STEP3-2 ユキマイ砂漠のフリーズ!~乙女の覚悟、戦士の誇り~
「………………ルーナ、ちゃん?
えっ、男だったの?! ええっ?!」
「いや、それは別人だ。すこしは似ているが血のつながりもない赤の他人だ。」
うん、ちょっとサクの物言いがつめたい気がする。
だがそれよりも俺は二人の物言いに驚いた。
俺が、ルナさんに似ているだって?
驚いているとイザークはナナっちに目を移す。
「マジっすか!
それでええっと……あの。
もしかして、そちらのナナキ、さん? くん? は…… えっと、やっぱ?」
「あっ、はい。なんでか、たまに言われますけど……男です。ごめんなさい。
七瀬家の七男、奈々緒といいます、よろしくお願いします」
ナナっちがさわやかに微苦笑しながらこたえると、イザークはお、おう、と答えたのち、かたちのよいあごに手を当て、むうと考え込んだ。
そしてひとこと。
「……ひょっとしてユキマイでは男同士もアリなの?」
「 」
記念すべき初の公賓からいただいたのは、斜め上すぎるご質問だった。
「そ、そそれはっ、ここっ今後の法整備いかんでありっ……」
俺とナナっち、鹿目さんはフリーズ。サクもあわてる(ちなみにスノーはそんな俺たちの様子におなか抱えて笑ってる)。
モデル系イケメン野郎、まさかの天然キャラ発覚だ。
「おおそっかー。じゃあ俺はやっぱルーナちゃんの」
「ちょっと向こうでゆっくり話そうか我が友よ。」
しかも無意識地雷踏み込み型ときた!
いやちょっとまてサク、それはまずい、それはまずいぞ。
サリュートは初めての相互承認をしてくれた、だいじな友好国なのに。国が国なら次期国王ともなるであろう、第一王子がじきじきに技術顧問としてきてくれたのに。
ああ、わかってない。肩を抱かれて本部テントに連れ込まれてくイザークの、あの無防備な笑顔はわかってない。『ユキシロの大魔王』がどれほどの恐怖の存在なのかを!
だが、言葉も体もままならぬ状態では仲裁もできない。
「あああ……」と悲しい声をあげ、哀れな背中を見送ることしか、俺にはできない。
これまでイザークの後ろで控えていた口元ヴェールの女性は、わかっているのだろう、申し訳なさそうに頭を下げてきた。
「もうしわけございません。我が主に悪気はないのですが……」
「そうですよね! ごめんサクやん、俺止めてくる!」
「だいじょうぶですよ、奈々緒様」
しかし、彼女はやんわりとナナっちを制止してきた。
「えっと……?」
「ご挨拶が遅れまして。わたくしイザーク様つき侍従のミーティア=レイネと申します。
よろしければわたくしのことは、気軽にティアとお呼びくださいませ。
――お二方、これはお止めいただかなくてもよろしゅうございます。
こたびのことは、殿下にもよい薬です。
国を背負って貴国に輿入れいたすのですから、これからはすこし、発言に気をつけてもらわねばと、我ら一同話していたところなのでございます。
いつもあの調子では、いずれ国際問題も起こしかねませんから。
お手数をおかけして申し訳ございませんが、貴国に仕えるよき婿となれますように、いまのうちしっかりと、教育的指導を施してやってくださいませ」
ミーティアさん、あらためティアさんはにっこりにこにこ、あくまで優しくおしとやかな笑みのまま、そんな恐ろしいことをおっしゃった。
「え、えええ……」
いや、もうすでに国際問題のような気がするけど(九割がたサクのせいで)。
「で、でも……やっぱり行きましょうティアさん! だってイザークさんはルナさんのこととか何も知らないし、悪くなんかないんですから!」
「……勇者様がおっしゃるのであれば」
すこし驚いた顔をして、それでもふんわり微笑んで、ティアさんは一礼。
そうして顔を上げれば一直線!
なびく黒髪、からげられた白いロングスカートが、甘い香りの風になる。
なんつう速さだ。見た限りで異能を使っている様子はないが、それでこの速度とは。
そんな鮮やかな姿に見とれれば、優しく放り投げられる感覚。
「ロクにい、サクやんお願い!
こらーメイちゃーん! イザークさんは初心者だからー!
優しくしてあげて! 怒っちゃダメー!」
俺の頭はナナっちのひざからロク兄さんの胸にみごとにダイブ。一瞬で行程の半分を消化したティアさんと、叫びつつ追いかけるナナっちの背中に、がんばれと声援を送ることになった。
「メイ社長からの、ご叱責……ああ、できるならばお代わりしたいっ……!」
俺を抱えたロク兄さんはというと、ナナっちとティアさんの背中を見送り、というかテントのほうをガン見して、ほうっとため息をつく。
その瞬間、冷気のコントロールはお留守になった。
俺の体に霜が下りた。
「ロロロロクにににいさんんんさぶいさぶいさぶいさぶっ」
「ああっ、咲也さん?! どうしてこんなお姿に?!
