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咲也・此花STEPS!! 2~訳ありフリーターだった俺が伝説の砂漠で一国一城の『にゃるじ』になるまで!~  作者: 日向 るきあ
<後半>STEP3.志士たちは砂漠に集う

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STEP3-1 ~砂漠のワカメと化したダメにゃんこ王(仮)は婿入り志望の王子様と出会うようです~

「……あづい」

 俺は本日何度目かのぼやきを口にしていた。

「あーづーいー……

 なんでこここんなあづいの?! もう十月なのに!!

 30度ごえとか朱鳥の秋の気温じゃないよっ!!」

「ここは朱鳥じゃないからな。ユキマイ国だ。

 もっとも、未来のだが」


 サクは涼しい顔でのたまった。ビシッとスーツを着込んでるくせに。

 そう、ここは雪舞砂漠。

 その、周縁地域ではあるが、すこしでも踏み入ればたちまち暑さに取り囲まれる。

 周囲に地平線しかないようなこんな場所まで来れば、もはや何をかいわんや。

 空気がからっと乾燥しているため、そこは朱鳥の夏よりマシだが、それでも暑い。暑いものは暑い。

 大きな帽子、おでことわきの下に冷却ジェルパック、首筋にひんやりタオル、服には冷却スプレーの完全装備もむなしく、もはや俺は煮すぎたワカメのような状態となっていた。

 うん、心優しい鹿目さんが、そばでおろおろしてるのもわかってる。

 でも、むり。だめなもんはむり。


「いまはまだ朱鳥国領だろーよー!!

 あー……かえりたいー……もーかえろーサクー……

 スノーフレークスだってこんなとこじゃそだたないよまじ」

「あら、わたしは平気よ!」

 涼しい顔でのたまうスノー。いや、彼女もなんでそんなに平気なんだろう。

「だって女神だもん。

 ここだったら、改良前のわたしたちでもばかみたいに爆発しまくらないですみそうね!

 さっそく土入れはじめましょ、みんな!」

「押忍ッ!!」


 スノーの一声で、ずらっとならんだ作業着姿の七瀬メンたちが一斉にドスのきい……もとい、気合の入った声を返す。その迫力、暑さも一瞬吹き飛んだ。

 そしてたくましき野郎どもはこの暑さの中、確認しておいた手順を元にきびきびと動き出す。

 いやはや、すごい統率力だ。これはひょっとしてサク顔負けなんじゃなかろうか。

「みんながやさしいからよ!

 いまのあたしは奈々緒にいさまの代理なのに、ちゃんときいてくれるんだもの!

 ありがと、みんな! あたしもがんばるからねー!」

「お嬢……!」

「俺、一生ついていきますっ……」

「押忍ッ!!」

 うん、統率力のひみつがよくわかった。

 強気かわいいスノーが、ちっさかわいい手をふってかける健気かわいい言葉に七瀬メンたちはもうメロメロ。

 そこここでばしゅーうおおおとオーラと叫びを立ち上らせながら、つぎつぎに地表の砂を掘っては、スノーフレークスを植え付けるためのコンテナをその穴に入れこんでいく。


 そう、今日は記念すべき、緑化作業第一日目。

 一日も早くユキマイ入りしたい! という俺の希望を入れる形で、前倒しして開始してくれたのだ。

 なのに俺はもうぐだぐだ。ユキマイに入ってこっち、一瞬たりともまともに頭が働いてない。

 そう、俺は極度に暑さに弱かったのだ。

 夏生まれの癖に、マジで暑いのむり。

 いまの俺にはもふいとこなどないのにまったく納得いかないが、たぶん故郷の村がわりと涼しかったから、そういうことにしておこう。


「ごめんねみんな遅れたー! イベントが……って、もう、終わりそうだね……」

 そして十数分後。本来の監督役であるナナっちがロクにいさんとともに駆けつけてきたときにはすでに、予定の作業は終わりかけていた。

「お帰りなさいませ――!!」

「おつとめご苦労様ですッ!!」

「押忍ッ!!」

「よーし、俺も手伝うよ!」

「ああ、奈々緒いいところへ。

 まずは『これ』の介護を頼む。この地の化身の癖に、この程度でゆだっているダメ猫だ」

「ふにゃー……うううう……」

 くそう、すげえ言われようしているが反論できない。ひとつには俺がほぼ限界で、いまひとつにはヤツの言うことが間違っていないからだ。

「わああ、サクやーん!! 今冷やしてやるからしっかりー!!」

「うー……にゃー……」

 草むしりがムリなのはこれもある。炎天下に出た俺はゾンビさながらの惨状となるのだ。

 しばらくはナナっち同伴でもないと、ここにはこられないだろう。

 作業の監督や手伝いもするのだし、車を密閉して閉じこもってるわけにもいかないのだから(それ以前に一定以上密閉度を上げたら俺は“シックハウス症候群”で大変なことになるだろうが)。

