STEP3-4 ~お散歩がえりの神王(仮)はゴスロリ天才美少女にロッカー経由で拉致られるようです~
お風呂でかなりリフレッシュしたとはいえ、ここからがっつり遊び倒すのはさすがに厳しい。
軽く町を見て歩いたら、今日は引き上げ。
サクが先頭に立ってイザーク一行(鹿目さんつき。なんか気に入られたらしい)を案内し、俺とナナっちはその後ろに護衛をかねてついていた。
……なんて言うとカッコイイが、実態はただのお散歩だった。
なぜなら俺たちの間にはスノーがいて、三人手をつないで雑談しつつ、のんびりまったり歩いているという状態なのだから。
朱鳥国政府からのプロフェッショナルが尾けてきているのは、俺にもとうにわかっていた。
イザークは今でこそ『自称王子様』だが、いずれ朱鳥がサリュートを国家承認すればホンモノの王子様となる身の上だ。それを守る、というのが名目なのだろう。
しかしその人数はけして多くはないし、身の隠し方も雑。むしろ刺さるような視線を『俺たちに』感じさせている感じすらする。
彼らはどちらかというと、俺たちチーム・ユキマイに『妙なことをするな』と圧をかけるため、派遣されているのだと考えられた。
だが残念なことに俺は、まったく脅威を感じなかった。
なぜなら、“歩く軍隊”といっても過言でないユキシロの警備員たちが、さらにさりげなくガードしてくれていることがわかっているからだ。
そもそも、妙なことなんかする気もないのだし。
心強い仲間たちに感謝しつつ、俺たちはしばし、さわやかな秋の日のお散歩を楽しませてもらうことにした。
ニコニコしながらスノーが言う。
「いいひとね、イザークお兄ちゃんて!
サキが冷気でガクブルだったの見て、それで銭湯っていってくれたのよ。
ティアお姉ちゃんが汗、気にしてるのもわかってて。
いっそおむこさんにしてあげてもいーかなー、なんて☆」
「っ?!」
「ふふっ、じょうだんよ。
イザークお兄ちゃんにはもう好きな人がいるわ。まだ、自分で気付いてないけどね」
「……マジ?」
「やっぱルナさん……?」
「あたし、こーゆーのはナイショにするって決めてるの!
じゃないと不公平になっちゃうもん。誰にとは言わないけど☆」
いたずらっぽく笑うスノー。気になる、それはめっちゃ気になるぞ。
ナナっちもなんだか気になる様子。
「お、もしかしてナナっち、気になる人いるのか? ルナさん?」
「えっ、ちっ違うよ!
ルナさんはなんていうかこう……妹みたいっていうかさ……
ルナさんも俺のことは、お兄さんみたいって言ってるし」
「だからサクがお前にゃ優しいのか……」
うん、すごく納得した。
しかしここまできっぱりルナさんを『妹みたい』といいきれるとは、いかに前々から年上がタイプだったとはいえ、ただごとではない。
もしかして、すでに気になる人がいるのか。俺はストレートに聞いてみた。
「じゃあさ、だれが気になるんだよ? もしかして恵理子さん?」
「恵理子さん婚約してるってさ」
「マジ?!
じゃあ、シャサさん? ゆきさん? 渡辺さん?」
「お姉さんたちみたいっていうか……」
「そうか! お玉さん!」
「いくらなんでも年上すぎだろ!!」
「っていうと……そうか、もしかして」
「ミーコは年下以前に猫ちゃんだよ?」
「っ……スノー」
「妹だから。」
ナナっちは優しくニッコリ。スノーからは足を踏まれた。
「みゃああ!」
「なんかいまあたしとしてはなっとくいかないチョイスをきいたわ!」
「ス、スミマセン……」
うう、スノーのやつ。
悠久のときをわたった女神であるかとおもえば、こんなふうに四歳児になる。
扱い難しすぎだろ。まあ、惚れた弱みで逆らえないが。
「じょせいにねんれいのはなしはNGなのよ!
