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咲也・此花STEPS!! 2~訳ありフリーターだった俺が伝説の砂漠で一国一城の『にゃるじ』になるまで!~  作者: 日向 るきあ
<後半>STEP4.王の帰還の、そのまえに

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STEP4-4 ~朱鳥首相府の日は暮れて~

「今日のこと、聞いたぞ誠人」


 その日、久々に遥臣はるおみが俺を呼び出した。

 場所は、首相府内に設けられたバー。


 平日の下級官僚に、酒を飲んでいる暇などない。

 なによりこの店は、高い(下手なことをすれば俺の給料のかるく半月分は一晩で吹っ飛ぶレベルだ)。

 だから、俺たちがこんな場所に足を踏み入れることは99パーセント、ないといってよかった。


 例外は、上位者からの呼び出しだ。

 半分インフォーマルな、酒を交えての話がしたいとき、上司が部下を招いておごるために、この店はあるといっていい。

 遥臣は上司ではないが、公的に上位者なので、今日の呼び出しはこの範疇に入るもの。

 原則的に、俺に断るという選択肢はなかった。


 もっとも、そうでなくとも断る気などなかったのだが。

 わざわざ勤務中に、室長を通じてお伺いをくれたおかげで、今晩の俺の予定は会合(最優先)ということになっているし、このところはいいことばかりで気力も充実している。

 なにより、遥臣とちゃんと話をするのはしばらくぶりなのだ。

 やつの顔を見る限り、重い話でもなさそうだし――

 年に一度、飲むかどうかの洋酒を手に、今夜は久々に親友とともにまったりしようと心に決めた。

 はたして、遥臣は苦笑しながら謝ってきた。


「すまなかったな。

 お前たちのこととなるとあいつ、すぐムキになって……

 俺からよく、言っておく」

「はは……ありがとう、遥臣」


 そう、今日俺は、室長みずからこってりツメられたのだ。

 事業室に顔を出すなり秒速で壁ドン。

 笑顔でデスクに連行され、にこやかにしかし徹底的に尋問された。

 その迫力たるや、いたたまれなくなったほかのメンツが全員部屋を出るレベル。

 そこへ遥臣が内線をくれたので、しぶしぶながら彼は俺を放免してくれた、というわけだ。


「無駄を前提でもう一度聞くが、俺のところへ来る気はないのか?

 お前の実力にふさわしいポストだって用意してある。遥儚はるなと会う機会だって今よりずっと増える。

 お前たちさえその気になってくれれば、俺たちは諸手を挙げて祝福するぞ」

「げほっ?!」

 突然の爆弾発言に、俺はむせ返った。

 だが遥臣の黒い瞳は、ひとかけらも笑っていない。

「冗談なんかじゃない。これは俺たち兄弟の統一見解だ。

 もっとも今すぐということであれば、婿養子という形にはなってしまうが」

「……」


 差し出してくれたハンカチをうけとる余裕もなく、遥臣を見たまま、言葉を失ってしまう。

 遥臣はみずから、ちょっぴり哀しく笑った。


「……わかってる。瑠名るめいの力をもってすれば、無理強いすらできる話だと。

 でも俺は、俺たちはそんなことはしたくない」


 それでも遥臣は、子供の頃と同じように俺の顔を優しく拭いて――

 これでよし、とにっこり笑った。

 外務畑のプリンスといわれていても、こんなところは変わらない。

 世話焼きでやさしくて、あったかなこいつのままだ。


「もしも誰かがそうしようとしたなら、全力で阻止してやる。

 お前は、お前の望むとおり、まっすぐに駆け抜けてくれ。

 きっとそれが正解で、最短ルートなんだ。俺は、そう思ってる」


 ほっこりした俺の胸に、遥臣の言葉はすんなり、あたたかく染み渡る。


「そうしたらそのあとは、お前ともう一度、一緒に歩きたい。

 はやく、夢をかなえてくれ。ユキシロの力があれば、きっとできる。

 待ってるからな、相棒」


 そうだ。いつまでかかるかなんて、悲観している場合じゃない。

 いくつもの奇跡を起こしたユキシロ製薬が、夢をかけてがんばるといっているのだ。

 俺も、この夢をかなえたら――そう。もっともっと、先へいきたい。

 もちろんそれは、俺の大事な人たちといっしょに。

 差し出された手を握れば、がぜん、勇気がわいてきた。

 遥臣からのエールは、俺の心にどこかしら引っかかっていたものを、完全に吹っ飛ばしてくれたのだった。


「ありがとう。ほんとうに……!