お気を、どうかお気を確かに――っ!!」
絶叫するロク兄さんとガクブルの俺の周りに、すわとスノー&七瀬メンが駆け寄ってくる。
「咲也さんッ! いま俺がッ暖めて差し上げますッ!」
「いえ俺が!!」
「俺がッ!!」
「俺がァッ!!」
「あたしもー!!」
「押忍ッ!!」
「にゃあああああ?!」
――ユキマイ砂漠での緑化作業一日目は、こんなかんじでグダグダに終了したのであった。
* * * * *
「やはり、お前はまず遺跡調査班に回ったほうがよいな。
あのへばりっぷりでは現場のやつらも心配するし、なによりお前の身体によくない」
「うう……やっぱりなあ……」
ひさびさのでっかい湯船でくつろぎながら、俺は大きくため息をついた。
あの後。
『朱鳥の町を満喫したい! とりあえずまずセントーというのに行ってみたいっ!!』
というイザークのたっての希望で、俺たちは国道沿いの『道の駅』――そこに併設されている銭湯におじゃましていた。
七瀬メンのみなさんは、刺青をしている人もいるので本社や七瀬屋敷まで戻るとのこと。
ロクにいさんには刺青はないそうだが、彼らを引率して戻っていった。
その際の弁にはなぜか「もったいない」とか「あまりにおそれおおい」とかよくわからない言葉が混じっていたが、俺は気にしない。そう、気にしないのだ。
そんなわけで男連中のなかからは、俺、サク、ナナっち、鹿目さん(←まきこまれ)、イザーク、イザークの執事兼用心棒のサーディンさんが銭湯入りしていた。
このサーディンさん。さっき見た限りはちょっと腹が出てちょっと仏頂面のふつうのおっさんのようだったが、一旦脱いだらすごかった。
確かにちょっと腹は出ているが、ムキムキなのである。
背中や腕にいくつかの刀傷も走って、もはや歴戦の勇士といった風格。
何も知らないまわりのお客さんがびびっていたくらいだ。
いやまあ、俺もちょっとはびびったけれど、そこは前世もちのアドバンテージ。傷跡はけっこう、見慣れているので驚かない。
傷跡といえば、サクだ。
サクスのころの傷跡は、まさか復活していたりしないだろうか。
それが気になって、そーっと横目でとなりを見てみた。
なんでいまさらこんなことしてるかというと、ここまでは奴を直視できなかったからだ。
俺の記憶の中でのサクは、夏ともなれば服のまんまで川にドボンして、ぬれた服を木の枝にかけてパンツ一丁でうちに帰り、俺(←まきこまれ)と一緒くたになって風呂にぶち込まれてたようなガキンチョだ。
それがまあ、突然 (……というのもなんだが)立派になっちゃったもんだから、なんだか気恥ずかしくなってしまって。
アホらしいっちゃアホらしいんだが、恥ずかしいもんは仕方ない。
大丈夫、大丈夫。全体の半分以上がお湯の中の今なら、べつにモザイクとか要らないし。ってなにを言ってるんだ俺。
――はたして結果はNO、だった。
胸元や肩、腕の傷跡。どれもこれも、きれいさっぱり。
子供のころからご自慢だった、右のほっぺのちっちゃな傷跡も。
見えるのはただ、しっかりとした骨格と良質の筋肉を包み込んだ、程よい張りツヤのある皮膚ばかり。
朱鳥人の黄色と、アユーラ人の白が程よく混ざったところに、いまは風呂の湯で温められた、ほのかな血色が浮いている。
正直に言おう、美しかった。
『カリスマ』の効果はこんなところにまで発揮されるものなのか。なんだよチート。ずるいぞチート。ちょっとは俺にも分けて……
「どうした、こちらをじっと見て?」
そのときサクが振り返った!
いや、いや、何もやましいことなんかないぞ。俺は平静をつくろい、説明を試みた。
「あっ、いいやサクさっ、傷跡ぜーんぶなくなったなって!
『前』のお前けっこー傷跡だらけだったじゃん。消そっかっていっても拒否ったし……」
「……傷跡は歴戦の勇士の証だからな。
俺にとってもそれは、誇りの印だった」
サクは自分の両手をじっと見て、遠い目をして呟いた。
そう。子供のころのサクも生傷のたえないやんちゃぼーずだったが、サクスの傷男っぷりはそれとは比にならなかった。
村の自警団に所属し、手合わせ大好き、探検大好きの少年時代。
一人前の戦士に昇格し、開拓と村の守りに明け暮れた青年時代。
村が町になり、国になるにつれ、揉め事もじわじわと増え、その規模も増した。
そんな中、サクスは王の騎士長でありながら、常に先陣を切って皆を守ってくれていた。
それでも、傷の治療は部下や仲間たちを優先し、自分は後回し。へたすると、この程度すぐ直るからと俺の治癒を拒否ってさえくるので、それで何度ももめたものだ。
「おおお、わかってくださるかサクヤ殿!」
そのとき、やつの隣から太い声があがった。
ニッコニコのそのおっさん、一瞬だれだかわかんなかった。
よくみれば現役傷男・サーディンさんだ。
それまでの仏頂面はどこへやら、満面の笑みで語りだす。
「そうともよ、傷跡は歴戦の証、戦士の誇りよ!
見よ、この刀傷こそは50と四年前……」




