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咲也・此花STEPS!! 2~訳ありフリーターだった俺が伝説の砂漠で一国一城の『にゃるじ』になるまで!~  作者: 日向 るきあ
<後半>STEP6.出国前夜の勇士たち

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STEP6-1 ~月夜のデートと襲撃と~

 かすかにけむる月明かりの下、はるかにひろがる砂の海。

 その果てには、銀色にひかる海が望める。

 準正装でキメたイザークは、これまたドレスアップしたティアさんを丁重にエスコートし、その場所にやってきた。

 あらかじめ用意してあったシャンパンをグラスに注ぎ、ティアさんに渡す。

 そっとグラスを合わせれば、映画もかくやのロマンチックなデートが始まった。


「ティア。この場所、覚えてるか?」

「ええ。はじめてわたくしたちが、サキさまたちとお話した場所ですわ。

 ふふっ。あのときのイザークさまったら、サクヤさまにしかられて……

 なのにぜんぜんお気づきでなくて、みなさんが大慌てしてるのにきょとんとなさっているのですもの。あれにはわたくし、笑ってしまいましたわ」

「ルナのこととなるとサクは話が回りくどいからなー。

 フーしてるって気付くのに時間がかかったけど、気付いちまうとかわいいもんだな!」

「イザークさまったら!」

「……あれから、もう一月はたったかな」

「ええ。

 ここの気候にも、ずいぶんと慣れましたわ。

 ユキマイも、朱鳥も、皆様やさしくて、とてもよい場所。

 わたくし、ここにこられてほんとうによかった。

 ……この地なら、幸せが、よいひとが見つかりそうですわ。

 わたしも、あなたも。いつか、きっと……」

「ティア」


 そのとき、イザークは動いた。


「単刀直入に言う。俺は、お前を愛している。

 俺を、お前の夫としてくれ。俺には、お前しかいない!」


 まっすぐにそう告げると、ティアさんを抱き寄せた。

 その胸にもたれるティアさんのほほには、美しい涙が光る。


「イザークさま……!」


 幸せそうな、その表情。

 そのときふたりの恋が成就したと、このときだれもが思った。


 だがティアさんは、イザークの腕をするりと抜ける。

 そして、丁重に、一礼した。


「……とても、うれしゅうございます。

 あなたのお気持ち、そして皆様のお心遣い。

 ティアにはもったいないほどでございます。

 なれど、あなたを夫としてお迎えすることはできません。

 お忘れですか、あなたはユキマイの女性と結ばれねばならぬ身の上なのですよ。

 わたくしたちの婚姻は、くにの意思にそむくこと。

 もちろんわたくしは、どこまでも貴方様に添い遂げ、おつかえする所存です。

 どうぞわたくしのことは側女として、お側においてくださいませ」


 そのとき、警報が鳴り出した。侵入者だ。

 せっかくのムードを壊したくはなかったが、へたにためらっていれば二人が危ない。

 すかさず飛び出す俺たちだったが、怪しい人影はすぐにジープに飛び乗り、姿をくらませてしまった。

 あらかじめ、国道との間に張られたフェンスの一部を傷つけてあったのだろう。ジープはフェンスを突き破って国道に飛び出し、そのまま姿を消してしまった。


 * * * * *


「……やられたな」


 イザークは苦い顔で言った。

 懐中電灯のあかりでもはっきりわかった。給水用ホースが何ヶ所も、切り裂かれている。

 このままではスノーフレークスに水をやれない。

 スノーフレークスの生命力ならしばらくはこのままでももちはするはずだが、万一予期せぬダメージで、突然変異からの繁殖爆発など起こっては目も当てられない。

 すぐに倉庫に走ったが、そこもこじ開けられて荒らされて、ひどい有様だ。

 さいわいというべきか、普通のホースが切られていて、点滴灌漑用のそれは無事だったので運び出した。

 だが、イザークは待て、と言ってきた。


「機器そのものがやられてる可能性がある。

 給水タンクのなかみも無事じゃないだろう。最低でも除草剤、へたすりゃもっとヤバいもんがぶっこまれてるはずだ。

 大事を取るなら、設備全体を取り替えたほうがいい」


 なぜと聞かれると、イザークは足元を指差した。

 ライトの明かりの中、スノーフレークスたちはみな、無事な姿で揺れているが……


「ぶっちゃけおかしいだろ。

 高価な点滴灌漑用の機器や、その消耗品なんかを損壊するのは効果的な攻撃手段ではあるが、道具も要るし手間もかかる。

 フツーに妨害工作すんなら、まっさきにターゲットになるのは緑化のための植物だぜ。

 精神的なダメージも、むしろそっちのがでかいしな」

「そ、……そんなことって……」

 すでに幾度かこうした事態を経験してきているのだろう、イザークの言葉には大いなる説得力があった。逆に、誠人さんはぼうぜんとしている。

「まっちー。タンクの中身、見てみて」

 シャサさんの指示で松田さんがタンクの中身の透視解析を試みる。

「入れられたものは……おそらく、塩水、ですね。それも低濃度の」


 どっと冷や汗が出てきた。

 除草剤や、塩水でも高濃度のものだったら、即座に被害が出るからすぐに動きも取れる。

 だが、ふだんの水に混ぜて少しずつ、余計な塩分を与えられていけば……

 スノーフレークスは『ゆっくりと』塩害をこうむり、すこしずつ具合が悪くなっていく。

 もしも対応が遅ければ、そのまま枯れてしまう。

 そのころには土壌にも塩分が堆積し、土そのものまでダメにされている。

 うっかりホースが無事だからとそのまま給水を始めていたら最後、スノーフレークスの命とともに、多くの手間と時間とを食いつぶされかねなかった。まさに、陰険きわまるトラップだ。


