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咲也・此花STEPS!! 2~訳ありフリーターだった俺が伝説の砂漠で一国一城の『にゃるじ』になるまで!~  作者: 日向 るきあ
<後半>STEP2.はじまりの嵐

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STEP2-2 残酷すぎる豊穣神のテーゼ~その奇跡は、はないきですか~

 テイクアウトのチャーハン弁当 (たまごスープつき)をふたつ調達し、俺は予約した部屋に向かった。

 ドア脇の液晶プレートにはもう、此花の文字が表示されている。

 そこに社員証をかざせば、電子ロック式の扉はすんなりと滑り、俺を迎え入れた。

 弁当をテーブルに並べれば、社用ケータイにはもうサクからのメールが着ていた。

『今行く』だけの簡素なもの。俺も『うい』とだけ返し、とりあえず弁当を広げた。


 チャイムの音がなったのは、弁当の1/3が胃の腑に収まった頃だった。

「どーぞー」

 インターホンをとってもよかったのだが、面倒なので身体強化して声を張り上げた。

 すると、背後で軽い音とともにドアが開いて閉じ、サクの気配と足音が近づいてきた。

「サキ? そのまま、弁当を置いて口の中の物を飲み込め」

 にこやかな声の言うとおりにするがはやいか、俺の後頭部にチョップがめり込んだ。

 半日ぶりのメシを中断された俺はもちろん、全力すまいるで立ち上がる。

「サ~ク~さ~ん?

 俺は共通語わかりますからね?

 肉体言語でいちいち語らなくってもちゃんっと理解できますからねっ?!」

「ん、あっ、ああ。

 ……あーと、その、すまん」


 サクはいつになく、しょぼんとした顔でわびた。

 これは――ガキンチョの頃、ごはん中のにゃんこにちょっかいだしてフーされたときの顔だ!

 さらには何だかしおらしくスーツを脱ぐと、向かいのいすのはじっこに腰を下ろしてそーっとこっちを見る。

 まったく、これだから憎めない。俺は自分から軽い調子で声をかけた。


「チャーハン弁当。好きだろ?」

「……ああ。

 サンキューな。いただきます」

「まっ、お前の金だけどな!」

「違いない!」

 そうして笑いあえばもう、いつもどおり。

 俺たちはたわいもない言葉を交わしつつ、しばしまふまふと昼飯に興じた。



 ご馳走様を言い終えると、俺たちはサクが持ってきてくれたお茶で食後をシメた。

 ようやくサクが本題に入ったのは、そのときだった。


「改めて、さっきは悪かった。

 もう少し、気をつけるようにする。

 それにお前は、王になるんだしな。臣下の俺がそんな風にしたら、国民の前で示しがつかない」

「いいってそんなの。

 ただ説明はちゃんとしてくれよ? お前が意味もなく俺にチョップするような奴じゃないのはわかってるから。いきなり怒った俺も悪かったけど」

「ありがとう。

 ……理由は、お前に自重してほしかったからだ。

 インターホンを取るのが面倒だから、などという理由で、貴重な力を無駄遣いしてほしくなかった。

 ちょうどそのことについて、話をしようとしていたこともあって、つい」

「それって、『ゆうべのこと』か?」

「ああ。

 昨日の深夜から今朝にかけ、お前はなにをしていた?」

「えーっと、『プロジェクト・ユキマイ』本部に入ったら大変そうだったから手伝ったけど、それがなにか……?」

「やはり無自覚か。

 そのときお前は、その場の全員に『リバイブ』を使っていたのだ。

 微弱なものではあるが、確かに」

「ええっ!

 マジに? 俺なんか成長してねっ?!」


 俺はそれを聞いてうれしくなった。

『癒しのもふにゃんこ王』……もとい、神王としては、なすべき仕事ができてたということではないだろうか。

 もてる力で皆を癒す。これこそ俺にできる、最高のことじゃなかろうか!


「それは認める。

 だが、その調子でポンポンと力を使うようになれば、早晩枯渇してしまう。

 そうなれば、前世の二の舞だぞ」

「えええっ?!

 だ、だいじょぶだって。今回はそんな何度も大怪我とかしてないし――」


 まあ、高速バス事故の後は一度記憶が飛んだが、けっきょく戻ったから死んだわけではないのだろう。きっとあれは、そう、絶妙な死にかけだったのに違いない。

 あとやばそーなのは、運動公園でのアズール戦と直後の脱走未遂。それと、火曜のシノケン戦ぐらい。


「それに俺、未覚醒の無意識だって植物成長させちまうくらいすごいんだし!」

「それとこれとはケタが違う。

 お前が無意識に振りまいていた『豊穣神の吐息』は、サクレアであるお前がただ『いる』だけで効果を発揮する『常動型アビリティ』――まあ、いうなれば鼻息のようなもので、それだけならば大した消耗にもならん」

「……はないき……」


 せめてため息とでも言ってくださればいいものを。確かに、無意識ならばいつも出てるし意識的に調節も可能ってなら間違ってはいないんだろうがさ!

 だが変なところでトボケた隠れ天然野郎は、そんな想いに気付くこともなく続ける。


「だが『リバイブ』となると話は別だ。

 高密度に凝集された賦活の力を作り出すには、それなりの代償が要る。

 お前のそれは、ユキマイの地力だ」

「へ?

 ユキマイって、雪舞砂漠だよな?

