表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
咲也・此花STEPS!! 2~訳ありフリーターだった俺が伝説の砂漠で一国一城の『にゃるじ』になるまで!~  作者: 日向 るきあ
<後半>STEP6.出国前夜の勇士たち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/85

STEP6-3 ご訪問・七瀬本宅!(2)~七瀬の恋のものがたり~

 七瀬本宅・奥の間。

 そこで俺とサクは、上座に通された。

 サクはまだしも、俺なんかはどーみたってちょっといいスーツを仕立ててもらった新卒だ。

 対して腕の怪我も治り、黒の紋付でビシッと決めた吾朗おじさんは、ニコニコしてはいたもののこれぞホンモノの貫禄。

 ――これは完全にすわるとこ逆だろう!

 なので、思わず遠慮しようとしたが、サクが『お受けしろ、それが礼儀だ』とささやいてきたので、あわあわしながらも床の間を背に座った。

 仕切りの障子を二つ開けた、広い広い畳の部屋。

 そこにずらっと、真面目な顔になった黒の紋付やスーツの人たちが控えている。

「どっ、どうしよう、俺『殿』になっちゃった……?」

 ぽろっと口からこぼれたら、くすっとナナっちが笑い、スノーが、おじさんが笑いだし。

 それを手始めに、広間は笑いに包まれて。

 俺の緊張もほぐれて解けていったのだった。


「本日はお越しをいただき、ありがとうございます、お二方。

 いまここにわれらがあるのは、貴方がたのおかげ。

 改めて、御礼を申し上げますぞ」

 目じりを下げた吾朗おじさんが、丁寧に一礼しつつ、口火を切ってくれた。

 俺もあわてて頭を下げる。

 でも、そこからはなぜかスムーズに、言いたいこと、聞いてもらうべきことが口から出てきた。

「あの……俺は、そうしたくってしたんです。

 奈々緒君は、俺のことをいっぱいいっぱい助けてくれました。

 シックハウス症候群で学校に行けなくなったときも、仕事が見つからなくて困ってたときも、だれより力になってくれました。

 そんな奈々緒君のお父さんたちだからこそ、助けたかった。

 社長やみんなも、そんな気持ちに共感してくれた。

 だから、がんばれたんです」


 こたえる俺の声が広間に響けば、じん、とした雰囲気が広がった。

 そう、本来なら、俺はここで自ら口火を切って、一席ぶたなきゃならなかった。

 だが、俺はいまだ、記者会見すらこなせぬド素人だ。

 それは、シノケンに向かう最中とか、作戦中はいろいろ言った。

 でも、あれは無我夢中で口から出てきた、ほぼ個人から個人への言葉だ。

 そんな俺にへたなスピーチをやらせるよりかは、そのときのように、こうして自然に話す言葉を聴いてもらったほうが、皆も俺のことがよくわかるだろう。

 これはそんな、おじさんの判断と配慮により誘導してもらっての、パフォーマンスなのだ。


 心の中で、頭が下がる。やはり、おじさんはホンモノだ。

 俺もいずれは、こんな風になりたい。いや、絶対なろう。

 じーんとしていると、横合いから愛らしい声が響いた。


「ねえねえ、あたしはー? あたしのことも、それだけ?」

 今日はつややかな黒のワンピースに小ぶりの真珠のネックレス、という姿のちいさな淑女は、桜の花のようなくちびるを尖らせる。

花菜恵はなえちゃんは前世から約束してくれてただろ?

『きっと生まれ変わって、しあわせに……」

 するとスノーはツボにはまっちゃった様子で噴き出した。

「っ、ふふっ、ふふふちょっ、サキっ、それっ、それやめー!!

 スノーでいいわよっ、いつもどおり!

 そういやサキがあたしのこと花菜恵ちゃんってよぶのはじめてね? 呼び捨てだっていいのよ、サキ?」

「えっ、いやっ、その、い、い、いつもどおり、で……」

 改めて言われると照れる。しかもこんな大勢の前で! 俺は謹んで辞退したのだが……

「うん。スノーって、ふだんから呼び捨てよ?」

「っにゃあああ!!」

 そうだそもそもそうだった! 軽くパニックする俺にサクが無言で突っ込む。スノーはえーとえーとと困っちゃうナナっちをぺしぺし叩きながら笑い転げる。

 もちろん皆さん大爆笑。これじゃ漫才だよ! どうしてこうなった!