 あ、ハンカチ。洗って返すよ」

「ああ、ぜひ。

 そうだ。次に会うときはCDでも貸そう。

 もしなんだったら、俺の新作料理も……」


 ニコニコと、すごくうれしそうな遥臣。

 まるで、学生時代に戻ったかのよう。

 どうやら、親友と会えなくてさびしかったのは、こいつも同じのようだった。


 * * * * *


 ――その頃。

 朱鳥首相府の奥深く。一般の職員は存在すら知りえぬとある場所。

 そこで『彼』は、回線越しの人影に向けて、極秘の報告を行っていた。


「本日の報告は二つです。

 ひとつ、ユキシロ製薬への雪舞砂漠の売却について。

 遺跡調査事業ならびに緑化事業の委託費と、全域の売却額を相殺することで合意が成立しました。

 なお固定資産税についてはユキシロ側からの言及がなかったため、通例どおり次の一月一日時点で概算三億六千万が確定する予定です」


『計画通りじゃな。次は』

 さくりと答えるのは、落ち着き払った老人の声。

『彼』はよどむことなく次へと移る。


「緑化事業室副室長・鹿目誠人氏について。

 彼はうまくユキシロに馴染んだようです。

 数日内には、緑化作業の助監督としても始動します。

 なおサリュート国第一王子・イザークとの“関係”はなかった模様です」


『ふむ。いっそ、そうなってくれてもよかったのにな。

 そうすればもっとサリュートの情報が得られように』

 鼻を鳴らす人物の声はまだ若くも聞こえたが、確証はない。男か女かも定かではない。

 もっとも『彼』にはどうでもよいことであったが。


『まあよい。

 あの愚直者のことだ。あとは、放っておいてもその口から情報が流れてこよう』

『予定よりやや進行が早いようだが……』

『なあに、たいしたことではない。

 一月一日を迎えれば、最低でも三億六千万が確定する。

 いや、そのころには奴らも社屋を建て、インフラを整備していることだろう。

 愚かにも本社移転などしてしまえば周囲に出来上がるのは“あの”ユキシロ製薬城下町だ、税額は兆にも手が届くかもしれん!

 一度水道が引かれてしまえば、もう奴らに逃げ道はない。たとえ七瀬がいるとしても、無限に水を湧かせることなどできんからな!

 クラウドファンディングとて無限ではない。あの呪われた砂漠そのものに無限に金を飲まれながら、いったいいつまで持つことやら!

 ユキマイ国とやら、お手並み拝見だ!』


 過日、『彼』が行ったプレゼンの内容を、あたかも自らの着想のようにとくとくとしゃべる中年男の笑い声。

 対して『彼』はただ、慇懃に一礼する。

「彼らがこれより一月ほどで、遺跡調査を終え、緑化と域内で完結したインフラの整備とをなしとげ、かくして国家独立を宣言できねば、そうなりましょう」

 すると別の声がからからと笑う。

『ハハハ。雪舞砂漠の緑化など――これまで誰もなしえなかったことを、それもそんな短期でできるわけがござらぬよ。

 万万が一、サクレアの力を使ってなしえたところで、あの中心部の砂嵐まではどうにもならん。やつらは偉名城跡内陣まえで、永久に足踏みよ。

 やはり“ゲーム”は、我らの勝ちですな!』

『まあ、そうせくな。

 ――ひきつづき策を進めよ。下がってよいぞ』


 ひときわ深く、威厳を漂わせる声が命じる。

『彼』は、今度こそ丁重に一礼し、その部屋から立ち去った。

 手ぶらの彼はその足で、首相府を退出した。


 見上げる空には、白くかがやく月ひとつ。

 白の光に照らされて、浮かび上がった黒瞳はどこまでも、どこまでも冷たく――

 ただ、静かに見据えていた。

 それが敗北へのレールとも知らず、奔るものたちのありさまを。

 希薄で、無情な、月のひかりのように。

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