこの人は、前世のサクとルナさんを育ててくれた人でもある。

 サクレアがヒトガタになったときは、ヴァル家の末子として迎えいれてくれた。

 たくさん、たくさんの恩のある、慕わしい人だ。


「なあ。おじさん、ここにこれるかな?

 一度、ちゃんと話したいよ。サクレアだったときは、俺の父さんでもあったんだし」

「俺も。前世に一度、会えただけだもの」

「わしもぜひとも話してみたいですのう」

「即位式にはここに来てくれる予定だ。母上もな。

 俺とルナも会うのは久々だ。朱鳥に入ったあとは会えていないからな……

 いや、三人とも遠慮するな。

 ふたりとも、ユキマイ建国は第一の関心事項だといってくれた。

 しばらくはユキマイにいる予定だから、いろいろ聞くといい」

「わかった!」

「うん!」

「喜んで、そうさせていただきましょう」

「それじゃ、そろそろ上がるか」


 * * * * *


 おくつろぎどころに出た俺たちを待っていたのは、湯上り姿も麗しい女性陣……もとい、遺跡調査班、緑化班、そして『プロジェクト・ユキマイ』本部からの報告だった。


「おひっこし、開始できそうですわ、お兄さま」

「ああ。進めてくれ。気をつけてな」

「かしこまりましたわ。それではまた」

 白いブラウスに紺のスカート、そしてブレザー。乾いたばかりの、漆黒のショートボブ。

 清楚そのものといった様子のルナさんが、ふんわり頬を上気させて報告するさまは、さきほどまでのねこみみ巫女さん姿と同じくらい、尊く見えた。

 その尊い彼女はにっこり会釈すると、すぐさまおくつろぎどころを出て行った。


 ゆきさんはその背中を見送って、優雅にあくびをかみ殺す。

「……ルナちゃんはえらいわねえ。

 もう少し、休んでからでもいいのに」

「だからといってお前は無理をするな。

 どうがんばったところで、お前たちにとって今は活動時間ではないのだ。

 あの日差しの中、ふたりともよくやってくれた。はやく戻って、寝るといい」

「ありがとう、そうさせていただくわ。まいりましょ、おじいさま」

「えっと、わしはもーちょっといけるんだがのう……いやいや、このあともありますからな。すぐにゆきたちを連れてゆくとします。

 では、お先に失礼いたします」

 そうして、憂城の祖父・孫コンビも一礼して出て行く。

 もちろん今はコスプレ姿ではないが、素でも美しいその姿はやはり目を引く。

 とくにゆきさんは、いつもより軽く風に遊ぶロングヘアが、妖精めいた雰囲気をかもし出している。

 白磁の肌にもほんのりと血色が浮かび、これで浴衣でもかるく着崩しておられたらとか考えない考えない。


 雑念を振り払おうとりんごジュースをあおると、三角パックのいちごミルクを飲み終わった湯上りムームーの女神さまが、向かいのソファーで俺をじいいっと見ていた。

 何度でも言うが、俺に紳士な趣味はない。

 それでも、桃のようなほっぺたにふわふわの銀髪は、まさしく天使としか言いようがなく、俺はしばしみとれてしまう。

 しかしその、かわいらしい口から出る言葉は俺を泣かせた。

「むう、ずっと観察してるけどサキの一番好きな服がぜんぜんわからないわ!」

「スノーさん俺が節操なしに聞こえます……」

 だがそんなのは悲劇の始まりに過ぎなかった。

 なにを血迷ったかナナっちが、とんでもない爆弾を投下してくれたからだ。

「そういえばサクやんは、人より猫ちゃん見てるときのがテンション高いよな」

「ああ、たしかに」

「いやおまえたちちょっと待て?!」

 たしかに、たしかに猫ちゃん大好きですよ。見るとテンション上がりますよ。

 でもそれとこれとは別ですからね?!

「なるほど! サキのタイプはにゃんこなのね!

 よーし、さっそく父さまにねこみみセット買ってもらおうっと!」

「おねがいやめて吾朗さんに泣かれちゃうからっ!

 っていうか状況! ほかの現状どうなってるの?!」

 俺は必死で話を切り替えた。

「緑化班からは今のところ異常なし、だって。

 誠人さんはやっとちゃんと寝てくれた。爆睡中だってさ」

「よかった……」


 ナナっちの優しい声に、俺たちはほっと息をついた。

 ここ数日の誠人さんは、見ているこちらが申し訳なくなるほど、がんばっていた。

 政府からの圧力がたとえ考えすぎだとしても、下手人はほぼ確実に朱鳥の人間だろう。そのことに、責任を感じているようだった。

 もちろん、誰も誠人さんが悪いなんて思っちゃいない。

 心配して来てくれた緑化事業室の人たちも交えて、一緒に仕事をこなしつつ、ご飯もしつつ、ゆっくりと説得をかさねた結果、ようやく誠人さんは落ち着いてくれたようだ。


 だが、サクの番になると、やつは一転、渋い顔になった。

「『プロジェクト・ユキマイ』本部からは、さきほどの動画がバズっていると。……

 サキ。今後、私的に敷地外を歩くときはかならず変装するように」

「ちょ、ちょっとまって?! それ社長命令?!

 なんの罰ゲームだよそんな、ねこみみコスプ」

 あわてる俺の脳天に突っ込みチョップがめり込んだ。

「そんなつまらん命令で王と国と会社の品位を汚せるかっ。

 端的に言おう。アイドルにならんかとのオファーが殺到している。有象無象の書き込みもだ。

 いいか、今後許可なく素顔で外出するな、一人歩きも原則禁止だ。エゴサーチは絶対するな。関連のニュースサイトを見るのも禁止する。動画サイトを見たい場合は許可をとるように」

「……どーゆーことよ?」

「サキがあたしのアイドルデビューを反対したのとおんなじ理由よ。」

「うそ。だって、俺、スノーたちと違ってイベント出演依頼とか全然ないし……」

 ふとサクに目を戻すと、やつは明らかに目をそらしていた。

「おい、サク?」

 詰めようとするとナナっちが、なだめるように仲裁に入ってきた。

「あ、あのねサクやん。怒らないで聞いて。

 メイちゃんはね、サクやんがいま大事な時期だから、あえて露出を控えてたんだ。

 イベント出演も、多忙だからって断って、ポスターとかのモデルだけに仕事絞って……

 ほんとはすごかったんだよ、“ソル”の人気。

 チカケンの勇者がついにデビューした! って。

 衣装のほうも売れに売れて、空前のセールス記録してたんだ」


 ナナっちの語る、夢にも思ってなかったことどもに、俺は絶句した。

 確かにアパレルブランド立ち上げたってのは聞いてた。

『ユキマイ・キングダム』ブランド。

 ソルの衣装は、それまでなかったユニセックスなカジュアル系だからかなり売れるはず、というのもうわさで聞いてた。

 でも、それがまさかそんな人気になってたなんて。


「……どうして、教えてくれなかったんだよ?」

 サクはしばらく目を伏せていたが、やがて静かに語りだした。

「お前を、守りたかった」

「へ……?」

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