でもサキがそんなザンネン男でいてくれたら、あたしもライバルが減るからいいけどね!」
「あはは。
……ハナシ戻すとさ。
じつは俺、まだそんな気持ちになれてない、って言うか……
ごめんな、せっかく楽しい話ふってくれたのに、申し訳ないけど」
「あ、……」
そういわれてみればそうだ。
俺がユキシロで優しい皆に囲まれているあいだ、ナナっちはひとりアズールの支配下で、作戦行動に利用されていたのだ。
スマホなんかも取り上げられて、当然外出も自由にできず……
ロク兄さんたちの無事も心配しながら、辛い日々を送っていたのだ。
「……ごめん、無神経だった」
「あっ、そういうんじゃなくて。
確かに自由はほとんどなくて、ロクにいのことも心配だったけど……
おやじたちも心配してくれて、いろいろ取り計らってくれたし。
それにあいつも言ってたとおり、あいつ俺に暴力振るったりセクハラしたりとか、一切なかったんだ。
まあ馬鹿にはされたし、なんか頭撫でたりとかベタベタしてこられたりもしたけどさ」
「それセクハラだろりっぱな!」
「いや、そこまでではなかった。と思う。
……あいつとナナキって、もしかして仲よかったんじゃないのかな。
たんに、上司と部下ってだけじゃなく」
「それはないだろ!
だって、友達だったやつを馬鹿にしたり、あんなふうに酷い目にあわせたり……
俺だったら考えられねえよ」
「そっか……
まあ、そんなわけなんだ。
そのあともいろいろあったし、気持ちの整理とかつけるのに、ちょっと時間がかかってるんだよ。
だいじょぶ。あとほんのちょっとだよ。
俺には、おまえたちがいるから」
ナナっちはにっこり笑ってくれた。
スノーは、黙って微笑んでいた。
* * * * *
サク(と警備の人たち)は、イザークたちをホテルに、鹿目さんを駅に送っていった。
戻ってきたらルナさんや俺たちと一緒に、明日の打ち合わせだ。
明日はイザークの来ユキマイ歓迎レセプションが開かれる。
夜は鹿目さんも一緒の歓迎会だし、調整することがいろいろあるのだ。
その間に、ナナっちとスノーは、ロク兄さんが取りまとめてくれていた現場からの報告を、報告書としてまとめ……
俺は今後の遺跡探索についての打ち合わせに向かった。
もっとも俺の転属は予想済みだったらしく、俺サイズの装備なんかはすでにそろえられていたし、手順といってもチームリーダー石川さんの『お前はまずは見学だ、余計なことはせず大人しくしてろ』の一言くらいしかなく、あっさりと終わってしまった。
のだが。
ほんとうに大変だったのは、その後だった。
ことがおきたのは、ミーティングルームを出ようとしたまさにそのとき。
出待ちよろしく待ち構えていたのは、仕上がったばかりの俺のスーツを手にしたしあな(相変わらずのゴスロリだ)と、数名の女子社員たち。
「面会です! これ着ていますぐ製薬部にっ! 急いでください此花さん!」
彼女らの手で強引に、俺はミーティングルームに押し込まれていく。
これは――剥かれる!
直感した俺は思わず、まだ近くを歩いていた石川さんに助けを求めた。
「ちょ、まっ、ちょっ! たすけて、たすけて石川さああん!!」
果たして石川さんは……
生ぬるーい目で俺を見ると、ふうっとニヒルなため息をついて、きびすを返した。
「うそおお?! いやああ!! みすてないでちょっちょっわ――!!」
「はいできたっ! それじゃあいきますよ。しあなさん!!」
まさしく秒速でお召し替えを完了させられた俺の前に、開かれたのはロッカーの扉。
そして俺の襟首を引っつかむのはしあなさん。
「観念しろ、さっくん。お前に拒否る権利などない。
『イブニングウォーク』ははじめてだろうが、急いでいるから我慢しろ」
悪役っぷりがまたまた加速したお言葉とともに、ロッカーのなかへ引きずり込まれる!
むぎゅっと無理やりドアを閉められ、薄闇のなか数秒の落下感に耐えれば、そこはもう製薬部のミーティングルーム。
照明を落としたままのそこにすたんと着地したとき、俺は、おもわず呟いていた。
「……りふじんだ」
と。