 だが、ナナっちだって“勇者ナナキ”として、イベントやマスコミ対応で忙しいのだ。いちいち付き合わせるわけにも行かない。さて、どうしようか。

 ナナっちの操るここちよい冷気に包まれ、ようやく働きはじめた頭を回転させ、俺はうなった。


「うおーい! そちらユキマイ共和国の方ですかーい?」


 そのとき、はるか向こうから陽気な声が聞こえてきた。

 いい声だ。からりとハスキーなのにどこか深く、透明感がある。

 そっちのほうに視線をやれば、アラビアンナイトの王子様がいた。


 白っぽい布をかぶったその男――もうすこし具体的に言うならば、適度に彫りの深いエキゾチック系褐色イケメン野郎――は、鈍い金色の長髪をサラサラなびかせ、ニコニコと陽気に手を振りながら歩いてくる。

 彼の後ろには、やはり布をかぶった黒髪エルフ(踊り子)とターバン装備の白髪白ひげドワーフ(商人)。

 もとい、色白細身の若い女性と、けっこう日焼けしかなりガッチリ、背がすこし低めで仏頂面と取り揃えた恰幅いいおっさんが続く。


 観光客だろうか? それにしては、イケメン野郎はやけにキラッキラしてるし、後ろの女の人も、口元の半透明のヴェールのせいか、つつましい中になんだか気品を感じる。

 そしてターバンのおっさんはなんか、普通。仏頂面はそうだけど、普通すぎるくらい普通。

 一体、何者だろうか。


 サクが警戒した様子で進み出、誰何した。

「誰だ? ここは今関係者以外の立ち入りを制限しているが」

「いーや関係者関係者ー! じゃん!」

 なぞのイケメンが示すのは、何かが書かれた一枚の紙。

 なんかサインやもよう(?)とかもみえるし、なんだかすごい紙なのだろう。

 現にサクが、丁重な敬語になって深々とお辞儀までした。

「サリュート国の方々でいらっしゃいましたか。大変失礼を致しました。

 ――第一王子・イザーク殿下。ならびに従者の方々。

 遠路はるばる、ようこそおいで下さいました。

 我らユキマイ国民一同、心より、おいでを歓迎申し上げます」

「ああ、俺にはみんなタメでいーぜ。王子なんつっても、くにでは婿入り要員だからなっ。

 シゴトのハナシするんでも、かたっくるしいとよけーな手間かかんだろ?

 俺のことはただの、ちょー優秀なモデル系イケメン技術者として扱ってくれよ。よろしくな!」

「そうか、ではありがたく。

 わたしはサクヤ・イワナガ・メイ。ユキシロ製薬CEOだ。われらのこともタメで頼む」

 ふたりのイケメン野郎はどうやら馬が合ったようで、笑顔でがしっと握手を交わした。

 二人でこっちに歩いてきつつ、気軽な感じで言葉を交わす。

「ところでイザーク、どうしてここに?

 連絡くれれば、予定を繰り上げ出迎えたものを」


 たしかにそうだ。

 国際社会がみるサリュートは、アル=レイム連邦国東部のオアシスを拠点とする『自治区』。イザークも長の弟の『自称王子様』という扱いでしかない。

 さらにユキマイは、ネットでの建国宣言はなされたものの独立宣言はまだで、国ですらない。

 けれど、お互いの意識では、お互いは立派な国家。

 だからこそ、国家としてのおもてなし作法――プロトコールは遵守したいところだった。


 だが『国際的にはただの旅行客』である男は、『それ』らしくひらひらと手を振って笑う。

「その点は悪かったわ。

 だが、技術指導顧問として、一刻も早く現場見たかったからさ。

 それと、友好国の王になる男の顔もな、サクヤ」

 イザークがぱちっとウインクを飛ばすと、サクは気まずい顔で黙り込んだ。

「……。」

「……

 あれ、違った?

 俺はてっきり、しゃちょーがまんま王になるんだと……あれっ?」

 その場がなんともいえない空気に包まれた。

 イザークはきょろきょろと見回して、鹿目さんに目を留める。

「あひょっとして、そちらの方が王さまだった……?」

「いっいえ! 私は鹿目誠人と申しましてっ! あ、朱鳥国からアドバイザーとして派遣されている者でしてっ……」

「あれ、なんか一番年上そうだしてっきり……あ、そっか。

 朱鳥国の外交官さんってわけだな!

 よろしく鹿目さん。俺はイザーク・エル・サリュート。サリュート国の第一王子です」

 にっこり笑顔で手を取られ、鹿目さんは大慌てだ。

「あ、あああ、よよよろしくお願いしますがちがいますー!

 そりゃ室長は手書きで『信書』とか書いた手紙もたせてきましたけど俺は副室長という名のただのいち官僚ですのでー!!」

「え、そうなの? ごめん。

 それじゃあ……?」

 するとサクが、生ぬるい目で俺を見る。

「……そこでへばっているのが、われらが王だ」

「…………にゃー」


 なんてことだろうか。記念すべき盟友となる男との、最初の挨拶が人語にならないとは。

 しかも友のおひざにあたまのっけて介抱されながらとか。

 とどめに現場作業を仕切ってるのは幼女にしか見えない婚約者。

 此花咲也、一生の不覚だ。

 だが、イザークはラピスラズリの瞳で、じいっと俺を凝視した。

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