STEP1-4 ~王さまの手、王さまの心~
「はああもう……チカケン戦よかよっぽどびびった……」
「ふふっ、お疲れ。
サクやんが元気になって、ほんとよかった。
イサがフォローしてくれたから大丈夫なんじゃないかなっては思ってたけど、やっぱいま聞いといてよかったよ」
あの、恐怖のエンカウントバトル(しかもラスボス)からの生還を果たしたのち。
イサはほかのやつと約束しているというので解散。『メシどう?』メールをくれていたナナっちと合流し、二人でいっしょに社食に向かった。
ナナっちは、昼間の件を心配してくれていた。
やつにとっては初の役員会議だったというのに、隣でいきなり変なこと言い出しちまって、あれはほんとに悪かった。
社食への道中そのことを謝り、さきの顛末を話したら、ほっとした笑顔でねぎらってくれた。
本当に本当に俺は、友達に恵まれている。改めて実感した。
だがだからこそ、心配になった。
適度な混み具合の社食の中、よさそうな席を物色しつつ、聞いてみた。
「そういや、そっちどうだったよ?
あいだにスノーもはさむけど、それでもルナさんとカップル役だろ。
サクのやつあの調子でブチ切れまくったりしてたんじゃ……」
「いや、それはなかったよ。
ぜんぜんふつうに冷静でさ、いろいろいいアイデア出してくれた。
キャラクターがふえたのを機に、アパレルブランド立ち上げるとかさ!」
「マジ……?」
思わず俺はナナっちを凝視していた。
ナナっちはいつもの穏やかな笑顔。嘘を言っているようには、見えない。
ということは、本当なのか。あの末期シスコン男が。
「やっぱ、スノーになんか言われてたせいなのかな……
それにしてはさっきは追っかけまわされたしなあ……」
「これは推測だけどさ、やっぱシゴトだったからじゃないかな?
メイちゃんは社長だろ? シゴトのために、自分を抑える自制心は人一倍あると思うよ」
「そっ……かなー……?」
俺もーなんども仕事中にチョップされてる気がするけど、もしかして幻覚だったのだろうか。
「それに俺はまだ、メイちゃんと会って日が浅いだろ?
前世から仲間だったサクやんたちと、扱いは違って当たり前だと思うんだ。
……ちょっとうらやましいけどさ」
「いやっそのまんまのほうがいいって! この件に関してだけは絶対!!
お前とロク兄さん以外の男全員そういうから!!」
あんだけサクにうっとりしまくってるロク兄さんのことだ、もしかしたら俺がチョップくらってるとこなんかも羨んでたり……なんて、もちろん冗談だ。これはあくまで、ツッコミまちのツッコミボケだ。
しかしナナっちから帰ってきたのは、深ーい納得の声とうなずきだった。
「あー……。
たしかにロクにい、たまーにうらやましそうだなー……」
「マジにっ?!
うあああ……そろそろリコンストラクションいかなきゃなのかあ……」
サクの『カリスマ』はぶっちゃけチートだ。ロク兄さんはいまだにそいつの影響下にあるらしい。
ご本人を見る限りは毎日とってもしあわせそーなんだが、やっぱそのままにしとくのはまずい気がする。主にロク兄さんの人生航路的に。
「んー。それはだいじょぶじゃないかな。
実はロクにい、ゆきさんといいかんじなんだ」
「マジで?!」
「うん。ゆきさんと話してるとき、ふたりともすっごいいい顔してるもん!」
「お似合いかもー!」
「だよなー!」
「ってことは、将来的にゆきさんがナナっちのお姉さんか……
そして、妹が、スノー……」
――俺はいままさに大変なことに気が付いた。
姉貴がいる俺から言わせれば、リアルの女きょうだいというものは特に素晴らしいものではない。かといってすごく悪くもないし……まあ、なんというか、『普通』のものだ。
だが、ゆきさんやスノーのような『特別』な女子がそれだったなら話はまったく別だ!
スノーが妹になったら俺は泣くがスノーの『ような』妹だったらバンザイだ!