 イザークが忌々しげに舌打ちをする。

「やっぱりか。……

 誰か、詳しいやつがブレーンについてやがるな。

 どーするみんな。

 いっとくが、点滴灌漑以外でここの緑化はほぼ不可能だぜ」

 これはサクが即決した。

「設備を変える。奈々緒、すぐに手配を。

 警察の現場検証が済み次第、作業にかかれるように」

「はいっ!」


 月夜のプロポーズ大作戦は、まったく予想外の展開となってしまった。


 * * * * *


 もちろん即、通報はした。

 けれど警察から捜査チームが来たのは、すっかり夜も明け、昼にも近い時間帯だった。

 水もやれない状態でかんかん照りにさらされれば、スノーフレークスにダメージがいく。やむなく大型のテントを張って日ざしを抑えたものの、それまで気が気ではなかった。

 やっと来た捜査チームのリーダーはそして、その場をちらと見るか見ないかのうちに渋い、渋い顔でこう言った。

「捜査に支障が出ますんで、現場はそのままにしてもらいませんと……」

 その瞬間、誠人さんが真っ青になった。


 誠人さんは俺たちと同じ結論にたどり着いたらしい。

 数時間の休憩の後、会議室に俺たちを呼び集めた誠人さんは、二つに折れる勢いで頭をさげてきた。

 一睡もしていない様子で、青ざめて震えながらも、理路整然と語ってくれた。

 昨晩の襲撃は朱鳥国政府の、すなわち瑠名家の仕業だと。

 証拠は、ありえないほどの初動の遅さ。

 そして、捜査チームのリーダーの、あの言葉である、と。


「彼らはすでに現場を推測できるだけの情報を持っていたんです。

 そして、あえてそれを伝えようとした。

 自分たちは、意に反して情報を持たされ、行動を制御されている。

 気をつけてくれ、圧力をかけている者が背後にいるのだ、と。

 そんな真似ができるのは、この国ではただひとつ、瑠名家だけです。

 申し訳ありません。なんて……なんてお詫びをすればいいのか……」


 ふたたび深く頭をさげたまま、誠人さんは声をつまらせた。


「よく、伝えてくれたな、誠人さん。

 勇気が要ったことだろう。

 ……つらかったろう。信じる人々を、告発しようとするのは」


 一番に動いたのは、サクだった。

 暖かく声をかけ、誠人さんの手をとって、肩を抱いてあげたのだ。


「だが、誠人さん。あなたがそんなことを、しなくてもいいんだ。

 貴方も瑠名の係累だ。つまり、瑠名だって一枚岩ではないということだ。

 ――貴方の愛する人々が裏切ったとは、俺は思っていない。

 貴方と、貴方の属する緑化事業室。貴方にかかわる人たち。

 彼らはきっと悪くない。俺は、そう信じてる」


 そうだ、そうだよとあがる声。

 しかし、誠人さんはかぶりを振った。


「それ、は、……公務員に許される言い訳……じゃ……」


 誠人さんはそこで意識を失い、医務室に運ばれた。

 もっとも、点滴が落ちきってすぐ誠人さんは現場にとんぼ返りしてしまうのだが、それはもう少し後の話。

 医務室を追い出された俺たちは、ざわつく気持ちをしずめるため、そのまま庭園に出たのだった。


 シャサさんは憤懣やるかたなし、という表情だった。

「あんな、責任感強い人たちを板ばさみにして。

 ……ひどいことするよ」

 イサが若干悪い顔で言う。

「今後、朱鳥の警察・司法は当てにできない。てことはバンバン来るぜ、ああいう輩がな。

『こーなったら』警備体制を本格化しないといけないな。頼んだぜ、シィ」

「もっちのろんさぁ! ね、みんな!」

「おー!」

 ユキシロ警備員、七瀬のみんな、それにイザークたちも、完全にやる気だ。

「ハ、任せろ。

 ヤツらのツラは覚えたぜ。

 つぎに見つけたときが年貢の納め時だ。ハデに暴発させてやるぜ、あの国道からよーっく見えるようにな?」

 不敵にのたまわるクロウさんはもはや完全に悪人の顔でいらっしゃる!

「とりあえず犯人候補はすでに絞り込んである。一人二人、軽く処理しておくか?」

 悪役ゴスロリにしか見えないしあなさんもすんごく楽しそうに提案してこられる!!

「ちょっとまって! 万一人違いとかだったらかわいそうだから! あくまで現行犯での確保を心がけよう! ね!!」

「ふーーん。サキはわたしをオトリにするんだー。ふーーーん」

 もちろん良識派の俺は止めにはいったが、スノーの言葉にはっと固まった。

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