STEP4-3 王の帰還の、そのまえに(3)~そして、新たな挑戦へ~
「……だがそうなると、なかなか厄介だな」
「なにが?」
「お前の所属だよ。
暑いとこだとへばっちまうから緑化作業はダメ。
だが、地下にはもっと入れられない。
いっそあれが俺のせいなら、俺が左遷される程度で済むからよかったんだが……」
「クロウ!」
その後。飲み物を片手に俺たちは、休憩も兼ねた打ち合わせに入った。
そこであきらかになったのは、問題がさらにでかくなった、ということだった。
「そんなこときいたら、みんな悲しむぞ?
チームのみんなも、おまえのこと頼りにしてるじゃないか」
「あ、……そ、そっか?」
ほっぺたをかきながら、わかりやすく赤くなってしまうクロウ。
この、見本のようなツンデレっぷりときたら。あいかわらず、ほっこり胸が温かくなる。
こほん、と咳払いをするほうを見れば、サクがもったいぶった顔をしている。
「確かに、現状問題は多いな。
緑化班も現体制では無理がある。
奈々緒は当初の予想より“ナナキ”としての依頼が多い。
かといっていまのスノーでは児童労働にあたる可能性もある。
イザークは“外国の御曹司がお遊びできて、たまたま専門である点滴灌漑についてのうんちくを披露する場を見つけ乱入してきた”というカタチだから、これ以上のことはさせられん」
当然のことながら、今日はスノーはここにいない。
ナナっちがこられるまでの間、緑化チームのリーダーは、サクが代理としてやっていた。
しかし、鹿目さんはいた。
事業室に連絡を取り、午前はユキシロで休み、午後は現場入り……というハードスケジュールを敢行したのだ。
それでも……
「鹿目アドバイザーについても同様だ。監修のために来ていただいているというのに、現場指揮までさせるわけにはいかん。それはたとえ、ご本人の承諾があってもだ。
……かといって、わたしが毎日来るのも難しい。
早期に誰か、かわりの人材をさがしたいところだな」
「ごめんみんな。せっかくメイちゃんが、俺なら大丈夫って見込んでくれたのに」
ナナっちが申し訳なさそうにこうべを垂れた。
なんと『地下水脈を利用しての高速移動』とかいうチートまで身に着けたくせに、どんだけ謙虚なんだと俺なんかはおどろくほかないんだが、ナナっち的には『約束の時間にまにあってない以上は、同じだよ』……であるらしい。
「わたしの見込み違いだ。気にするな。
むしろ現状はお前たちの実力だ、誇ってくれ」
「ありがと、メイちゃん」
そのときだった。
鹿目さんがばっ、と立ち上がった。
「あのっ、私だったら本当にいいんです!
雪舞砂漠の緑化は……ずっとずっと、私たちの夢だったんです。
室長にも言われてるんです。こちらが立てこんだら、こちらを優先していいって。
……もっともっと、力になりたいんです。
私の、いや、俺のこと、もっと遠慮なく使ってください! お願いします!」
熱く訴え、頭をさげる鹿目さんに、サクも立ち上がった。
歩み寄り、あたたかく肩を叩く。
「そうだな。なら、まずはサブリーダーから始めてもらうか。
副室長としての仕事も、ないわけではないだろう?
じょじょに兼ね合いを見て、やっていこう。よろしく、誠人さん」
「……はいっ! がんばります!」
少年のように瞳をかがやかせ、差し出された手を握る鹿目さん――いや、誠人さんをみて、イザークはうらやましそうだ。
「いーなーマサトー。俺も働きたいなー。
はあっ、いっそマサトがユキマイの女の子だったらそっこー帰化して働けるし毎日緑化トークしほーだいだし一石二鳥なのにー」
「ごほっ?! イイイイザーク?!
俺はどこを切ってもただのおっさんだぞ?! 緑化と考古学しかとりえのないただのアラサーだぞっ?!」
「そんだけありゃーじゅーぶんじゃん。家事一般は俺ができるしー」
ゆらり、ティアさんが立ち上がる。その目元は、影になっていて見えない。
テントのなかの体感気温が一気に5度に下がった。
正直に言おう、逃げたかった。だが逃げられる気がしない。俺は確信した。やはりこの人がラスボスだったと。
「イザークさま……やはり昨晩は、マサトさまと……」
「無実ですっっっ!!」
イザークと誠人さんはすでに直立不動だ。
「あやしいですわね……」
もうだめか。そう感じたそのとき、救世主が現れた。
「ああのっ、それで、新リーダーになるひとのことなんですけどっ!
……社内公募かけてみたらどうでしょう、七瀬も含めて。
七瀬はほら、大地と水の力を持ってて、緑化も夢だったし、絶対誰か詳しい人いると思うから……」
そう、われらが勇者ナナっちがみごと軌道修正してくれたのだ!
「それはいいね!」
「いいじゃないか、賛成だ!」
みんなが口々に賛成する。
もちろんいいアイデアなのもある、が――みんな、今朝ユキシロ本社を圧したイザークの、血の凍るような絶叫(『俺は無実だあああ!!』)を二度聞きたくはないのだ。
ほら、サクまでちょっとしゃべりが早い。
「あとはサキだが……お前、キャンペーンキャラクターをやってみるつもりはないか」
「へあっ?!」