ゆきさんがお姉さんになってくれたらもはや死亡フラグを疑う!
ひとことでいえば、世の男としてみりゃこれはもーうらやまけしから! もしも俺がナナっちだったら、嫉妬からいちゃもんのひとつふたつつけてこられたってまーしかたねえよなとあたたかく聞き流してやれる自信がある(三分ぐらいなら)!
だがそれは、文句を言われるのが俺の場合だ。
ナナっちはそんな、不埒なことを考えるような奴じゃない。そのナナっちがいわれのない非難にさらされるなんざ、友として断じてほうってなんかおけない!!
「ナナっち!! お前は俺が守ってやるからな!!
嫉妬に狂った男どもが文句言ってきたって、絶対守ってやるんだから!!」
だが意気込む俺に対し、ナナっちはにっこり微笑んで――
「なにいってんだよサクやん。
サクやんはスノーさんの婚約者で、つまりは俺の弟になるんだよ。
弟や妹を守るのは兄貴の役目。
だってのに文句の一つや二つ、なんてことないよ。
俺だって、いつまでもうじうじしていたガキじゃないんだ。そのくらいなら任せてよ」
――あっさり余裕で返されてしまった。
いや、だからって引っ込みはつかない!
だって俺はまた見てしまっんだ。傷ついたココロを押し隠す、ナナっちのあの悲しい笑顔を。それも、たったの数日前に。
いや、そんときと比べたらこんなんどーってことないちっさな問題だろうけど、高校入って2.5年、ずーっとナナっちを守ってきた自称・兄貴分としてはやっぱり、どうしたって心配になっちまう。
「で、でもっ、スノーはお前の神さまだし、俺はその半身だから!」
「俺はスノーさんとその巫女であるルーナさんの騎士だよ。当然お前もまもれなきゃだろ?」
「…………。」
はい、完璧な返り討ちでした。
俺はまたしてもすぐそこの席で人間スライムになってしまった。
「……まじめなはなし。
今の俺があるのはさ。お前がともだちになってくれたおかげなんだ。
学校で皆と仲良くなれたのも。おやじたちと和解できたのも」
けれどそんな俺のうえに、優しい言葉がふってきた。
「みんなや、ユキシロとの縁をつないでくれた、お前のおかげなんだ。
しってる? おやじさ、亜貴さんのお父さんと仲良くなったんだよ。
五条さんたちも、しあなさんたちとすっかり仲良くなったって。
みんなみんな、お前が優しく手を差し伸べたおかげなんだ」
いつものあったかい手が、ぬくもりを伝えるように頭に置かれる。
子供の頃、俺が泣いてるとおふくろがしてくれたみたいに、優しくゆっくり撫でてくれる。
「お前はいまのまま――優しくみんなを見守って――ほっとけなく思ったら手を伸ばしてくれれば、それでいいんだよ。
おまえは、おれたちの心の中では、とっくに立派な王さまだよ。
だから、まもりたい。
すくなくとも俺は、そう思ってる」
首をねじってナナっちを見れば、その目はとてもあったかで。
俺の目から、どっと汗が出てきた。
しかも、なんだか止まらない。
「はい『汗拭き』。
定食、代わりにとってくるよ。どれがいい?」
「……ナナっちとおんなじの」
「了解。その席そのままとっといてね」
「……ん」
できすぎるくらいにできた相棒は、俺にさっとハンカチを握らせると、俺が差し出した社員証を手にカウンターへと歩いていった。
俺が守る、なんていっといて、情けない気がした。
けれど、どうしても目からの汗が止まらない。
だから、今は甘えることにした。
心の中だけじゃない、心の外でも頼れるような、立派で優しい王さまになろう。
一日も、一時間でもはやく。
そのために、もっともっとがんばろう。
勉強に訓練。仕事も、仲間たちのことも。
わからないことがあったら聞いて、できるようになって。
そうしてもっと、みんなの力になろう。
ナナっちのハンカチに顔をうずめて、俺は再び決意を固めた。