 それを救ってくれたのも、吾朗おじさんだった。

 程よきところでぱんぱんと、手を打って言ってくれたのだ。

「さ、それでは場もほぐれたことです。ここらで、心づくしを召し上がってくだされ」


 * * * * *


 運んでいただいたのは、秋の香りが鼻をくすぐる、色とりどりのお膳。

 杯に、コップに、七瀬特製のお酒やソフトドリンクを満たして、皆で乾杯。

 懇親のための昼食会が、にぎやかに始まった。


 そこで俺は、いろんな人たちとご挨拶した。

 特に印象的だったのは、やはりナナっちのお母さんである奈津さんと、今日初めて会うお兄さんたちだ。

 上から、はじめさん、双也そうやさん、瑞樹さん、紫苑さん。

 全員、つややかな黒髪に端正な顔立ち、瞳はみごとなブルーグリーン(俺たちの傘下に加わると決めたときに変わったそうだ)。

 正直言うと、奈津さんとナナっちは似ているが、ほかの兄さんたちとならぶと、ちょっと毛色が違う感じがする。ていうか、髪色も茶色と黒で違う。

 留袖姿も麗しい、奈津さんが教えてくれたことによると……


「私はね、吾朗さんの二人目の奥さんなの。

 ひとりめの奥さん――奈菜は、私の妹でね。

 だけど、ろっくん(ロク兄さんのことだ)が五歳の時に、天国に行っちゃったの。

 七瀬って、本家当主はきっかり七人子供を作れ! って言われるのよね。だから、姉である私がそのあとお嫁に来て、ナナが生まれたの。

 ……といっても、吾朗さんはあのとおり、不器用な人でしょ。

 だから、七人目を生ませるためだけに結婚するなんて! それも、相手は最愛の人のお姉さんなのに! って、ものすごく悩んで、一時期引きこもりだったの」

「ええっ?!」

 そりゃ、吾朗おじさんの素顔は(とくにスノーがからむと)かわいい人だ。

 しかし、そんなにまで繊細な人だったとは!

(なおご本人はちょっと離れたとこでチラッ、とこっちをうかがっては恥ずかしそうにしている。俺はそっと目をそらし、見なかったことにしておいた)


「でもね、わたしも吾朗さんが好きだったの。

 吾朗さんが奈菜にべたぼれだったから一度は譲ったんだけど、その奈菜にも頼まれたのよ。

『私が天国に行ったら、どうか吾朗さんをお願いね』って。

 だからある日、思い切って夜討ちかけたの」

「えええっ?!」

「吾朗さんがひきこもってる部屋にとっこんでね。

 私はあなたが好き、七瀬もあなたも守りたい。だから、七人目を生むためだけだろうと、たった一夜のことだろうとかまわない! って直訴して…………

 あわてなくっていいわよサキ君たち。吾朗さんはそんなひとじゃないから☆」


 奈津さんは俺たち(含む吾朗さん)をからかって、ころころと笑う。

 うううう、なんつうつわものだ。俺なんか絶対にかなう気がしないぞ。


「吾朗さんは丁重にわたしを帰してね。改めてちゃんと、プロポーズしてくれたわ。

 私と未来を作ってください、この命のある間は、貴女だけを妻として愛します、て。

 それでわたしたちは結婚して、そのあと、ナナを授かったのよ」

「ほおお……」


 朱鳥で一番怖いといわれる七瀬家当主に、こんなロマンチックな秘話があったとは!

 スノーも奈津さんによりそって、ニコニコふわふわとしている。

 まるでお気に入りの童話を聞いているかのようなその様子、見ているこちらまでほんわかしてしまう。


 と同時に少し驚いた。スノーと奈津さんはものすごく似ていたのだ。

 ナナっちたち兄弟は程度の差はあれ吾朗さん寄りで、スノーと並んでも親戚レベルという感じ。けれどこのふたりは、髪や目の色は違えど、ぱっと晴れやかな顔立ちはそっくりそのまま。

 遺伝子のいたずらというのはまことに不思議なものである。

 なんて感慨にふけっていると、奈津さんがふわと遠い目になった。


「……まあ、それでもやっぱり、はたから見れば不純にも思えるわよね。

 ナナはそれで、吾朗さんを信じられなくなってしまった。

 だから一度は私たち、愛し合ってはいるけど、離婚しようかって……

 そのほうが、ナナもいいんじゃないかって、いろいろ右往左往したわ」


 ナナっちが申し訳なさそうにうつむく。

 けれど、スノーがその間にぴょんととびこみ、二人の腕をぎゅっと抱けば、二人はふわっと笑顔になった。


「そんなときなのよ、サキ君が現れたのは。

 ナナもすっかり元気になったし、ついには皆を助けて、こんなかわいい娘まで連れてきてくれて!

 サキ君はわたしたちの救世主なのよ。

 もちろん、サキ君の救世主である、サク君もね。

 ――ふたりとも、これからもよろしくね。

 わたしたちもあなたたちのこと、いっぱいいっぱい助けるからね!」


 奈津さんはいっぱいの笑顔で、俺たちと握手してくれた。

 いつのまにかみんなが俺たちを囲んでいて、暖かい拍手が起こった。


「ねえサキ? いくら母さまが素敵な美人だからって、ウワキはだめよ!」

「もちろんですっ!!」


 そして、こんなやりとりには、ほがらかな笑いが。

 胸の中にほんわかと、暖かいものがこみ上げた。

 ……ああ、やっぱり今日、ここに来てよかった。

 七瀬の人たちとも、ユキシロの皆同様、本当に“家族”になれた。

 そんな、気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