 あすこに地力なんてあったっけ?」

 地力、すなわち、植物を育てる養分。

 そんなのあったら、あそこはそもそもあんな砂漠じゃないはずだと思うが……

「考えるな、感じろ」

「どこのカンフー映画っすか?!」

「まじめにだ。

 お前はあの地の化身なのだぞ。それがその程度感じ取れなくてどうする」

「むう……」

 そういわれてみればそうだ。目を閉じ、意識を凝らしてみる。

 そうすれば、遠く東、輝くような息遣いを感じる気がする。

「……パターングリーン」「どこのセカイ系アニメだ。」

 おでこに突っ込みチョップがめしり。まあ、今回は優しいが。

 目を開ければ、サクはちゃんと地力のひみつを説明してくれた。


「雪舞砂漠の砂の中では、周囲からの浸水や、それとともに流入した有機成分、風に飛ばされてきた草木のかけらなどが、沈みながら出会い、変化し、地力の源を形成している。

 一つ所にまとまってあるわけではないため、ヒトの手で掘り出して耕作に使うことなどはできないし、地表で植物を養うこともまだできない。

 それでも、雪舞全域の土壌全てを総合すれば、その蓄積は莫大な量となる。

 25年前にそれが、ユキマイの化身・サクレアを再生しうる量に達した。

 ゆえにお前が、お前の眷属である俺たちが転生し、お前の半身であるスノーフレークスの種子が発芽したのだ」

「ほええ……」

「話を戻すと、お前はユキマイの地力をくみ出してエネルギーに変換。自分の体内で使用するとともに、外に放つパワーとして行使しているのだ。

 パワーソースであるユキマイの地が富めば、それだけその力は増す。

 逆に、前世のように力を使いすぎ、ユキマイの地力が枯渇したときは――

 お前を含め、サクレアの名の下にある者は全て力を失う。敵対者がいる状況であれば、すなわち死以下の運命を意味するだろう」

「っ……!!」


 俺は、声を失った。

 これはそんなにも、重いことだったのか。

 いや、少し考えればわかるはずだ。

 どっかのビジネス書にもあった。『無料のランチはない』。

 タダでトクすることなんか、この世にはないのだ。それは神の領域であっても。

 これから王様になるというのに、そんなことにも思い至らないとは。それはサクも、チョップかましたくなるはずだ。


 思った瞬間、頭を下げていた。

「ごめん。俺……!」

「顔を上げてくれ。もっとはやく、教えておかなかった俺も悪い。

 まさかここまでお前の成長が早く、力の行使への抵抗もないとは思わなかったからな」

 顔を上げるとサクもすまなそうな顔をしていた。

「もしかして、『ツイブレ』好きだったからかな。

 赤と青の勇者や、その仲間たちってお手本があったから……」

『ツイン・ブレイブ』。それは俺たちみんなのバイブルだった。

 勇者をはじめとする登場人物たちは、毎回いろいろな魔法を使い、俺たちはそれに憧れた。いつかきっと、俺もできるようになりたい、きっとなるはずと夢見てた。

「……もしかしてお前、こけて怪我したときとかこっそり『キュア・レイ』練習してたか?」

「してた」

「やっぱりな……

 俺もしてた」

「っ……!!」

 おお、サクよおまえもか。想像したら笑えてきた。

「イサや奈々緒もやってたか聞いてみるか!」

「賛成! そうだ、亜貴にもメールしてみよう!」

「あいつは確実にやってるな、奴のケータイストラップ『ツイブレ』限定のだったぞ」

「そういやそうだー!」

 一瞬、あの男――アズールもそうだったのかとふと思ったが、いまここで奴の名を出すまでもあるまい。

 それはほっぽり投げといて、俺たちはしばしツイン・ブレイブ談義に花を咲かせた。



 さて、そんなかんじでひとしきり笑い転げると、サクはもういちど真面目になった。

「『プロジェクト・ユキマイ』本部の連中は皆感謝している。

 お前がしたのは、いいことだ。それはまちがいない。

 ただな、お前は優しすぎる。ほっとくとみんなのために、どんどん力を使ってしまう。

 今ここでそれをしたら、またお前が『枯れて』しまうかもしれない。

 俺たちはそれが心配なんだ。

 だから頼む。少しだけ俺たちに任せてくれ。

 ユキマイに出るまでの間でいい。力を養っていてくれ。

 かならず、ユキマイを前以上の豊かな土地にする。

 そうして、お前がなんの不自由もなく、世界中のみんなを救えるよう、がんばるから」

「ありがとう。

 でも、ピンチのときは頼ってくれよ?」

「ああ」


 俺たちは、どちらからともなくこぶしを打ち合わせた。

 やっぱりこいつは、わかってくれている。そう思う。

 サクレアだった頃の俺は、自分とスノーフレークスの力で、世界中のみんなを――人も動物も植物も、みんな助けてやりたいと思っていた。


 たしかに、他国の王に仲間を拉致られたと聞いたときは怒ったが、それだって必要以上に痛めつけたりとか、そんな気持ちにはなれなかった。

 ちゃんと皆を返して、皆に謝ってくれれば、それでよかった。

 そうしたら、やつがそうしなくちゃいけなくなった理由をいっしょに解決してやって、やつも一緒に、みんな仲良く笑って暮らしたかった。


 結局俺のそんな気持ちは、アズールにより利用され、他国侵略の糧にされていたのだが……


 こんどは、今度こそは。

 この目で世界を見て、困ってるやつがいたら、助けてやりたい。

 傷や病を癒して、元気に、しあわせにしてやりたいのだ。

 いまの俺の夢は、自由の大地の再生だ。

 だが、その向こうにはまだまだ、夢は続いてるのだ。


「それで、提案なのだが」

「?」

「ルナをお前の手足として、側近くに置く気はないか」

「え――!!」


 しかし、サクが言い出したとんでもない提案に、俺は全力で叫んでいた。

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